4話 お店を盛り上げよう!
お店がピンチ
5月に入り、
けれども、家は喫茶店なので、何処か旅行に行く事も無く、G・W中もお店のお手伝いをする。
世間がお休みの日の飲食業というのは、まさに稼ぎ時なわけでして……。
お手伝い用の服に着替えて、お店の中へと入る。
……今日は忙しくなる。そう思っていたんだけど、12時過ぎても、お客様は一人も来ない。
「うーん、G・Wの最初は来ると思っていたんだけどなー」
珍しく、お父さんが愚痴を零していた。
「あれじゃない?」と言って、キリおねぇちゃんが、玄関のガラスの壁越しに指を差した。
ガラス越しに見える対面に、新しく喫茶店がオープンしているみたいだった。可愛らしい、メイド服を着た、おねぇさん達がチラシを配っていて、次々とお兄さん達が入ってる。どうやら大繁盛しているみたい。
「メイド喫茶かー。今日オープンだと、そりゃ足取りも止まるな」
お父さんは、納得する様に首を頷かせた。
「また強敵が現れたわね」
「『唐辛子亭』を創業して以来、色々なライバル店が目の前に建って来た。ご飯のボリュームを主体とし、喫茶店でありながら、ちゃんこ鍋が食べられる相撲喫茶『どすこい』に、若者をターゲットにした中二病御用達、闇の喫茶店『ダークネス・カフェ』」
「そんな店あったっけ?」
「とにかくだ。これだけお客さんを取られてしまっているって事は、ここからでは見えないが、相当の客席があるって事だ」
「それで?」
「このまま放置では、お客様が減る。そうなると自然と店をたたむ事を止む無しになってしまう」
「ええー? それは嫌だなー。ここが潰れちゃったら、僕仕事先が無いよー」と、透さんがやってきた。
「そんなわけで、『唐辛子亭』も女子の服を変えるぞ!」
お父さんは、意気込みながら、裏口へ出て行った。暫くすると、沢山の服を抱えて、それをテーブルの上に置いた。
「さあ! 好きなのを選べ! どれがいい?」
お父さんが用意したのは、ピンクのメイド服に猫耳ヘアバンド、セーラー服に、スクール水着に、体操服とブルマ……。今時、ブルマって……。
「
翼さんが、顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
「スク水とかきっついわ。ハナミンゴ。私達、アラサーよ? もう、こんなん着る年じゃないわよ」
キリおねぇちゃんも、眉をひそめて嫌がっている。うん、私もなんか嫌だ。
「お前ら、年の割に若作りしてんだから大丈夫だって!」
「何処から仕入れて来たんですか? これ」と、翼さんがスクール水着を広げて凝視している。
「細けぇことはいいんだよ! むしろ聞くな」
「どうかな? ハナミンゴ似合う?」透さんが、体操服にブルマと猫耳姿に着替えていた。これは色んな意味でやばい。股間の辺りがもっこりしてるし!
「気持ち悪いわ! 今すぐ脱げ! 野郎はいつも通りだ!」
衣装について、ワイワイ騒いでいると、入口が開く鈴が鳴る。
「こんにちは桜桃ちゃん」
なんと、白兎君が来てくれた。頭にグニグニを乗せて。
「白兎君、来てくれてありがとう!」
「僕ね、アーモンドカレーが食べたい。辛さは甘口で。グニグニは何食べる?」
「白兎と同じのでいいよ」
「じゃあ、アーモンドカレーの甘口3つで、お持ち帰り出来るかな?」
「うん、すぐ作ってもらうね。良かったら空いてる席に座って待っていて」
私は、お持ち帰り様にカレーをオーダーする為にキッチンに入る。
「キリおねぇちゃん。アーモンドカレー甘口3つ。お持ち帰りでお願いします」
「あいよ」
キッチンから出ようとすると、横目に大きな
「透さん、大丈夫ですか?」
「あ、桜桃ちゃんに見られちゃったね。実は、常連さんで役割論者さんいるでしょ?」
「あの、いつも笑っている人達ですよね?」
役割論者と言えば、目覚まし時計くれた人達だ。何でも『生けとし生ける者は、必ず役割を持って生きており、役割が持てないものはゴミ』という、信念を持っている宗教団体さん。3人しかいないけど。
「そう。僕の家、公園の近くなんだけど、真夜中に『んんwww』とか、『ありえないwww』とか大声で言うもんだから、全然寝付けなくて」
「大変ですね」
「それだけじゃないんだ。眠りについたら、ちっちゃなメイドさんが出てきて」
「メイドさんが出てきて?」
「うん、大事な所を足で生まれたり、蹴られたりドМプレイを虐げられているんだ」
「だ、大事な所が……ですか?」
「おい、透。桜桃に変な言葉教えるなよ?」と、お父さん。
「やだもう、まだお昼ですよ?」翼さんが、また顔を真っ赤にしていた。
「本当だって! 僕も困っているんだよ! 隆! なんとか言ってよ」
透さんの声に、フライヤーから、短い黒髪の、のぼーっとした人が顔を出して来た。目が細くて、お団子みたいなお鼻の男の人。あれ? こんな人居たっけ?
「……我慢しろ」
ボソっと、それだけ言って、自分の仕事をまた始めた。
そんな時に、またもや入口が開く鈴がなった。
「ほら、丁度あんな感じのメイドの子だよ」
入口には、紫色の髪をしたおかっぱの女の子が居た。背丈は私と変わらないぐらいで、服は黒の服に、フリルの付いた白の前掛けエプロンを上から重ねている。ふわふわしたヘアバンドをしており、
「いらっしゃいませ」
私の声は届いておらず、横を通り過ぎるメイドさんは店に入るなり、白兎君の方へと歩いて言った。。
「まぁ! 素敵な殿方。私、前のお店でメイド喫茶をしております。名を安藤ユマと申します。以後お見知りおきを」
ミニスカートをたくし上げて、深々と頭を下げる。凄い、これがメイドなの?
「このお店の方でいらっしゃいますでしょうか? もし良ければ、私とティータイムを楽しみません事?」
「僕は、お客さんだよ」
「あら? それは失礼しました。それにしても、可愛らしいお顔……もっとよくお見せになって?」
コホンと、お父さんは軽く咳払いをする。
「これは、かわいいメイドさん。私が『唐辛子亭』の店長をしております。何か御用でしょうか?」
お父さんが、メイドの前に立って軽く会釈をした。
「……貴方がこのお店のご主人? ええ、晴れて本日オープンとなりましたので、私の主人が、ご覧の通り忙しい方ですから。私が代わりに、ご挨拶に参りましたの」
「それはそれはご丁寧に」
「いずれは、この町全ての男性方にご来店頂きたいと思っております」
「なるほどなるほど、志が高くてよろしいですね」
「つきましては、お店を立ち退いて頂けると助かるのですが。ほら、ライバルは少ない方がよろしいのではなくて?」
「なるほど、それは名案ですね!」
「でしょう?」
「私からもよろしいでしょうか?」
「はい、何なりと」
「かえれ」お父さんは笑顔で言い放った。
「残念ですが、交渉は決裂って事で。ご心配無く、ここら一体の住民は、私達メイド喫茶『悪戯に小生意気』が頂きますので」
「ええから、さっさとかえれや」
「それでは、御機嫌よう」
メイドさんは、深々と頭を下げてお店を出た。
「桜桃! 塩もってこい! 塩!」
私は言われた通り、台所から塩の入った袋を持ってきた。お父さんは、袋を持って、店の前で怒りをぶちまける様に塩を撒く。袋の塩を全部使いきって戻って来た。
「立ち退けってアホとちゃうか? 只でさえ客取られてんのに」
「まぁまぁ、ハナミンゴ落ち着いて。はい、抹茶のフィナンシェだよ」
「ミルクティーもあるわよ」
お父さんは、透さんとキリおねぇちゃんが用意した抹茶フィナンシェを頬張って、ミルクティーを一気に飲み干した。
「あんな店に負けてられるかぁ! お前ら本気出すぞ!」
お父さんは、大きく息を吸い込んで、「宣伝だぁ!」と叫んだ。
「全く騒がしいね。この店は」と、グニグニは毒を吐くように言う。その声に振り向いて、「ふむ、これだ!」とお父さんはグニグニの身体を掴んだ。
「なんだい? このおっさんは? 着易く触らないでくれる?」
「キャアア!! シャベッタァァァ!!」
「何々!? うわ! なんかいる!」
「鳥さんですか? これ!?」
あっと言う間に、変な生き物であるグニグニは、唐辛子亭店員の注目を集めてしまった。
突如として、何かを思いついて家の中に入っていたお父さんは、何やらボンベやら、チューブやらを持ってお店に入って来た。手には、袋入りの風船を持っている。
「それでどうするわけ?」
「これをだな。見ておけよ?」
お父さんは、ボンベにチューブを繋いで風船を膨らます。まずは緑色の丸い風船を作った。次に長細い白の風船を2つ作り、くるくると細い風船を撒いて羽を作った。緑の風船の横にテープでくっ付けて、マジックで目を書くとグニグニの風船が出来上がる。凄い、パッと見ただけでは、グニグニと見分けが付かない。
「わぁ! グニグニだ!」と、白兎君は驚く様に笑っている。
「可愛い!」と翼さん。
「まずは、子供の心をハートキャッチで行くぞ! ぶっちゃけこのメンバーでは、大きいお友達クラスのお客様は無理だ」
お父さんは、グニグニ風船を片手に叫ぶ。
「メイドが相手じゃあねぇ」と、キリおねぇちゃん。
「俺達は、家族連れを狙う! 風船に、店の名前と電話番号を書いて、店の前で配れぇい! あとキャッチフレーズを忘れるなぁ!」
私達は、風船で色々な動物を作り、マジックで電話番号や『カレーを食べるなら唐辛子亭』『紅茶の美味しい喫茶店 唐辛子亭』『メイドをぶっ飛ばせ!』等のキャッチフレーズを書いて、紐を結ぶ。
お店の前で配り終えると、少しづつだけどお客様が足を運ぶ様になった。効果は抜群みたい。
「白兎君、今日はありがとう。時間取らせてごめんね」
「いいよ! 役に立ってくれたなら僕も嬉しい。桜桃ちゃんも、お店頑張ってね」
「うん、私も頑張る」
「くしゅん!」白兎君は小さなくしゃみをした。
「風邪?」
「ううん、良く分かんない。風邪引いた事無いから」
「気をつけて帰ってね」
「うん、グニグニ帰ろ」
「それ僕じゃないよ」白兎君は、グニグニ風船に向けて言っていた。
白兎君を見送った後は、風船配りを頑張った。明日はお客さんが来てくれるといいなぁ。
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