001 魔王少女
「……
少女の
少女は完全に止まっていた。死んではいないけれど、生きてもいない。少女はほとんど
──ただ、左の口角だけが時々、こごえるようにちいさく
「…………暇。……」
エニャックはそれを、聞くでもなく、ただ聞いていた。それが、このセカイの音のすべてだった。セカイの音はヨレヨレとつづいていた。
それが、不意に、──異音がした。
「……ねえ、」
ひどく不安定で、語尾はほとんど
「……わたし、…………なんかい、……『暇。』って?」
「31,415,926,535回だよ、ベリー」
エニャックは即答した。
「ただし、」
エニャックは一度、短く
「──なんかい、……『暇。』って? ──の『暇。』は、カウントから除、」
「暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇ッ
──魔王って暇ぁーーーーッ」
凶悪な爆風が、エニャックをひとのみにした。少女の底で
エニャックが人間だったなら──。
爆風にのまれながら、エニャックはダメージを
エニャックが人間だったなら──。
即死、では生ぬるい。命など、原形を
(──やれやれ。勇者に同情するよ)
エニャックは人間がそうするようにおどけて肩をすくめてみようとしたけれど、あいにく肩など持ちあわせていなかった。
少女はぐったりしていた。またたきも忘れて、ぼーっとどこか一点を見つめていた。ちいさな
「……ゆーしゃ、ま、……だぁ?」
少女は、こてん、と転がった。あおむけになった少女の視界には、逆さまになった地平線がぼんやり白く
「……迷ってるんだ。ね、勇者、迷宮で迷ってるんじゃない?」
少女は、ぽつり、つぶやいた。エニャックはただ、聞くでもなく、聞いていた。
「……鬼畜すぎたんだ。……ね、ね、ね、あのトラップ、鬼畜すぎた?」
少女はひとり畳みかけた。
「…………あ。
少女は白い指で頭をぐしゃぐしゃ
「アホだったらどーしよぉ……」
少女は崩れ落ちるようにして、がっくりうなだれた。それきり、だまりこくってしまった。
少女の玉座は巨大だった。台座の上に全身を投げ出して寝転ぶ少女が、手のひらに乗せた米粒ほどにちいさく見えた。前の魔王がこしらえた玉座らしい。先代がどれほどの
「……ね、『今』って何回目の『今』?」
はたと顔を上げ、少女は
「…………。
「……だよね。……アホ勇者のアホぉ。……脳みそ干からびちゃうよぉ」
「…………」
無論、エニャックは無反応で、ただむっつり空中にぷかぷかしていた。ツレないエニャックを横目でにらみながら、少女はふたたび台座に倒れこんだ。
それにしてもエニャックの目は
「……暇で死ねるんですけどぉ」
見上げるエニャックはだんまりで、ただ見るでもなく、少女を見ていた。
「そーだ」
不意に、少女は顔を上げた。エニャックは
「いってくる」
「…………ベリー?」
「勇者んとこ。いってくる」
「ベリー、それは許されない。セカイのルールに
「ルール?」
少女はムッとほっぺたをふくらませ、トガらせた視線をエニャックにぶつける。
「ルールに生きて、パパは死んだ」
「……先代は、魔王の役割を生きた」
「魔王の役割? ……パパの役割は?」
「ベリー、理解しているはずだよ。これは魔王が勇者に倒されるセカイなんだ」
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