アイドルのDVD
そんなわけで、水奈ちゃんと部屋でお昼ご飯をする。今日のお昼ご飯は、ミニハンバーグが二つトッピングされたアーモンドカレー。アーモンドナッツのバターを使って濃厚な自然の甘味と芳醇の深みを出し、更にピリッと辛いスパイスをいっぱい使っている。甘さと辛さは互いに喧嘩せずに、手を取り合って仲良く口の中で混ざる。
ライスとの配分は、黄金比を意識したライス7とルー3。ゴロっとした、ジャガイモとニンジンがルーから顔を出している。お肉は、甘さに定評のあるバウムクーヘン豚をしゃぶしゃぶにしてじっくり煮込んである。サシと呼ばれる油の部分が凄く甘くて美味しい。
隣のお皿に添えられている茹でたオクラの輪切りはお星様みたい。透明に見える程薄く切られたオニオンスライスと糸みたいに細く切られたニンジンと合わさっている。シャキシャキしたレタスが回りを囲うサラダは、流行りの塩ドレッシングであっさり食べられる。
「美味しいねー」
「うん、美味しいー」
お昼ご飯を食べ終えると、水奈ちゃんが、カバンから何かを取り出す。
「今日はね、これを持ってきたの」
水奈ちゃんが取り出したのは、DVDケース。表紙には、可愛い女の子達が5人並んでいる。
「あ、これ今、人気の
HKMR5とは、最近よくテレビに出ている5人組のアイドルユニット。何でも、代々墓守の一族の集まりらしく。龍を倒す使命を持っていると、この間テレビで言っていた。服装は、白のフリルが沢山着いたシャツ。その上から重ねる青色のベストには、金色のブローチやチェーンがライトに照らされる度に光る。スカートは、赤の生地に黒の線がクロスしたチェック柄。まさにアイドルの服装だ。
溢れるリーダーシップで、仲間を引っ張るHKMRのセンター。
無口なクールビューティ。
小っちゃくても縁の下の力持ち。
口は悪いけど、とっても優しい姉御肌。
スーパーミステリアスガール。
「そう、小学生から中学生ぐらいまでのアイドルユニット。デビュー曲『ドラゴンスレイヤ』は、オリコン一位を獲得してから、今現在進行形で音楽業界の頂点に立っているといっても過言ではない」
「でも、どうしていきなりこれなの?」
「いい? 私達はまごう事無き女子よ? 女子に必要なのは女子力! 最初の関門は身なりよ? 身なりを学ぶには? はい桜桃ちゃん」
水奈ちゃんは拳を握りしめ、マイクに見立てると私の口元へと持ってきた。
「えーと……オシャレな人の真似をする?」
「正解。では、今世の中で一番オシャレな小学生と言えば? はい桜桃ちゃん」
「
「……正解。では、私達が今すべき事は? あとは解るわね?」
「え……と……、HKMR5の真似をする?」
「ファイナルアンサー?」
「え? ファイナルアンサー」
「…………正解」
もの凄い笑顔で、水奈ちゃんは言った。ごめん水奈ちゃん、正直うざい。
「そう、HKMR5には、衣装はもちろん。ダンスだって一流よ。私達は、来年中学生になる。中学生がダンス一つ踊れないと言うのは、これは恥ずべき汚点となりかねない」
「そうかな? そんな事無いと思うけど……」
「甘い! 甘すぎるよ桜桃ちゃん。人は、年々進化を続けているの。この意味が解る? その昔、小学生や中学生がダンスを踊れていたと? 否、その時代には小学生や中学生にダンスを求められていなかったからよ」
「言われてみれば」
「では今の現状を見て? 小学生や中学生が、完璧なパフォーマンスを持ってして、音楽業界の頂点に君臨しているのよ? 時代は小学生や中学生を求めている!」
水奈ちゃんは、拳を強く握り締め熱く語る。
「まずは、HKMR5に
「言いたいことはわかったよ」
「良し! 早速ライブDVDを見るわよ」
DVDプレイヤーに、DVDを入れて再生ボタンを押す。
「最初の曲は何かな?」ワクワクしている水奈ちゃん。
「えーと、『墓荒しはぶっ飛ばせ!』ね」パッケージの裏を見て曲名を確認する私。
激しいドラムの音が、スピーカーから流れる。それは耳を叩きつける様に激しい。エレキギターのきゅいいいいん! と言う音が音程を作った。
『安らぎを求めてー墓に入る者~♪ それを荒らす輩~♪ ぶ・っ・と・ば・せ・ぇぇぇぇい!!!』
センターの輝鈴ちゃんは、握った拳を前へ突き出し、物凄い形相で叫び声をあげる。私は静かに停止ボタンを押した。
「ごめん、水奈ちゃん、これきつい」
「確かに、これは踊れる曲じゃないわね。誰よ、これ作詞作曲したの」
「作詞は、墓山 静樹ちゃん 作曲は、墓道 ののちゃん」
「大人しそうな顔してロックが好きなのね」
「センターの輝鈴ちゃん、めっちゃ苦しそうに
「次の曲行くわよ」
次の曲は、静かに上品なピアノが、緩やかに流れる。
『花は咲き、鳥は飛び♪ 風は吹いてー月がー照らすー♪ そしてーお墓♪』
「この歌詞のセンスの無さ! なんで唐突に、お墓が出て来るわけ?」
「あ、これ、『駆ける妖刀』の主題歌よ!」
「曲名は、『花鳥風月そして墓!』 美しいイメージが出来上がった所に、いきなり墓なんか出て来られたら、葬送曲にしかならないじゃない! なんかもう台無しだよ! 色々!」
「でも、とらじろうの声優さんが、バックコーラスしてるのよね。この曲」
「しかも思いっきりバラード! HKMRも、立ったまま踊りもせず、熱唱してるし! 次いこ!」
スピーカーから、風の音が聞こえて来る。ギターを優しく
「あ、これインストルメンタル。音しかない奴だ」
「なんで、そんな曲が三曲目に入ってんの? HKMRメンバーも裏方に行っちゃったよ? 完全に休憩ソングじゃない!」
「次よ! 桜桃ちゃん! 次の曲名は?」
「『墓石も磨けば、宝石になる』」
「墓石は磨いても墓石よ! もぅマヂ無理……とばそ」
スピーカーからは、アップテンポなトランスの曲が流れて来る。
「あ、これはデビュー曲ね」
「『ドラゴンスレイヤ』だね」
「桜桃ちゃん! このダンスを覚えるわよ!」
私と、水奈ちゃんは、一時停止、再生を繰り返して、モニターのHKMR5の振り付けを真似していく。
「一通り覚えたわね? よし、曲を通してやってみるよ」
再びスピーカーから、『ドラゴンスレイヤ』が流れる。
音楽に合わせて身体を動かし、リズミカルに足踏みから入る。モニターのHKMR5を見ながら手振り足振りを合わせる。サビに差し掛かるこのタイミングでターン! 同時に水奈ちゃんのツインテールが私の顔面にぶつかる。
「水奈ちゃん! 回転方向逆だよ! 右回り右回り」
「ごめんね」
もう一度やりなおして、再びサビに差しかかる。今度は、フライングした水奈ちゃんの伸ばした手が水平チョップとなって私の顔面を殴打した。
「私ここで見てるね」邪魔をしないように私は、部屋の端で座り込んだ。
「ごめんて、桜桃ちゃん! そうだ! 公園に行こう! 公園なら広いから思いっきりできるよ! ね!」
そして私達は、公園へと足を運ぶのでした。
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