魔術師の異世界召喚

三叉霧流

プロローグ

第1話 魔術師赤神朱夏

 私は魔術師だ。

 世界の神秘を求め、世界を統べる法を求める、一なる状態を目指す者。

 この現代ですでに廃れつつある魔術師の家系。

 遙かなる太古から受け継がれた血統を守り、この世界の裏を見続けてきた一族。

 故に、私は人ではない。

 人の理から外れた外道。

 それが私、赤神朱夏の本質。

 だが、人を捨てたのにも関わらず本当に一なる状態に到達出来るのだろうか?

 それが問題だ。

 せっかく人を捨てたのに、一なる状態がただの幻想に過ぎなければ我が一族2000年の妄執もただの夢に終わる。下らない夢に踊らされて2000年も道化を演じるなど御免だ。

 では一なる状態になる方法とは?

 それを知るには古今東西のあらゆる神話を紐解く必要がある。

 ギリシャ神話のオリンポス山、北欧神話のアースガルド、ケルト神話の常若の国、日本書紀の高天原、仏教の三千世界、聖書の天界、ゾロアスター教のこの世が始まる前、様々な神話の聖典には、こう書かれている。

 一、神々が暮らす異世界が存在する。

 二、神々は戦いを行いそのなかで世界を統べる英雄が生まれる。

 ギリシャ神話のゼウスでも、彼は神族の一柱として並みいる神々の間に生まれている。だが彼はその力を持って戦いを制覇し、オリンポス山の覇者として君臨し、主神となっている。

 つまるところ、一なる状態になるためには、天界へと趣き、戦いを制覇すれば良い。

 なんと単純だろうか?

 魔術師達が必死で求めている一なる状態。

 それをただの争いで解決できるならば、それこそ笑いぐさだ。

 アカデミーや世界各国の神秘結社が真面目な顔をして、数百年、進歩のない研究を繰り返し、魂を消費し続けているのに、一なる状態はただの争いで解決できる。

 くだらない幻想を夢見る呪われた一族達が求めた方法はただの争い。

 私の一生を賭けて、ただ殺し合いをしに行くなど、馬鹿馬鹿しくて涙が出る。

 しかし、私にはそれを拒否することはできない。

 私はもう子供ではないのだ。

 我が一族の理念を継承するはずだった兄を蹴落とし、私は曾祖父から秘術を得た。

 秘術。

 何と呪われた言葉だろう。私の一生を縛り付け、私の命を奪う呪法。

 おそらく私は死ぬ。

 話は簡単。

 神々の戦いに繰り出すのだ。それは死ぬってものだろう。

 くだらない喧嘩だが、それはまさに神の喧嘩。それに巻き込まれて人が生き残ることなど不可能。生存なんぞ絶望的。

 そこに私は行く。

 私の血が受け継がれてきたこの2000年。我が一族が魔術を研鑽しつづけた2000年。

 ようやく、すべてが完成した。

 後は時を待つだけ。

 その時は、今宵。

 1999年7月28日の南極大陸 満月の夜

 ノストラダムスが恐怖の大王の降臨を預言した月に私は異世界へと旅立つことになった。

 

 

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