安藤弓は死んでいた

ぞうむし

第1話

外資系コーヒーショップ


silver surferのオープンテラス


サキ「こんど安藤に紹介する彼、めっちゃ素敵よ」

安藤「えー?どんな人ー?」

サキ「システムエンジニアでね、外人でめっちゃカッコいいよ」

安藤「えー?どこの国の人なん?」

サキ「えっと、たしか、カナダ人だったかな?」

安藤は急にテンションが上がり「きゃーマジでー!!」

サキ「えっ?!安藤、何!?」

安藤「あたしカナダ人がいなかったら今まで生きてなかったんよー!!」

サキ「え?カナダ人が?何で?」

安藤「あっ!仕事の時間だ!
ごめんサキちゃん!終わったらすぐ電話するけん!!」


ー 安藤弓は死んでいた。ー


夜


ひとりの中年が街から一本離れた住宅街を歩いている。

その後ろを歩く眼鏡に帽子の女、安藤。
「え?こんなとこに旅館があるんだ?」

その旅館に入って行く中年。

安藤も続く。
カラカラ
「いらっしゃーい」
ドアを開けると太った中年の女が出てきた。
安藤の顔を見るなり険しい表情になる「面接はこっちじゃないよ!」

安藤「へ?面接??」

中年の女「名前は?」

安藤「あ、安藤デス!」

中年「下の名前は?」

安藤「ゆ、弓デス」(しまった本名こ言っちゃった)

中年の女「履歴書は?」

安藤「は!いや、もっ、、忘れました!」

中年の女「ふー、あんたね、こんな店でも仕事なんだからね、ナメてんじゃないよ」

安藤「す、すいません」

中年の女「まあ、簡単に説明するとね、20分で8000円、あんたの取り分が5000円
30分相手したら1万円で6500円」

安藤「え?なにをするんですか??」

中年の女「ああ、うちは本番の店だからね、ちゃんとセックスするんだよ、」

安藤「えー!!セックスしてそれだけしかもらえないんですか!?」

チッ!中年の女は少しイライラしながら「わかって来たんじゃないの?
まあここは普通の風俗店じゃないから、無理することないよ」

安藤「普通じゃない?」

中年の女「あんたまだ若いから知らないだろうけどね、ここはね、女郎屋って言うんだよ」

安藤「は〜、、聞いたことあります、、」

中年の女「部屋には風呂もシャワーもないからね、」
「たまにわざと歯を歯を磨いてこなかったり汚いまま来たりするロクでもない客もいるからね、やるなら覚悟しないと」

安藤はハッとしたあと「あ、あの、見学とかってできますか??」

中年の女は無言で四角いものに被せらた布を取った。
4つのテレビ、ひとつの画面に4分割された画像。
すべて6畳の部屋。

その中にさっきの中年の男がいた。

女郎屋の女「え?、
しなくていいんですか?」

中年の男「うん」

その画面を食い入るように見つめる安藤。
小型隠しカメラの眼鏡で撮影する。

30分後
女郎屋の女が部屋に入ってくる
「超ー!キモイ!!ありえん!」

中年の女はニヤニヤとしながら「ずっと脇とか足の匂い嗅がれてたね」

女郎屋の女「ああ!見てたの?」
「もーマジで気持ち悪い!!」

中年の女「きっとEDか何かなんだよ、お得意さんだからね、ま、大丈夫、うちは指名できないんだから今度からあんたは外してやるよ」

「絶対やけんね!うちシャワー浴びてくる!」女郎屋の女はズカズカと部屋を通り抜けて奥の控室へ消えた。

中年の女はチラリと安藤を見て
「やらなくていいから喜ぶ娘もいるんだけどねぇ、」「で?どうすんの?」

安藤「は、はいやー!ま、また来ます!」

スタスタと早歩き
「ぜったい非合法だわ!」


〜 安藤探偵事務所 〜

先ほどの画像をプリントアウトし、資料を作っている。

「ふー、今日の分出来た、」

仏壇に向かって
「おじいちゃん、あたしまだ知らないこといっぱいあるわ〜、、自分の住んでる街なのに、、」

メモ紙
NO.263
依頼主 中根佳澄様(41歳)
主婦

調査対象
中根光雄(夫 46歳)
伊藤錦 (商社)係長

調査内容

会社帰り何処へ行っているのか?
(残業はしていない)

目を細め、資料を見ながら
「これ渡したらきっと家庭崩壊しちゃうよね、、」

「でも、セックスはしてないんだよなぁ、、」

「まだ提出期限はあるし、、」

「たしか旦那さんのID調べてたよね、、」


パソコン画面にはSNS


「チェイン」

光雄のID


Lightning man1967

「あったあった」

「えーっと、はじめ、まして、、
ううん、ダメだ!なんか釣りっぽい!」
キーボードを打つ。

ピロリロー♪
スマートフォンの方に着信
「はやっもう来た♡」

画面を見ながら
「、、すっごい寂しがりや、、
で意思が弱い、頭もそんなによくない、」

安藤は無言でメールを打ち返す。

夜が開けた。

「ふああ、ねむ、
すごいなぁ、、光雄さん、レス早いし、、」
「めっちゃ語ってくれたからだいぶわかったけど。。」



オープンテラス

サキ「なにあんたそのクマ!?」

安藤「えへへ、ちょっと徹夜で仕事というか、、」

サキ「女がやる仕事じゃないよ」

安藤「うーん、でもおじいちゃんの事務所潰すわけにはいかないよ、」

サキ「じゃ継いでくれる旦那さんみつけたら?」

安藤「今度紹介してもらう人どうかなぁ、、あ、どんな人?」

サキ「デヴィンくん?28歳で目が碧くて、、外人だからかな、めちゃジェントルで、、って継いでくれんと思うし気が早いよ!」

安藤「だよねー」

サキ「そういえばあんたカナダ人がどうのって言ってたけど、」

安藤「うん、ほらあたし、、」
と時計を見る。
「やばっ!時間だ!ごめんサキちゃんまた!!」



NO.259


依頼主
君嶋康平 様(32歳)
医療法人
山盛会 レントゲン技師

調査対象
松田美佳(24歳)婚約者
同 医療事務

調査内容
交友関係


ー大雨ー


ヴアアア!
スズキ γ250ウォルターウルフに乗り安藤は高速道路を走っていた。
140キロ

前を走るメルセデス600SL

ホテルの駐車場
降りてきたふたりは中へ入っていく。

びしょ濡れのまま安藤は問面の雑居ビルの「軒」の上に登り寝そべる、ビニールシートを被り、カメラを持って。

夜が開けた。

安藤「うう、暑い、、気持ち悪い、」
ゴシゴシ
ブーツを脱ぎ、足の指の股をウエットティッシュで拭いている、そして脇と股間も。

望遠レンズでベンツがホテルから出てくる所を撮影した。
助手席の松田美佳

古い喫茶店
安藤はいつもここで報告をする。

安藤「君嶋さん、こっちが資料です。」

君嶋「ええ?こんなに?6人も?」

安藤「はい、あと撮影できなかった人も数人いるので、、」

君嶋「、、あ、ありがとうございました。。」

君嶋が帰ったあと安藤はひとりため息をついた。



ー非合法の風俗旅館ー



中年の女「体験入店?」

安藤「はい、
でもちょっと怖いんで、この前のお客さんが来たときにちょっと試してもらえれば、、」

中年の女「ん?この前の?」

安藤「あー、はい、あの匂いを嗅ぐ人、、」

中年の女「あー!はいはい!」
「あれだったらしなくていいもんね!あんたはじめてなんだろうから最初はちょうどいいかもね、あっはっは!」

安藤は露出度の高いワンピースを着て控室にいた。
中には数人の風俗嬢たち。
安藤はキョロキョロして落ちつかない。

中年の女が入って来た「弓、いっといで」

光雄が正座をして待っていた。
安藤「こ、こんばんは、、」

光雄「こんばんは、あ、服は脱がなくていいよ」

光雄は安藤の脇に鼻を近づけ深く息を吸った。
安藤は目を思いっきり閉じた。

足の裏に顔をあて、スカートの中に頭を入れてきた。
フガーフガー(鼻息)

ぞわわ!
安藤は思わず力が入る。

安藤「なんで?」

光雄「えっ?」キョトンとした顔。

安藤「ああっ!ごめんなさい、思ったことがつい口に出ちゃって、、」

光雄「、、しないこと?」

安藤「、、ええ」

光雄「僕は結婚していてね、
そして妻をすごく愛している」

「だからね、浮気はしない。」

安藤「こういうのは浮気じゃないんですか?」

光雄「うん、気持ちが入っていなければ浮気ではない!僕は気持ちが入らなければしない!」

「ただ若い女の子に触れたり会話はしたい!」
「ここは仕方ないの、本能だもの!」

安藤「え?」

光雄「あのね、浮気、いや恋愛というのはCDなんだよ」
「CDとか買う?」

安藤「いえ、あんま買わないです、、」

光雄「ジェネレーションギャップか、あれか?今の子はダウンロードとか?」

安藤「ええ、でもレンタルとかもしますよ」

光雄「それをiPodとかに入れて?」

安藤「そうそう」

光雄「ふーっ、、」
「、、で?何の話だったっけ?」

安藤「恋愛はCDって、、」

光雄「ああ、そうそう、
ほら、すごく好きな曲ってあるでしょ?はじめて聴いた時ドキドキして」

「それが恋人だとする」

安藤「ふんふん」

光雄「好きだから毎日聴くよね?
何度も何度も」

「すると最初に感じたドキドキはなくなるよね?」

「そして新しい曲を耳にする、
それが誰かとの出会いだとする」

安藤「、、」

光雄「それってまたドキドキするよね、だから買う。
でもね、その曲もすぐに最初のときめきは消える、、」

「それが浮気、キリがない」

「それと一緒、、」

安藤「へえーなんか、、わかる気がする、、」

光雄「、、、」
「わかってくれる?」真顔

安藤の肩を力強く掴む。
「えっ!?ちょっ!!」

光雄はワンピースを捲り上げ脱がそうとする。

安藤「わー!ダメダメ!!」

光雄「大丈夫大丈夫!」

安藤「浮気!浮気!!」

光雄「違う違う!!」

安藤「もう時間が!もう時間が!」

光雄「延長延長!!」

安藤はポーチからペンを出し、
光雄の尻に当てた。
カリカリ、という音がした。

転がったペンの先には針がついていた。

しばらく安藤は抵抗した。

光雄「あれ?」
はあ、はあ、
「あれ?なんかおかしいよ?」

「甘いものとかある?」

安藤「いや、無いです、
顔色悪いし、そろそろ時間だし、帰られた方がよくないですか?」

光雄「ううん、そ、そうだね、
あれ?何でかいな?めちゃくちゃお腹すいた、、」
はあはあ(冷や汗)

「うん、じゃ帰るわ、、」

「すごくコーラとか飲みたい、、」


控室の隣の事務所

中年の女「やっぱり無理だったろ?」

安藤「はい、、すみません、、」

中年の女「ほら!」
給料の封筒を差し出す。

安藤「あっ!いえ、もらえません、」

中年の女「なにいってんだ、あんたの取り分だよ」
と帳簿を付け出す。
安藤には目もくれず
「ここはあんたみたいなのが来るとこじゃないよ」

「元気でね、二度と来んじゃないよ」

安藤はお辞儀をして店を出た。



1921年
カナダの整形外科医バンティングと助手のベストがインスリンの抽出を成功させる。


安藤弓は中学校3年生の夏
昏睡状態に陥り、入院した。
体重は30キロ代前半まで落ち込んでいた。
灼熱の炎で焼かれるように喉が渇き、湖の水を飲み干したいとまで思った。
5分置きにトイレへ行き、起きているのが辛かった。

目が覚めたらベッドの上にいた。


1型糖尿病
ウイルスなど原因不明で膵臓が機能しなくなる病。


医者は原因は予防接種かもしれないが因果関係を証明することは難しく、裁判しても無駄だろうと言った。


そして弓はノボノルディクスファーマ株式会社製の注射器を持つことになる。
膵臓で作られるはずのインスリンを皮下注射して補うために。

女の子だからという理由で「ラグジュラ」という綺麗なペン型の注射器だった。
ラグジュアリーが語源らしい。

この病気は10万人に1.5人の割合で発症する、インスリンが抽出される以前は医者も患者もなす術はなかった。

弓の祖父
安藤慶次郎は弓に「せんいちになれ!(千人に一人の人間)」というのが口癖だった。

「まんいちになっちゃったよ」と笑う安藤を見て慶次郎は泣いた。



光雄は超速攻型のインスリンを打たれ血液中の血糖値が急激に下がった。
症状は飢餓感に似た強烈な空腹感と脱力感、めまい、冷や汗、意識障害など。
「何かカロリーの高いものを摂取したいと危険だ!」と脳から指令が下される。

蚊の針の形状にヒントを得た日本の金属加工会社が開発した「痛くない注射針」だったので光雄は気付かなかった。



その後 光雄はコンビニで大量のケーキや袋菓子を購入し、コーラをがぶ飲みしてことなきを得た。


いつもの古い喫茶店

中根佳澄「旅館?」
「まさか女と?」

安藤「いえ、旦那さんは一人で入って一人で出てきました」
「入口からはそれらしき女性は出てきませんでした。(裏口からはいっぱい出入りしてたけど)」

中根佳澄「なんでまた?」

安藤「最近は安い金額で仮眠とったり、できるホテルとかあるみたいで」

中根佳澄「あのひと疲れてるから、、家で寝ればいいのに、、」

安藤「、、まあ、よくわかんないですけど男の人ってネットカフェ行ったり隠れ家的なとこ好きですよね、、」

中根佳澄は深々と頭を下げ「ありがとうございました、、安心しました。」

中根佳澄が帰ったあと

安藤「ま、いいよね、調査依頼は「何処に行ってるのか?」だし、、」

「こっから先は光雄さんの責任でね、、」

「あっマスター!カフェラテー!」

マスター「だからそんなもんはねぇっつってんだろ!熱い珈琲牛乳な!」

安藤「ちょー!名前くらいいいじゃない!」
時計を見て

「あっサキちゃんにメールしなきゃ!カナダ人の彼と会うのいつだったけ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

安藤弓は死んでいた ぞうむし @zomusi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ