第4話 触手と食事と人
水槽の前に戻ると彼は砂地を歩いていた。
身体を平らにして角の部分を足にしての四足歩行。
魔法のじゅうたんが歩いているような状態だ。
「ただいま」
というとこちらを向いていた足(?)をあげて挨拶。
「いや、すまない。仕事で遅くなってしまった。腹を空かせていないか?」
問いに彼は形を円筒に変えながら、首を縦に振った。
時計を見ればもう23時だ。
コンビニで買ってきたものは私のものだが、彼の分は作ってやらねば、と思ったら水槽から勢いよく飛び出てきた。
それは水中から発進する飛行機のように。
「む、どうするつもりだ?」
テーブルの上に着地するとコンビニ弁当に手を、もとい、触手を伸ばす。
「食べるのか?」
と問うと全身を縦に振る。
「添加物が多いのは危ないと思うが……」
ぶんぶんと横に振る。
大丈夫だ、と言いたいらしい。
「なら、一緒に食事にしようではないか」
食べられそうなものを蓋の上に盛ってやる。
こうやって食べるのなら、専用の皿を用意したいところだ。
自分の皿や器があるのは食事の満足度をあげる。
この同居人がそう思うかはわからないが。
触手を伸ばすのは水槽の時と同じだが、空気中で出す触手は赤黒く、太い。
筋肉で動かしているようだった。
「そちらではない。ここだ」
触手が遭難していたのでさらに誘導する。
ぺこりと彼はおじぎをした。
「当然のことをしたまでだよ」
そんなことを繰り返していると、あっという間に容器の中のおかずとコメは空になった。
食後の感覚を楽しみながら後ろに背もたれにもたれかかっていると、正面に彼が立っていた。
「どうした?」
問いにしばらく困ったようにくねらせる。
そして、触手が出てきた。
静かに伸びて、私の顔に近づいてくる。
何が起きるのかと待っていると、それは頬に触れて、しかし、すぐにするすると戻っていった。
「ああ、コメがついていたのか」
と彼の触手の先についた米粒を見て理解する。
「ありがとう、気が利くじゃないか」
いうと彼は身体をくねらせた。
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