商隊護衛の魔法弓師
蓼 早苗
第1話 行き倒れ
「……た!おい、あんた!しっかりしろ!大丈夫か!」
豪胆な声と共に、肩を揺すられ気がつく。
「おお、気がついたか。ったく、こんな野原でお寝んねか?嬢ちゃん、若いんだから気をつけなよ?」
覗き込むのは心配そうな顔。力強い手と傷のある顔とは裏腹に優しい声がかかる。背中には大剣、腰には左右それぞれに長さの違う剣を2本ずつ差している。
「まさか、寝てなんていませんよ。私はコンスタンシェといいます。助けてくださって、ありがとうございます」
「それならいいんだがよ。体調でも悪いのか?方向さえ合ってればこの商隊で送り届けるぜ?」
「いえ、大丈夫です。私は……あれ?私は…何が目的でここまで来たんでしたっけ?」
「おい、嬢ちゃんそれってもしかして…」
「「記憶喪失?」」
「…いやいやいや、それはありませんよ!ちゃんと名前はわかりますし、…あれ?他がわからない…」
「これはマズイな。…よし、ちょっと待ってろ」
「あ、待ってください。……名前聞けてません。待ってろって言っても…。私、これからどうなるんでしょ」
10分程後、先ほどの顔がもう1人連れて戻ってくる。
「あ!やっと戻ってきた。もう、急に置いていかないでくださいよ。そちらは?」
「こっちはこの商隊のリーダー、セブミル・ロサンだ。ロサン商会の会長だ、聞いた事は?……そう、覚えてないか。ついでに俺はザカム。この商隊の専属の護衛で護衛頭だ。嬢ちゃん、記憶喪失ならお節介かもしれんが、うちに雇われんか?見たところ、田舎の出の様だし、護衛をやって武器の扱いを身につけるのは護身になるし金も出る。悪くないと思うんだが」
「ああ、成る程。それでリーダーさんを呼びに行っていたわけですね。セブミルさん、コンスタンシェです。お申し出、ありがたくお受けします。以後、よろしくお願いします。」
「ザカムが行き倒れを加えたいと言った時は驚いたが…。まあ、商隊は助け合いが肝だからな。歓迎するよ、イリアスさん。もっとも、護衛としてうちに入る以上、働いてはもらうがね」
「はい!よろしくお願いします!」
「それじゃあ、ザカム、後は任せていいかね?関所が近いから手続きの準備をしなきゃならんのだ」
「ええ、後は私が」
「すまんな、頼んだよ」
そう言ってセブミルは前の方へと走っていく。
「すまなかったな、お節介を焼いて。迷惑だったか?」
「まさか。何をどうしたらいいかわからない状況ですからありがたいですよ。ところで、護衛をしようにも私は武器を持っていません、どうしましょう?」
「そうだな、武器なら余ってる剣を貸してやろう。それと、魔法は使えるか?」
「魔法ですか?いや、分からないですね」
「そうだったな。それじゃ、後で俺が使ってた魔法書を見せてやるよ。まあ、俺は習得できなかったがな。護衛にしても護身にしても、何か武器を最低1つと魔法が使えれば問題無いだろう。お古で悪いが、給金を貯めていいのを買ってくれ」
「はい!ありがとうございます!」
「それじゃ、輸送馬車の方に行くか」
「ほら、取り敢えず武器はショートソードでいいだろう。一般的な物だし、これなら嬢ちゃんの細腕でも大丈夫だろ。それと剣帯もだ。付け方はわかるな?魔法書は…お、あったあった。体系化された魔法の基本はだいたい記されてる。取り敢えずそれを全部試してみて、上手くいきそうなやつの詳しい魔法書を自分で買ってくれ」
「自分で、ですね。はぁ、高いんだろうなぁ」
言いながら剣帯を付け、渡されたショートソードを差す。
「これは大声では言えないけどな、そういう時は商人の横つながりを使わせてもらうんだよ。まあ、その時が来たら教えるから、今はそれを使いこなす事に力を注ぎな。剣は俺が教えるから、魔法は自分で頑張るんだぞ」
「はい!それじゃあ、早速稽古をお願いします!」
「良い心掛けだ。でもまあ、今は関所も近い。街に着いてからにしてくれ」
「そうですか。私もまだよくわかってませんし、街で美味しいもの食べてからですね。ふぅー、お腹空いたなー」
「…高いのはダメだぞ。食ったら稽古だ。俺の教えは厳しいぞ。しっかりついてこい!」
「はい!」
記憶喪失から始まった私の護衛士としての生活。一体、どうなるのでしょうか。
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