タイペイストーリー(ヤナギタ物語2)

ぞうむし

第1話

「バッサリ髪を切ったら思い出まで消えちゃった
髪は記憶媒体」


いすゞの8トントラック
フォワード
車内に設置された8インチディスプレイの中では
長い真ん中分け、プラチナ色の髪
蜻蛉のように大きなサングラス
左利き用に弦を張り替えてあるグレコのアコースティックギター
シンガーソングライター
ヨシノ ヒカリが歌っている。


ビャビャビャビャ(トラックの排気音)

クリスマス前
街はイルミネーションでキラキラしている。


助手席に座るのは
24歳、茶髪、
作業服の下にパーカーを着た男ナカムラ

ナカムラ「ヨシノ ヒカリいいっすねー!」


「ああ、「今」はな」

と答えたのはヤンキースのキャップ、横から出るもじゃもじゃの髪の毛、作業服は腕まくり、太い筋肉質の二の腕、岩のような顔だが目は優しい38歳のヤナギタ。

ナカムラ「今?」

ヤナギタ「ああ、今の彼女の魅力は若くて(サングラスはかけてはいるが)可愛いくてエキセントリックなところだ。」

ナカムラ「はあ?」

ヤナギタ「あとは伝えたいという気持ち」

「その伝えたい気持ちが無くなった時彼女は輝きを失うんだよ」

ナカムラ「なんで無くなるんですか??」

ヤナギタ「恋だよ、、」

ナカムラ「はあー??!」

ヤナギタ「ほんとに好きな人が出来たとたん無くなるんだよ。」

ナカムラ「ぇえー?!マジッすか?!
なんでっすか!?」

ヤナギタ「伝えたい対象がそいつだけになるからさ」

ナカムラ「、、なんか、、すげぇっすね、ヤナギタさん、いろんな意味で。。」


ー タイペイストーリー ー


ヤナギタ「ところでナカムラぁ、
お前もう伝票とか荷物の種類覚えたよな?」

ナカムラ「はい!バッチリっす!!」

ヤナギタ「じゃあと頼むわ」

ナカムラ「え??」

ヤナギタ「オレ、今度の土曜日から休むからよ」

ナカムラ「えー!?今度ってまだ24日っすよ!早くないですか?」

ヤナギタ「ああ、今年はもうオフに入って台湾行ってくるわ〜」

ナカムラ「えー!?いいなー!!何しに??」

ヤナギタ「、、何しにってお前旅行以外何かあるか?」

ナカムラは あー、、という顔をした。

ヤナギタ「、、何だ?、その顔、、」

ナカムラ「あれっすね、あのケーキ屋のコのせいっすね?」

ヤナギタ「ちっ違う違う!!」

ナカムラ「ヤナギタさんケーキ屋に通いつめて5キロも太ったってーのに、、人妻だったなんて、、」
「傷心旅行ってやつでしょ?」

ヤナギタ「ちっ違う!もう体重戻ったし!オレは台湾が好きでちょくちょく行ってんだよ!」

「ちょくちょく?失恋のたびに、、?」
ナカムラは可哀想、という顔をしている。

ヤナギタ「やめろナカムラ!その顔!!」


〜台湾桃園国際空港〜


レイバンのサングラス
ハンチング
ネルシャツ腕まくり、
オメガの時計
Leeのブーツカットにレッドウィング。
キャリーケースひとつのヤナギタがいる。
「やっぱ暖かいな、、」

「あの、すみません」
ヤナギタの後ろから聞こえた声は
優しく柔らかい、
身長157センチ
黒い前髪はパッツンと揃い、長さは肩甲骨くらい、ダウンにスキニーパンツ、ニーハイブーツを履いている。まつ毛は長く唇は厚い、黒目が大きい20代前半だろうか、
大きな荷物をふたつ持っている。

ヤナギタはその姿に見惚れていた。

「あの、台北行きのバスって、、」

ヤナギタ「え!?」「ああ、台北に行くの?そう、あれだよ」

長栄海運大楼と書かれているバスを指指した。

ヤナギタ「すごい荷物だな、長期?」

パッツン「いえ、決めてないんですけど、」
ヤナギタはパッツンの荷物と自分の荷物をバスの運転手が荷台に入れるのを手伝った。

バスの車内は空席が目立つ
ヤナギタが窓際の席に座るとパッツンは当然のように隣に座ってきた。
ヤナギタはえ?となりキョロキョロと空席を確認した
(ま、いっか)と満更でもなくにやけた。
バニラのいい香りがした、
ヤナギタはバレないようにゆっくりと匂いをかいでいたら
ふガッ!っと鼻が鳴った。
パッツンはぷっ!と笑った。

「カヲルです!」

ヤナギタ「あ、あ!ヤナギタです!ヤナギタクニヒコです!」

カヲル「台湾にはよく?」

ヤナギタ「ああー、年に一回くらいね」
「台湾初めてみたいやね」

カヲル「えー、海外旅行自体が初めてで、、」

ヤナギタ「あー、それなら台湾はピッタリだよな」
「親日だしな」

カヲル「そうそうめっちゃビビリなんでヨーロッパとかは怖くて、」

ヤナギタ「あーそーだな、学生のころフランス行ったときなー、小さい雑貨屋に入ったら店主がじいさんでさ」

「安心して色々買ったら まさかのぼったくりでな、払わねぇってジェスチャーしたら油絵のナイフで刺されそうになったことあるよ!」

カヲル「ええ?それでどうしたんですか??」

ヤナギタ「いや、払ったよ」

カヲル「ぼったくりの額を?」

ヤナギタ「そう3倍くらいの金額をね、」
ふたりは同時に笑った。

「そうだ、宿はどこ?それによって降りるとが、」

カヲル「えっと、たしかW、、」

ヤナギタ「W台北飯店?!」
カヲル「そう!それ!」

ヤナギタ「はー、リッチだなぁ、」
「なのにバス?」

カヲルはうへへと笑い
「だってもったいないじゃない」

ヤナギタも笑顔で「たしかにな、ならオレと同じとこでいいよ」

国際貿易センター
その隣にあるW台北飯店

カヲル「うわー高い!!」
くるっと振り向き
「ヤナギタさんありがとうございました」

ヤナギタ「よい道中を」
カヲル「ヤナギタさんも」
カヲルは何度も振り返り手を降った。

(すげぇ可愛いかった。。せめてメアドでも、、)
ひとりになったヤナギタは貿易センタービルを見上げ
「さあて、」
「(心の声)俺の宿まで」
「けっこう遠いな、」
と頭をかきながら歩き出した。


夜


12月だが台湾は日本に比べ暖かい。
だが現地の人たちはダウンなどで厚着だ。

ヤナギタは一軒の茶屋に入った。


店内には大きな仏像が鎮座している。
烏龍茶、半発酵の台湾茶、花茶
ありとあらゆる種類の高級そうなお茶がディスプレイされてある。

カーテンの奥から長い白髪を後ろで束ねた60代くらいの女性が出てきた。
皺は多いが目の力は強く凛としている。
「よく来たね」

ヤナギタ「慧君先生!」

慧君はニヤリと笑い
「またフラれたね」
「お入り」


慧君は大きなノートのような形をした本を指でなぞり
「ふーん、、」と頷いた。

ヤナギタ「先生の言うとおり出会うのは出会うんだけど、」

慧君「まあ あなたにとっての本当に出会ったら人妻とか相手の「状況」は関係ないんだけどね」

ヤナギタ「先生、オレはその本当にいつ出会えるのかが知りてぇんだよ」

慧君はふーっと息を吐き
「私がその時期を言わないのはね」
ヤナギタは息を飲む

慧君「それを知ることによってヤナギタ君の運命が変わってしまうからなんだよ」

ヤナギタ ?

慧君「あなたが好きになったひとと交わす言葉や経験、想いが、その時期を決めるの」

「ヤナギタ君が持っている器に水が継ぎ足されていくイメージね」

「その水はカルマと呼ばれたりするんだけど、」

「期を知ってしまうとね、それまでに踏んでおかなければならないものを飛ばしてしまう可能性が出てくるの」

ヤナギタ「てことは、オレは出会えるってことですか?」

慧君「ええ、必ず」

ヤナギタ「どうすれば、、」

「出会う人すべてを本物だと信じて誠実に丁寧に接しなさい」

「次出会った人が本物かもしれないわよ」

「、、て、いうか、、あなた今ちょっと気になる人がいるわね?」

ヤナギタ「は!?いや!!連絡先とかも知らないっすよ!」

慧君はノートをなぞり何か勘付いたような顔をして
「ま、その人とはまたすぐに会えるわよ」


ー士林夜市ー


飲食、衣料が雑多に並んである、人も市場も熱量が高い。
ヤナギタは揚げ餅を食べながら歩いていた。

「ヤナギタさん!!」
ワインの瓶を持ったカヲルが後ろから話かけてきた。

ヤナギタ「おお!かっカヲルちゃん!!」(嬉)

カヲル「いやー偶然偶然!」

ヤナギタ「酔っ払ってるなー」

カヲル「うへへ、クラブに行って参りました!」

ヤナギタ「へー!クラブか~、そういや行ったことないや、どうだった?」

カヲル「ダフトパンクとかフロウライダーかかってて超たのしかったっす!」
「やー台湾いいわー!でヤナギタさんは?」

ヤナギタ「ああ、あてもなくブラブラとね」

カヲル「んー!それならばこれからお酒でもご一緒しませんか??飲み足りないので」

ヤナギタ「そ、そうだな、いいな!」


ー茶酒 沙虎ー


古いビルの地下にあるBAR
こじんまりとしている
一枚板のカウンター、間接照明、
50代くらいのオールバック、丸眼鏡、カッターシャツにベストのマスター。

「うひゃー渋い!」
カヲルは嬉しそうだ。

ヤナギタ「ハイボールを」
カヲル「同じく!」

カウンターに置かれたハイボール。

ヤナギタ「なんでまたこの時期に一人旅を?」

カヲル「率直にいうと、、」

ぐいっとハイボールを飲み、
コトン、と置いた。

「失恋ですわ」

ヤナギタはえっ?となる。

カヲル「いや、違うな、正確には燃え尽きた?」

ヤナギタ「ん?燃え尽きた?」

カヲル「そー、忘れようと思ってめっちゃ難しい仕事に打ち込んでそれを達成しちゃったら」

「なんかポカーンってなっちゃって」

ヤナギタ「そうか、よっぽど好きだったんだな、、」

カヲル「そう!全てでした!!」
「あんなに愛してるって言ってたくせに、」

「お前との未来が想像できないって言われちゃって、、」
わーん、と泣きながら「ヤナギタさんは?」

ヤナギタはめっちゃカッコつけながら、、
「オレも同じさ、」

カヲル「えっ!?失恋!?」

!?
ヤナギタ「いやいや!おっさんだって失恋するわ!!」
「おじさんなのにって思ったろ?」
カヲル「違います違います!結婚とかしてそうだなーって!」

「あっ」

ヤナギタ「え?」

カヲルは何かに気づく、
店内のBGM
「テレサテンだ、、」
カヲルはそれにあわせて歌い出した。

ヤナギタは聞き惚れ、
歌い終わるとバーテンは静かに拍手をした。
ヤナギタ「すげぇな、、」

カヲル「うへへ、お母さんがよく歌ってたんで」


ー夜の街ー


W台北飯店のエントランス

カヲル「よーし飲みなおします!」
フロントにペコペコ頭を下げながら「部屋はまずいよ!」

カヲル「だーいじょーぶ!!スウィートルームだぞ!」
とヤナギタの手を引いた、
真顔で見つめる。

ヤナギタはドキドキした。
それを見たカヲルはニコリと笑った。

キングサイズのベット
ラグジュアリーな室内

ヤナギタ「すげぇな、」

カヲル「よし!決めたヤナギタさんが台湾にいる間、遊んでもらお!ホラケータイ出して!」

ヤナギタ「え?オレ滞在中は回線切ってるよ」
とiPhoneを出した。

「おおー!i!」とカヲルもiPhoneを出した。
「通話でしょ?Wi-Fiならタダだからメールメール!」

iPhone同志をくっつけるBUMPで連絡先を交換した。

転がるワインの瓶
5.6本はある。
大量に潰れたビールのカン。

「いてて、、」
ヤナギタはソファで目を覚ました。

床にはカヲルが寝ていた。
ベットの上にカヲルを持ち上げたときに顔が近づく、
毛布をかけ、
カヲルの唇を凝視するヤナギタ。
ブルブルと顔を振り、毛布をかけた。

部屋を出るヤナギタ。
カヲルの目は半分開いていた。

天気のいい昼さがり
ヤナギタはセルフ式定食屋にいた。
長いカウンターには数人の給食服を着たおばちゃんが並んでいる。
客は横に移動しながら次々とよそわれてプレートに定食が完成して清算する。

ぼーっと外を見ながらヤナギタは「カヲルちゃん、、」
とつぶやいた。

ピロリロ♪ユーガッタメー(メールの着信音)
ヤナギタはiPhoneを急いで取り出した。

カヲルちゃん

件名 昨日はごめんなさいm(__)m


酔っ払いすぎちゃって記憶が、、
無いと言いたいとこなのですが全部あります。。汗


ヤナギタはメールを打った

ヤナギタ クニヒコ


件名 大丈夫
オレもたのしかったから気にしなくていいよ。


指を止めて考えた。

「よかったら」
と打つ、そしてまた考えて

「よかったら今日も夜市に行かないか?」

送信した。


スプーンでお粥を食べているがうつろだ。

ピロリロ♪ユーガッタメー(メールの着信音)
ガバッ!メールを開く!


カヲルちゃん


件名 やったー!
ぜひぜひ(((o(*゚▽゚*)o)))


「しゃっ!」
ヤナギタは嬉しさのあまり正拳突きをした。
給仕のおばちゃんや客が何事か?と驚いた。


ー師大夜市ー



士林夜市は食品が多いイメージだがこっちは少し小規模だが士林よりさらに密度があり、若者が多く、雑貨や衣料が目立つ。

カヲル「やー昨日はほんとに、、旅先でお酒飲んでテンション上がっちゃって、」

ヤナギタ「いいって、何もあやまるようなことしてないって」

人混みをかき分けながら歩くふたり。

露店が見えた。
30代くらいの(芸大に居そうなタイプの)女性がヤナギタを見つけた。
「ヤナギタサン!」

ヤナギタ「楊(ヤン)さん」

楊「あいやー」
ボス!っとヤナギタの腹を殴り
ガッ!と肩を組み、耳打ちした。
ヒソヒソ「カノジョ出来たら連れてくる言ってたけどついにきたねー!」

ヤナギタ「ちっ違う違う!まだそんなんじゃねぇ?」

カヲル「まだ?」何のことか分からず首をひねる。

ヤナギタ「いや、なんでもねぇ!」

「や、楊さんはな、彫金のアーティストでさ、」
カヲルの肩を後ろから掴み、楊に近づけた。

「その人を見て、今の足りないものや望むものを形にして作ってくれるんだよ」

カヲル「えー?!ヤナギタさんも作ってもらった??」

ヤナギタ「あ、はっ?う、うん」

カヲル「見せて見せて!」

「いやー、今日は、、」
と言ったヤナギタの首のチェーンを楊が指で引っ張ると、シャツの中からハートの形をしたものが出てきた。
ヤナギタは赤くなり楊とカヲルは手をつなぎあって笑った。


楊は右目を瞑りカヲルを見た。

ハンドモーターで銀を削り出した。
指輪だった。
不死鳥が湖から飛びたとうとしているのを筋彫りで表現している。

カヲルはわぁっと驚いた。

ヤナギタ「楊さんはな、今は無名だけどさ、いつかきっと有名になると思う」

楊「もう10年以上やってるけどネ」

無数の看板、

雑踏
夜空

「ありがとー」
手を空にかざし嬉しそうに指輪を見るカヲル。

ヤナギタ「次はここ行こう。」
細長いビル、小さな入口、通路
お洒落じゃないヴィレッジヴァンガードのように古いのから新しい日本のキャラクターや雑貨が並ぶ。
それを掻き分けるように歩くと
地下へ通ずる階段がある。

広い、倉庫のような店内。
レコード、CD、おもちゃ、古いのから新しいのまでぎっしり置いてある。

カヲル「うひゃー!」

ヤナギタ「おおー、また増えてるよ」

カヲルは鉄腕アトムのアニメに出てくるアトラスの(不細工な)ぬいぐるみを持ってヤナギタに近づく。

ヤナギタがCDを感慨深く見ている。

カヲル「誰のCD?」

ヤナギタ「ああ、川森裕美っていうんだけどな、知らないよな、10年くらい前の人だから」

カヲル「好きだったの?」

ヤナギタ「ああー」
「残念だったけどな、」
カヲル「?」

ヤナギタ「このファーストアルバムなんて最高だったよ」

カヲル「それ以降は?」

ヤナギタ「全然ダメになっちまった」

カヲル「、、何で?変わった?」

ヤナギタ「彼氏が出来たんだよ」

カヲル「??」

ヤナギタ「恋をして誰かに伝えたい気持ちを失った」

「って何年か前のブログに書いてあった」

カヲルはヤナギタのCDを持っている方の腕を力強く掴んだ。

「枯渇、、」

ヤナギタ「?」

カヲル「普通はアルバム一枚分も歌うと言いたいことなんか無くなっちゃうんじゃないかな、」

「歴史に残るようなミュージシャンとどこが違うと思う?」

ヤナギタ「?、、わからないな、」

カヲル「泉のように湧き上がるものだと思う」

「水源、それが大きいか小さいか、、」

「でもこの人は幸せだね、好きな人で埋められたんだから」

レジに行くふたり。

カヲル「え?買うの?持ってないの??」

ヤナギタ「持ってるよ、何枚も」
「でもな、見つけちまうと買っちまうんだよなぁ」

カヲルは微笑みながら「ヤナギタさん変わってるね」

外に出ると雨が降っていた。
中華まん屋の閉まったシャッターの軒先で雨宿りをするふたり。

ヤナギタ「まいったな、」


カヲル「雨は好きだな」

ヤナギタ「そう?」

カヲル「雨はね、芸術の神様っていわれている弁天さまがね、喜んでるときに降らせるんだって」

ヤナギタ「へぇ」

カヲル「ヤナギタさんは雨嫌い?」

ヤナギタ「オレは運転の仕事してるからあんま好きじゃないけど、、」

カヲル「けど?」

ヤナギタ「雨を見るとな、思うことがある。」

カヲルは無言で聞いている。

ヤナギタ「地球が誕生して空気と水って一度も宇宙に漏れることなく循環してるだろ?ずっと」

「そうするとこの雨は何度も降って何度も蒸発してさ、」

「この水も空気も大昔ティラノサウルスの身体を通り越したりしてんだよなぁって、そう思うとなんか不思議な気持ちになるんだよな」

カヲルは目を丸くし言葉を失ったような表情をした。
「ヤナギタさん、その言葉もらってもいい?」

ヤナギタ「え?ああ、全然いいよ!」

カヲルは愛おしそうにヤナギタを見つめた。

ヤナギタはカヲルの肩を抱き寄せた。

唇が近づく。

カヲル「ヤナギタさん、、」


「僕、オトコだよ?」


えっ?!


ヤナギタは焦った。
「はっ!いや!?ごめん!!何かオレ勘違いしてたっつーか!さ、」
「あー!そうね、男でもカヲルってね!!」

カヲル「いや、カヲルっていうのは苗字で、、」

ヤナギタ「へぇっ?!」

カヲル「芳 光秀(カヲル ミツヒデ)っていうんだ、、」

ヤナギタ「は、いやー!オレバカだな!カヲルちゃんのことな!」

カヲル「、僕は、、」
と言いかけて言葉を閉じた。

雨があがった。


MRT(鉄道)の中
無言のふたり

駅を降り歩きだすカヲル
ヤナギタ「かっカヲルちゃん!明日は寧夏観光夜市に行こう!」

カヲルは微笑み、頷いた。

ヤナギタ「明日迎えに行くから!!7時な!!」

ヤナギタの泊まる安宿
ヤナギタは600ccペットボトルのミネラルウォーターをごくごく飲んだ。

窓の外
月が出ていた。


次の日


W台北飯店


エントランス
ヤナギタはフロントから小さなメモのような手紙を渡された。

ヤナギタさん

ヤナギタさんを騙したみたいでほんとにごめんなさい。

僕はいろんなことを失ったような気持ちになって逃げるようにこの台湾に来ていました。

でもそれは見失っていただけで
ヤナギタさんと出会って
昨日ヤナギタさんの言葉を聞いてまた見つけることができました。

ありがとう。

カヲル


〜福岡国際空港〜


ナカムラが迎えに来ていた。

ナカムラ「おかえりなさい」

ヤナギタ「ただいま」

その夜


先島第一ビル

レンガふうの壁、四角い7階建てのアパートビル。
603号室
ヤナギタの部屋

鍋を囲むナカムラとヤナギタ
ヤナギタ「お前実家帰らねぇの?」

ナカムラ「はい!金無いんで!」

ヤナギタ「おめー正月中いるつもりじゃ、、」

ナカムラ「あー3日にはオンナ帰ってくるんで!」

ヤナギタ「、、、」


カウントダウンライブ
テレビに映る ヨシノ ヒカリ

手元がアップになり指には不死鳥と湖の指輪が光っていた。

ヤナギタは難しい顔をしてテレビを見つめている。
「ナカムラぁ、、」

口いっぱいに頬張るナカムラ
「なんすか?」

ヤナギタ「ヨシノヒカリって、、男?」

ナカムラ「そうっすね!2チャンとかじゃ騒がれてますね」
「どーみてもオンナっすよね!」

ヤナギタ「芳 カヲル、芳野よしの、、、ミツヒデ、ヒカリ、」

ナカムラ「なんすかそれ?」


ーテレビの中のヨシノヒカリー

「この水はあなたの身体を通り抜けたもの 飲んだ」

「あなたとの繋ががり
廻って 廻って」

「誰も切断できないよ 水の鎖」

ヤナギタ「いや、なんでもねぇ」
?
「、、お前なに拝んでるの?」

ナカムラ「来年こそヤナギタさんに彼女できますように」

ヤナギタ
「、、よけいなお世話だし ここで拝むの違うだろ」

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タイペイストーリー(ヤナギタ物語2) ぞうむし @zomusi

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