詩三篇~2014.10.3~

【憧れへの河を還る言葉たち】


あなたが空虚なのではない。


見えないけれども、そこに充満している、あまりに濃すぎる詩人の魂に、あなたの言葉が吸い取られているのだ。


やがて、それは還って来る。


夕陽の鋭い残照。


夜に吹く嵐。


そして、あなたは湧き起こる狂おしい憧れに身を任せて、燃え尽きるまでに生き急ぐのだ。



【蠍】


病人は震えている。


この震えは死に至る震えだ。


この病人には、憧れが憑りついているのだ。




死を司る蠍の星座が、私の目の前で眠っている。


無防備な黒い背中が、ぴかりと光る。


蠍は後悔の毒もって、私を刺す。


もはや形無き憧れは、その鋏で引き裂かれる。


そして、彼は私を連れていく。


高く高く夜空を昇り、雲の上、成層圏を越えて、


大気圏さえ突破して、見遥かす星々だけの世界へと。


そのとき、私は肩ごしに振り返る。


そして探してしまうだろう。


杜深き静かな山並み。


あの日訪れた神寂びた滝。


おだやかな人心の村。


あの人の故郷を。


もはや、誰も戻ることのない、その故郷を。


青い蒼い宝石のような


思い出の欠片が埋まった場所を。




【指をかんでみていた】


”私は、私に興味のあることしかいらない。”


誰のことも見もせずに、足早に広場を歩く。


若い男女を避けて。


中年のサラリーマンをよけて。


体格の良い自由業風の男をよけそこねて。


この街は、みんなそうだろうか。


例えば、そのビルとビルの隙間にいる。


片付いた物陰から、幼い私が覗いている。


例えば、見上げれば見える、冴え冴えとした満月。


眠れない少年の私が、熱い目で見上げている。


なにをするでもなく、なにができるでもない。


ただ、胸の中で渦巻く屈託が、狂おしい。

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