第23話 新らしきパーティ
「なんて言ってた?」
「なんの知らせもなく、パーティ抜けられるとこっちは心配するんだけどー、だそうです」
パーティメールを読むカレンが、褐色少女に似せて俺に言う。
うぐぐ、画面の向こうからユアの舌打ちが聞こえてきそうだ。
「教会から戻る時、連絡する暇なんてなかったんだよ。カレン、ちゃんとその辺メールで伝えてくれた?」
『はい』と笑顔が返ってくる。
うーん、伝えてた割には手厳しいユアだよな。少しくらい大丈夫だったとかの労いはないのかよ。
それでカレンの少し離れたところでは、壁に寄りかかるミロクがすぱーと煙を吐いていた。
ここ禁煙しゃなかったっけ? と思うここは、ギルド本館の廊下。
俺が出てきた部屋は、代表補佐役デカルトさんの私室になり、このフロアはギルド関係者しか立ち入れない区画である。
そんなところでカレンを待たせ俺が何をしていたか、いいや何をされていたかと言えば、お説教。
職を剥奪されないだけでも感謝し給えよ、とデカルト氏に幾度となく言われ、散々愚痴られた。
そうして、締めくくりは『ミロクの管理』を確約させられて終わる。
ミロクが姿を暗ましたら、俺の責任。ミロクが何か問題を起こしても俺の責任……らしい。
「はあ……ちょっと前までは結構、魔王討伐にやる気感じてたんだけどな……」
「イッサ……話してみると、意外にも普通に会話ができます」
ひそひそとカレン。
清廉潔白の人であるカレンと
まあ、だからと言って油断は出来ないけどな。
んで俺は、そのカレン曰く、普通に会話ができるらしい妖女(妖美妖艶な大人の女性、もしくはそのまま人間じゃない女性の略)に聞く。
「その、ミロクはどうすんだよ?」
「どうする? アタイは魔王をぶっ殺すんだろ。あのハゲから言われなかったかい」
「いや、それは知っているんだけど。そうじゃなくて、討伐作戦まで三日あるからさ。その間どうするんだよって聞いたんだけど」
「クククッ、デカルトからアタイを監視するように言われてんだね」
そう言って、近寄るミロクが俺の腕を取る。
「坊や達の宿で適当するさ。けどそうだねえ、久しぶりの外だし、ちょいとばかり物見遊山と洒落込みたいね」
柔らかい塊。
胸の谷間に俺の腕が挟まる。
そんなに見惚れていたわけじゃないと思うが、はっと我に返えば、カレンの背中が遠い。
「ちょ、ちょカレンどこ行くんだよ」
「ルーヴァ達が待っていますから、宿へ戻るのです。イッサも三日後の討伐作戦開始日までには、戻ってきてください」
スタスタ去ってゆく騎士の後ろ姿。
なんだろう。こっち向いてくれなかった仕草にに怒っているようにも感じたのだが。
てか、俺も今すぐ宿に戻るつもりだから。
「さあ、どこに連れてってくれるのか楽しみだね」
うーん。戻るつもりなんだが……。
◇ ◇ ◇
三日間、酒浸りだった。
陽射しがいやに目に染みる朝。ふらふらと向かった先はギルド本館前。
「当日まで朝帰りとは、イササは駄目駄目亭主まっしぐらにゃね」
ルーヴァが俺の背中をバシリ。
うう、止めて下さい、頭に響くから。
そんな気分優れぬ俺の側には、ミロクから身を隠すようなアッキーが服の袖を掴む。
なんか、引っ張られると辛いので、これも遠慮したい。
カレンは浮かぶ場面に文字を入力中。
本日をもってカレンも、ユアやノブエさんとのパーティを解除する流れとなる。
「イッサから伝えることはありますか?」
「う……ん、特には……それより胃薬的なもの持ってない?」
「自業自得です。ユアとノブエさんからは一ヶ月以内に戻ってこないと永久追放だかんね、だそうです」
ほぼほぼ、ユアの発言だな。
一ヶ月かあ。まあ、そんくらいだろうな……。
「うっす、了解と伝えてくれ」
「ではでは、イササにカレレ。ルーヴァの魔王討伐パーティに入るよろし」
俺、カレンが、今回のパーティリーダーになるルーヴァと契約を交わす。
承認をもらい、パーティ欄に獣人ルーヴァ、騎士カレン、魔法使いイッサ、僧侶アキラの名が並ぶ。
んで、獣人は最大で5人のパーティを組めるから、
「おーい、ミロクも早くルーヴァにパーティ申請しろよ」
俺と違って、浴びるように酒をかっ食らってもケロッとしている酒豪に催促した。
「アタイは魔法使いの坊やと組むとは言ったけど、そこの獣人と組むつもりなんてないよ」
「いや、俺がパーティリーダーになると4人までしか組めないから」
などと、道理を説いたところでこいつが納得するだろうか……。
飲んだ酒場でも、アタイはこの世界のすべてが嫌いだから酒代なんて払わないうんぬんと、ムチャクチャないちゃもんをつけて無銭飲食を繰り返す始末。
俺の中には、行く先々でギルドに請求してくださいと頭を下げまくっていた記憶が僅かながらに残る。
既に頭痛いのに、出だしから些細な事で頭を悩ますことになるとは。
「ミロクさん。パーティは数が多いことの方が利点も多いです。イッサが所属するパーティに加わることは、イッサと行動を伴にすることに変わりないはずです」
カレンへミロクが歩み寄る。
「アタイに指図するんじゃないよ。アタイが嫌だと言うんだ。だったらそれが正しいのさ」
そう告げて、ミロクは一人ギルド本館へ入館して行った。
「んー。やっぱりミロロは噂通りの曲者にゃね」
「ええ……。すみません。どうやら私の発言が彼女の機嫌を損ねてしまったようですね」
「ああーと、別に怒ってるって感じじゃないぜあれ。たぶん元からパーティ契約自体はするつもりなかったんじゃないのか?」
「おにゃ、さすが亭主にゃね。嫁の気持ちはよく分かるのにゃ」
「ルーヴァ、それマジで止めてくんない。俺が好き好んであいつの酒の相手してたと思うのかよ。強制だつーの、拷問だったつーの」
まあ、その甲斐あって、女王様のご機嫌バロメーターを測れるようにはなったけど。
気を取り直して、ミロクの後を追う俺達。
右に『様子を見に行った時は、デレデレイッサがお酒を楽しんでいるように見えましたけれど』とカレン。
左に『ミロロに抱きつかれて、ウハウハしてたにゃね』とルーヴァ。
そんなとこは決してないと物申す俺の後ろでは……立ち止まるアッキー。
「どうかしたか、アッキー?」
「あの、ボク……どうにもあの人苦手って言いますか。本当に大丈夫なんでしょうかあの人。殺人鬼なんですよねあの人。ボク、あの人が近くにいると、食べられそうな気がして怖いんです」
「大丈夫だよ」
俺は力強く一言。
その励ましに、アッキー顔から曇りが取れる。
「食べられそうになったら、俺も一緒に食われてやるから」
自信たっぷりに親指を立てて言ってやった。
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