バベルの塔

「けして考え過ぎなんかじゃない。こちら側からは、壁の向こう側を伺い知る事は出来ないけれど、“彼ら”は自分達が監視している事を、ボクらに察知させる為に、時にはあえて何らしかの痕跡を残していく。例えばそう、さっきのテレビの件もそうだ。」


「なんでまたわざわざそんな面倒な悪戯をするの?」


「そうした痕跡を残すことで、常にどこからか見張っているぞ、というサインを我々に示しているのだろうというのが、ボク達の見解さ。おそらくこれだけ巨大な塔の中にいる全員を常に監視し続けるなんて事は容易じゃないのさ。こうして姿を見せないまま、自分達の存在を暗に解らしめることで、ボク達が権力者の支配下に置かれているという事実を、ボク達の脳裏に刷り込もうとしているんだ。」


「なんだか薄気味悪い話ね。」

本当に背中が薄ら寒く感じられる。


「だろう?ボクらは常に支配による監視の目に晒され、意識的に抑圧され、拘束制御されている。さっきみたいに時折姿を見せぬまま現れては、違和感を感じる痕跡を残していくんだ。たまにあるだろ。ちょっとした物を探し回っていたところ、一度既に見たところで探し物が見つかったりってことがさ。狡猾な手口だが何度もやられれば非常に有効だ。双子たちは“彼ら”を、“幽霊(ゴースト)”と名付けて呼んでいるよ。」


「“幽霊”・・・?なんだか恐ろしいわ。小さい小人さんの方が夢があっていいなぁ。」


「恐いだろう。キミがそれに“気づく”か“気づかない”かで、この場所は“螺旋の塔”にもなれば、“マンション”にもなるって訳さ。ハンプティ・ダンプティの奴を見ただろう?真面目すぎるもんだから、ああなってしまうのも無理はない。ある程度受け流す度量も必要なんだよ。」


「私も気をつける様にするわ。」

私はこのマンション、ううん螺旋の塔の曰くについてようやく理解し、そして驚愕した。





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