もう、好きじゃない。

永才頌乃

第1話・朱






 どうして。


 何で。


 傷付けたのに。


 みんなと一緒だと決めつけたのに。


 なのに、どうして──。






 ──細い肢体を抱き留めた手が、紅く紅く、染まって行く。






 力を失って行く震える指先が、頬を愛しげに撫でた。

 焦点の定まらない瞳が絶望に打ちひしがれ、後悔に染まる姿を必死に捉える。


 ──命が零れて行く。


 けれど、頬を緩めてその口を開いた。


『────……』


 ──ぱたり。

 頬に触れていた手が地に落ちた。






 ──ごめん。信じなくて。

 怖かったんだ。信じる事が。

 裏切られる事が、──怖かったんだ。


 だけど、もう裏切られても良い。

 君になら、裏切られても良い。


 お願い。目を開けて。

 もう一度、俺を見て。


 全部、あげる。

 俺が持っているもの、全部。

 この命も、あげるから。


 だから、──頼むから。

 目を開けて。

 その瞳に、俺を映して。




 ──好きなんだ。




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