第10話 再び、アームド アンド レディ!
どうする? どうしたらいいんだ?
そうなればもうこの町は、完全に『金鶏』の支配下に置かれてしまう。だが何故ナゴヤなんだ? 他の土地でもいいように思える。あんな化け物みたいな連中なら、ナゴヤに拘らなくても他の都市を制圧して、そこを拠点にすればいいのに。
いや違う。
やつらがナゴヤに拘る理由はただひとつ。復讐なのだ。
馬鹿げている。狂っている。蓮平はそう推察する。
それよりも、ここは隊長に犠牲になってもらって、みやのさんと二人で闘うか。
名誉の殉職なら、隊長も草葉の陰で喜ぶんじゃなかろうか。
ナゴヤ市と二百万人の市民を守るために、あえて自ら犠牲となった隊長。メイ駅前(ナゴヤ駅前)か、セントラルパークに隊長の勇姿を讃える像が建てられ、市民は毎年今日という日を隊長の命日を記念日として、追悼集会を開催する。ああ、隊長、安らかにお眠りください。
そこまで妄想が膨らんだ時、囚われの身である刀木が叫んだ。
「蓮平ちゃーん、みやのちゃーん、お願いだから降伏してちょうだいな。この警察のおっちゃんはマジで頭がキレてっから、本当に拳銃をぶっ放すのよ。
隊長であるわたくしの、たってのお願いよっ。まだやり残したことがたくさんあるしさ、こんなところで死ぬのはイヤなわけ。
ちょっとお、聴こえてますぅ」
憐れんだ声で懇願する刀木に、蓮平は大きくため息をついた。
やはりここは隊長に犠牲になってもらおう。
「みやのさん」
インカムで話しかける。
「ここはもう、仕方にゃーかな」
「そうですわね。ワタクシもそう思いますわ」
みやのさんも同じ考えなんだ。そりゃそうだよな。隊長の命とナゴヤとどっちが重いかって訊かれれば、間髪入れずにナゴヤって答えるもの。
蓮平はムーブを使おうとした。すると宙を舞っていたみやのがゆっくりと下降していくのが見える。
「えっ? み、みやのさん?」
刀木が安堵したように、肩を落として再び叫ぶ。
「みやのちゃーん、恩に着ますよ、この刀木。もう一生下僕として働きますからねえ。
ささっ、蓮平ちゃんも早く早く!」
みやのは着地すると、装甲を解除する。そこへ
「デエエェッ! みやのさん、そっちのほうを思っていたってわけきゃあ?」
驚愕する蓮平。
勝ち誇った表情を浮かべ、大禍津はジャージ姿にもどったみやのが立つ位置へ歩む。みやのは自然体の姿勢で、だが両目にはまだ闘志の光は消えていなかった。
蓮平が思い余って加速装置を起動させようと、口を開きかけた。
無音のドローンが上空から姿を現し、大禍津の鼻先をかすめ飛んでいく。
蠅をはらうように大禍津は顔をそむけて手を振った。その動きを読んでいたかのように、ドローンは一回転すると束縛されている刀木の頭上でホバーリングした。
「おや? これはナニ?」
刀木は横で拳銃を突きつける
「おいっ、サイッテーのゲス野郎!」
ドローンのスピーカーから、刀木には聞き覚えのある女性の声が響いた。
「なに呆けたツラをしていやがる。てめえ、帰ったらシバキ倒してやるからな、絶対忘れるんじゃねえぞ!」
「えーっと、その異様にドスの効いたお声は、もしかして、もしかすると」
「
「ゲゲッ! まさしく師匠のお声」
刀木は驚いてドングリ眼を四方に向ける。
「し、師匠、どちらにおいでで?」
「んなこたあ、どうでもいいんだよっ。それよりも、これを使って早くそいつらを片付けんかいや!」
ビクッと肩をすぼめながら、刀木はドローンがその脚部に丸いペンダントを引っ掛けているのがわかった。
「おおっとぉ、そうはさせねえぜ!」
加茂は気づいて拳銃をドローンに向けて発砲しようとした。
ヴェルファイアの運転席で、伊里亜はドローンを操縦している。
「そんな簡単に撃ち落されるわたしじゃあ、ありませんのよ」
ニヤリと微笑むと、ドローンを素早く旋回させて胴体を刀木の頭部に移動させた。
フワリ、ドローンが傾き、鎖につながったマルハチが落下する。
刀木が頭を傾けると、環になった鎖がすっぽりとはさまり、白く輝くペンダントが胸元で揺れた。
「おっしゃあ!」
伊里亜は指を鳴らした。
刀木が顔を上げると、横に立つ加茂が口を開けたまま銃口を向けてくる。
「アームドゥ、アンドッ、レディーッ」
キーワードを叫びながら、刀木が身体をひねった。その真上を発射された弾丸が通過していく。
白い光が刀木の全身を包んだ。
加茂、
刀木は転がりながら真っ白な装甲に覆われていった。加茂は拳銃を向けて何発も弾丸を撃ち込むが、カキーンッ! カキーンッ! と完全に装甲された刀木の身体はすべて弾き返す。
後ろ手のロープをいとも簡単に引きちぎると、刀木は回転していた身体を起して立ち上がった。
「ふーっ、間に合ったぜい。むふふ、こうなるだろって予測していたわけよね、頭脳派の俺は。さあさあ、戦闘の再開といくぜえ。まあよくも無抵抗な俺さまをいたぶってくれちゃったわねえ」
純白の装甲姿で、刀木は指を鳴らす。
「蓮平ちゃーん、なにボサッってしてんの? みやのちゃんも、この隊長さまが登場した限り、どーんと大船に乗ってちょうだいよう」
加茂は驚愕の表情で、じりじりと後ずさりする。
「お、おまえは、そっちのほうだったのか」
加茂はうめきながら刀木の下半身を凝視する。超ミニスカートに、グリーンにきらめく膝上ロングブーツ。透明のナノ膜は、毛深い太ももをことさら強調していた。
そこで刀木は、現在の装甲が研究室で最初にコピーされた試作品であることに気づいた。
「アアーッ! なんで、なんでこれなわけえ?」
あわてて膝を閉じ、刀木は屈んで脚を隠す。
「どっちだって構わん! こうなったら三人とも葬り去ってやるさっ」
大禍津は目の前に立つジャージ姿のみやのに、両腕をひろげて駆け寄った。武装を解除した以上、ただの少女だと大きな誤算をはらんだまま。
「ハーッ! ハイッヤアッ」
みやのはすかさず構えて、右手正拳を大禍津の顔面に叩き込む。ゴキュッと骨が音を立て、大禍津の顔面がひしゃげる。見事なカウンターが決まり、ブーッと口から血の混じった涎と折れた数本の歯が宙に飛んだ。
「オリャアァァッ」
腰を落としたみやのは左脚を軸に、右脚踵を高らかに上げると勢いをつけて回転する。そのまま後ろ回し蹴りで踵が大禍津の側頭部に炸裂した。
ガキッ! コンクリートブロックをも破壊する強烈な蹴りが、大禍津の頭蓋骨に致命的なダメージを与える。意識まで飛ばされた大禍津の身体が宙に浮かび、顔面から大地に叩きつけられた。
みやのは装甲がなくとも、元々全身が研ぎ澄まされた武器なのだ。スイッチがオンになったみやのはもう誰にも止められない。
「ま、枉津さまっ」
加茂は
「大禍津め、焦りおったなあ」
仮面の下の目が侮蔑の色に染まっているようだ。
グオオォォッ! 城壁前で蓮平を下に引きずり落とそうと盛んに太い両腕を振り回していた
「アームド! アンド」
みやのは急いで装甲のキーワードを叫ぶが、八十禍津の動きのほうが速かった。
さすがに鉄線のような剛毛に全身を包まれた相手に、生身の拳では相手にならないと悟ったからだが、一瞬遅れた。
「み、みやのさーんっ」
蓮平は「ムーブ!」と大声を張り上げながら城壁から猛スピードで向かう。
ガキッーンッ! 鉄球を取り付けたクレーン同士が、思いっきり鉄の塊をぶつけ合うような轟音が広場に響く。
まだ装甲できていないみやのは大地に両手をついてしゃがみこんでいた。
その真横で、白い装甲の刀木と八十禍津が両手をがっちりと互いに握りあっている。
蓮平は速度を調整しながらその間をすり抜け、みやのの身体を抱いて走り抜けた。
「ふひゃひゃひゃっ、こーいつは面白くなってきましたよーんとぉ。この俺さまと力比べするってか」
毛だらけの太ももをさらけだしたミニスカート姿の刀木と、鉄線の剛毛を生やした八十禍津のパワーがぶつかりあっている。シュシュシュッと熱を帯びた周囲の大気が蒸気に変わり、渦巻きだしている。
グガガガーッ、八十禍津は牙のような歯をむき出して吠えた。
「おおう、どんな魔法かしれねえけどさ、すっんごい力持ちだね。おサルさんよう」
試作品といえど、白いマルハチは青色と同じ五トンの重さを持ち上げるパワーを内蔵している。
ギリッ、ギリッと刀木の装甲に覆われた白い指先が、岩のように分厚い八十禍津の指を徐々に折り曲げていった。「へへっ」レンズの下で刀木のドングリ眼がすうっと細まる。
「これで、どうだーいぃっ!」
刀木は奥歯を噛みしめ指先に全神経を集中した。
ガキュッ! 八十禍津の指先が手の甲側へ曲がり、寒気の走る音を立てて指先が手の甲へぴたりとくっ付いた。
「アガガーッ」
天に顔をそらせた八十禍津の喉から、絶叫がほとばしる。
刀木はさらに両手をつかんだまま、ぐいっと胸元を八十禍津の毛むくじゃらの胴体へくっつけた。
「おっと、俺さまがミニスカートだからって、ヘンな気を起さねえでくれよ、おサルさん。俺さまはな、美しーい女性にしか興味ないんだもーんと!」
言いながら八十禍津の両腕を背中側に一気に回した。
大木を折るような乾いた重い音が響き、八十禍津は甲高い悲鳴を上げる。太い両腕が肩からへし折られたのだ。
「ナゴヤをてめえらにくれてやるわけにゃあ、いけねえんだぜいっ」
刀木はその態勢で、腕を折られた猿男の巨体を持ち上げた。
「ドッセエェーイッ!」
そのまま身体を回転させる。熱を帯びた大気も一緒に回り出す。
空気が擦過音を立て、白い軸に黒い塊がコマのようにぐんぐん速度を増していく、
「サッイナラーっと」
刀木はちゃらけた声で叫び、その手を放した。
八十禍津の身体がミサイルのごとく空に向かって飛び、ナゴヤ城の天守閣下の石垣に轟音を上げてぶつかる。そのまま崩れた石垣と共に落下し、黒い巨体が大地に叩きつけられた。
蓮平はみやのと少し離れた土の上で、その様子に見入っていた。
「や、やるにゃあ、刀木隊長」
「ええ。あれでミニスカートでなければ、とても恰好ようございますのに」
みやのは刀木が好んで白いミニスカートを履いていると、どこかで勘違いしているようだ。
ガシャガシャガシャッ、奇妙な音に二人は振りかえった。
すっかり忘れていたが、まだ人形たち全部を破壊してはいなかったのだ。
「アームドアンドッ、レディ!」
今度はキーワードを口にできたみやのは、黄色い光に覆われて装甲をまとった。
「よーし! みやのさん、僕らも隊長に続こまいって!」
「了解いたしましたわ」
シューッ、みやのはマントを広げて黄色い光を放ち、上空へ舞い上がる。蓮平はムーブオンの状態でソードを使う。
枉津の術、化螺繰で動く人形たちはすでに十体を切っていた。
刀木も右腕をソードに変え、走ってくる。
「おーい、俺にも残しておいてちょうだいよー!」
すっかり対戦に味をしめたようで、スキップするように跳ねてきた。
黒装束の等身大人形は両腕を猛烈なスピードで回転させ、突出し、蓮平の進む方向へ攻撃を仕掛ける。紫色のシールドでそれを防ぎ、ソードで相手の槍を叩き斬っていった。
空中で浮遊しながらみやのはレンズ越しに八十禍津の分身を視野に入れると、目標を定めてソードを鷹の
斬る! 打つ! 駆ける! 飛ぶ!
紫色のつむじ風が走り、黄色の竜巻が吹く。化螺繰の頭部が、槍の腕が、胴体が目のも止まらぬ速さで宙に飛び散っていく。
刀木がよたよた走ってくる間に、山車の周囲にいた黒装束の人形や八十禍津の分身たちはすべて倒され、バラバラに分解されていた。
刀木の横にムーブオフした蓮平が近寄る。シューッとガスを噴射しながら、みやのも着地した。
砕け散った残骸が、土埃と重なって辺り一面はもやがかかったようだ。
パラパラと木片が、音もなく舞っている。
「これですべて終わったんですかね、隊長」
ナゴヤ弁のイントネーションから標準語に切り替わった蓮平は、辺りをうかがう。
「そういえば、やけに静かですけど、この霧は晴れておりませんわ」
みやのは腰に手を当て、言った。
確かに真綿のような濃霧はいまだにお城の周囲を包んでいる。本来、この霧を発生させたと思われる禿げ頭の男、大禍津が倒された時点で解消されてもおかしくないとみやのは考えたようだ。
「そう、まだ終わっちゃあいないさ。俺さまを痛めつけてくれたあの刑事と、奇妙な羽根のお面をつけた男の姿が見えねえし」
三人の前に立つ山車が静寂を破った。
カシャンッカシャンッ! バタバタタッ! キュルルルッ!
木や金属をこすり合わせ、折りたたみ、回転させるような音に三人は身構える。
「残リ時間ヲ、カウント、シチャオッカナア」
何の前触れもなく、いきなり蓮平のヘルメット内に無機質な冷たい合成音が響く。
「エッ?」
もうそんなに時間が経ったのか! 蓮平に遅れ、みやののヘルメットにも音声がカウントダウンし始める。一度装甲を解いたための時間差であるようだ。
「ちょっとぉ、まだ終わっていないのに!」
刀木はまだ時間的余裕がを残している。
その間、山車がみるみる変化していた。装飾された屋形は台座から黒い鉄板が上昇して覆い、巨大な木製の車輪には太い鎖が巻きついていく。
「今度は何が始まっちゃうのよーっ」
ミニスカート姿であることを忘れ、刀木は太ももをさらけだしたまま叫んだ。
山車の影に潜んでいた枉津は、横に立つ加茂に笑いを投げかける。
「うふふふ、化螺繰はね、人形を操るだけではないのです。この山車こそ最強の化螺繰、
加茂は装甲されていく山車を驚愕の目で眺める。
「唯一絶対の
指さす枉津。
分厚い鉄板で装甲された山車の屋形中央から幾本もの鉄パイプが伸び出した。それは黒く光る砲塔であった。
~~♡♡~~
燃焼型爆薬を積んだ矢は迫りくる落ち武者の怨霊たちを、次々と吹き飛ばしていく。
「こんな飛び道具を使うなんて、やはりこの地に住まうやつらは卑怯千万だわ」
黒い和服の袖を振り上げ、瀬織津は叫ぶ。
「
ずぶり、ずぶり、泥沼へ沈んでいくように瀬織津の身体が地面に埋まっていく。
すでに大地の奥から引き上げた落ち武者の怨霊たちは大半が爆破されており、後方に残った数体のみが刀を手にして歩んでいる。
瀬織津は興味を失ったような目つきで怨霊の背を
サーチライトはその様をくっきりと浮かび上がらせている。
「恐るべき邪術だて。そんで土のなかに潜りこんで逃げてまうのか?」
最後の一体が爆薬によって吹き飛んだ。
辺りは水をうったような静けさに包まれている。
天は暗雲が支配しており、まだ何かが起きる不吉な予感を豪天に抱かせた。
「あー、あー、聴こえてるかい? どうやらあらかた済んだようだけど」
スピーカーから
豪天はそれでも動かず、サーチライトがゆっくり移動しながら索敵している箇所を見つめる。
「うむ?」
微妙な気配に豪天は気づいた。
最初は立ちくらみかと焦る。若いつもりで弓を弾いていたが、寄る年波にはさすがの豪天も勝てない。外壁は段になっており、内側の段は人が充分移動できる幅が設けられている。くらっと頭がふらついたため、外壁に手をついてしゃがみこんだ。
その様子を、離れた位置でボウガンを構えていた料理長が気づき、すぐさま走ってきた。
「か、会長いかがなさいました!」
苦笑を浮かべた豪天は、「なんでもにゃーって。年寄だからって、そう
走ってきた料理長も、あわててその場にしゃがみこんだ。
「か、会長っ、これは!」
「地震でにゃーきゃあっ」
その時点で外壁もグラグラッと揺れ始めた。
豪天は腰を落としたまま、外壁から外側の道路にすかさず目をやる。
「あれは!」
落ち武者たちを葬った辺り、瀬織津が沈んでいった道路が大きく隆起し、うねっているではないか。
「いかんって! 料理長っ、すぐさま全員を退避させやあ! 屋敷のなかに早くもどるんだて!」
アスファルトの道路が持ち上がり、砕けていく。その下から土が小山のように膨らみ、呼吸をするように
大地の下に巨大な生物が潜み、ゆっくりと上下運動をしながら向かってきているようだ。
料理長は大声で外壁にいる庭師たちに伝えると、すぐさま豪天をかばうように壁内側に設置されている階段を駆け下りる。
大地の揺れは屋敷にも伝わっていた。
モニターを観ていた美麗の横には簡易テーブルが置かれており、机上にあったウイスキーボトルが傾いて床に落ちた。
「あらぁ、まだ残ってるのに、もったいない」
屈んでボトルを拾い上げる。
モニターには煉瓦塀外で発生している怪奇現象が、映画のワンシーンのように流れている。
「ほほう。いったいどんな秘術なのかねえ。まあこの屋敷を含めて耐震設計になっているけど、はたしてあんな化け物に対して有効なのかどうか」
たいして驚いた様子もなく、揺れる室内で美麗はため息をついた。
~~♡♡~~
シュッ! 噴射音に蓮平が振り返ると、みやのが飛び立つ姿があった。
「蓮平さまっ、今度はワタクシがお守りいたします!」
みやのは空中で旋回すると、ソードを真っ直ぐ戦車に向けながらウイングを加速させる。
屋形の胴体から伸びた数本の砲塔のうち一本がみやのに向けられ、ヒュヒュッ! 奇妙な音を上げて筒先から何かが発射された。それを避けようと素早く向きを変えるみやの。だが遅かった。
「アアッ、みやのさん!」
蓮平が叫ぶ。発射された時点では半透明のゴルフボール大であったのが、すぐに膨らみ直径二メートルを超える風船の化け物になっていた。それも打ち上げられた時には、砲弾並みの速度がでているのだ。
みやのの身体は下から勢いよく飛んできた風船に飲み込まれると、ウイングの飛行エネルギーが吸収された。パチンッと弾ける風船。みやのは、そのまま大地へ落下していく。
考えるよりも先に、蓮平は走っていた。もちろんムーブオンで。みやのの身体が叩きつけられる寸前、蓮平は大きくジャンプしてみやのの身体を両腕で抱える。宙で回転し、着地する際に余分な力を分散するように数度爪先でバウンドした。
「チッ、チッ、オオット、ココデ残リハ、九十秒ダヨーン、チッ、チッ」
蓮平はハッと気づいた。そういえばヘルメット内でアラームが鳴っているのだ。それすら意識せずにみやのの救出に夢中になっていた。
「チッ、チッ、チーン! ハーイ、タイムアップ、オ疲レサーン」
やけに嫌味な合成音が終了を告げた。装甲したままのみやのを抱いている腕や頭部から、ナノ膜が急速に戻っていく。とたんに両腕にかかる重量。みやのの重さだ。
「み、みやのさんっ、大丈夫ですかっ」
ヘルメットの外側からは判断できず、蓮平はぐったりとしているみやのに声をかける。そこへミニスカートの裾から白い下着をのぞかせながら、刀木が走ってきた。
「おーい! 蓮平ちゃーん」
加茂はその様子をじっと見つめている。枉津は自信たっぷりに口を開いた。
「どうですか、あの弾の威力は。たとえミサイルを撃ち込んできても、すべて包んでエネルギーを吸い取ってしまいます。まあ、それだけではないのですが」
口元を指で触りながら、仮面の男は戦車を指さした。
「枉津さま」
加茂は震える声で問いかける。
「どうしましたか。この戦車があれば直にナゴヤの町を籠絡することは可能。あなたには我が『金鶏』のために惜しみない労力を払っていただきましたからね。
大禍津と八十禍津はもう使い物にはなりませんから。その分あなたにはさらにご尽力いただきたいのです。もちろん幹部としてね」
「そ、それでは私も
「無論です。千二百年もの間我が『金鶏』に伝わる秘術。これであなたも帝を支えていただく位置まで登りつめた、そういうことです。
さあ、乗車いたしましょう。帝もお待ちですよ」
枉津は軽く口笛を吹く。すると、鉄板で覆われている戦車の後方が、繋いだ鎖によって開いていく。
「さあ、新しい時代を作りに出かけましょう。四百年に渡って私たちを苦しめ続けた、このナゴヤ城を二度と見られぬ残骸にするところからスタートです!」
枉津が戦車から下りてくるタラップに足をかけた。
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