第7話 触手と掃除
本棚の上の埃を払い、フローリングとカーペットに掃除機をかけ、カーペットはコロコロ(粘着テープのあれだ)で掃除機で取り切れなかった髪の毛の類を取る。
人間、新陳代謝をしているのだからこうもなる。
ふと、水槽を見るとゆーまは円筒の形になってくるくると回っていた。
エアポンプが出す空気の泡を平たい触手で捕まえて回転している。
「目を回さないのかね、というか、目はなかったか」
そういえば、水槽の掃除はしていなかった。
ろ過ポンプもつけてはあるので、軽い汚れは取り除かれるが、やはり人の手は必要だ。
部屋の掃除がひと段落したところで水槽をのぞき込む。
水は透明なままだ。
水槽のガラスにも汚れはついていない。
生き物なのだから、やはり、その、トイレを利用はするだろう。
植物だっていらなくなった部位を枯らして地面に落とす。
水槽のガラスとくるくるまわっているゆーまを交互に眺めながら考える。
数十秒考えて、どうして、こんな単純なことに気が付かなかったのか、と答えにたどり着いた。
「捨てるものはあるかね」
問うと、ゆーまは回転を止めて、ゆっくりと静かに砂に着地する。
尺取り虫のような動きで水槽の隅っこにたどり着くと、のそりと立ち上がった。
「何か、あるの、か?」
水槽を回り込んで、ゆーまの下を見る。
砂の中に表面はつやつやとしている白い球が埋まっている。
「これを捨てて欲しい、と」
ゆーまは頷いた。
いつもより動きがぎこちない。
これが老廃物的なものなのだろう、と理解した。
あえて、言及はせず、ゴム手袋を両手につけて、水槽に手を突っ込む。
球は全部で4つ。
表面は固く、ちょっと指で押しても割れる気配はない。
むしろ、卵ではないか、これ。
「実は、卵だったりしないか? 捨てて大丈夫か?」
今度は勢いよく、身体を横に振った。
廃棄確定。
ビニール袋に入れて、口をきつく縛る。
明日、燃えるごみと一緒に出してしまおう。
「水槽の中にゴミ箱をおこうか」
と提案するとゆーまは首を傾げた。
私は言葉を間違えたことに気が付いて訂正する。
「トイレの間違いだ」
今度はゆっくりと小さく身体を縦に振った。
おそらく、恥ずかしいのだろう。
「気づくのが遅くなって悪いな」
というと今度は身体を横に振る。
ゴム手袋をを外して、素手で水槽に手を入れて、ゆーまの頭を撫でる。
身体を押し付けてきたので、しっかりと撫でた。
「かわいいやつ」
口から思わず感想がこぼれる。
聞こえたのか、彼は、可愛らしく身体をくねらせた。
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