幕間 3限目
『ただいまより、三限目を開始します。本日の語学は、《転生者》に万が一出会ってしまった時の対処法、マヒルダ・キャスタル語編です』
『まずは、前回の復習から』
『この言語において《絶対に書いてはいけない単語》は存在しません――そのような汚らわしく、下種な概念は音声化すらされていないのです』
『そのように作られた言葉ですし、ね』
『目上の者や初対面の場合によく使う言語のひとつである、ということは諸君も偉大なる両親から幼少時代より教わってきたことでしょう』
『その音素の並べ方の美しさについては、前回の映像を参考にするように』
『では、本日の講義を始めます』
『非常に大切な内容でありますから、よく聞くように。試験にも当然出します』
『……』
『あー、前回の授業を受けてくれた諸君なら分かってくれると思うけど、先生はあんまり堅苦しい言葉を話せません』
『他の先生方は綺麗な言葉遣いで教えてくれているのだろうけれど、僕としては、まあ、言葉ってそれだけじゃないと思うので』
『言語学講師が何を言うかって? ――言語学講師だからこそ、ですよ』
『まあそれこそマヒルダ語を使えば、誰でも綺麗な言葉遣いになるのでしょうが』
『じゃ、前フリはこれくらいにして』
『マヒルダ・キャスタル語は、対たい《転生者》として非常に優れた言語です。何故だかは優秀な諸君ならわかることでしょう――そうです、その通りです、《絶対に書いてはいけない単語》がそもそも存在しないから』
『と、言いつつも、先生としてはこのような美しい言語をそんな下種共に使ってほしくないのですが』
『一つだけ注意するべき単語があります』
『〔‘5i0g04^$〕』
『意味は、ニオンで〔ご帰宅下さいませ〕ですね』
『マヒルダ・キャスタル語を知る《転生者》はそう多くありませんが――稀に、妙にずる賢い者もいるのです。その輩は、自らの体にこの単語を書かせたがります』
『我々が、特に学生諸君は字を書くのは、緊急事態と《狂える賢者たちの祭りカーニバル》のときくらいしかないのに』
『前回の講義でも言ったように、マヒルダ・キャスタル語は非常に音律、音素、そして文字、全てが規則正しく並んだ素晴らしい言語です』
『そのようなものを、下等共のために失うわけにはいきません』
『ですからこの言語で対抗する場合、使う言葉はこれ一つ、と事前に決めておくことをお勧めします。例えば〔fg98ωg02-〕〔4UEu09〕〔!()8;revc34〕などですね』
『マヒルダ・キャスタル語にしてはあまり使いたくない言葉ですが、《転生者》にはこれくらいで十分です』
『勿論、実生活上で使うことは許されません。《絶対に書いてはいけない単語》ではありませんが、それなりの効果を発揮しますので』
『次に――』
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