或る異世界の話(壱)

霧島 月呼

第1話

 高校生になり、コンビニでのバイトを始めた。バイトにも慣れてきたと思う。

 19時半過ぎ。うちの店舗では部活終わりの学生や仕事帰りのサラリーマン・OLの客足がちょうど途切れる頃で、少し暇 になる。ちょっと一息つけるかと思ったら、モデルの様な長身の男が入って来た。外国人モデルそのものの様なルックス。いや、金髪で顔が良い外国人だからと言って、すぐにモデルと決めつけるのは良くない。ここには外国人の客もよく来るが、今日の長身の男は見かけない顔だった。長身の男は雑誌コーナーを素通りし、酒コーナーで立ち止まる。男がこちらを気にした様子だった為、そっと視線を外し、フライのケースに隠れる。男は店内を頻りに気にしている様子だった。万引きでもするのか、強盗でも働くつもりなのか、俺は焦った。煙草の棚を整理するふりをして、万引き防止用の鏡でそっと男を窺う。男はずっと俺を見ているようだった。結局男は万引きもせず、レジに籠を置く。ワイン2本・サラミ・チーズ・カットフルーツと、猫缶…。

猫缶?猫缶といえば猫の餌だ。どうしようツナ缶と勘違いしているのではないだろうか。以前テレビで猫缶を安いツナ缶だと勘違いしたという外国人の話をしていたような。目の前の男も勘違いしているような気がする。日本語通じるか分からないし、でも気の毒だし。

猫缶を凝視している俺に男は怪訝そうな顔をしていた。酒類販売の為、慌ててレジ画面を指しながらタッチをお願いする。男は一言も発せず、店を後にした。

やばい。変に思われたかな?俺、外国人に話しかける勇気なんてないし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る