16】イマイチなサッカー部員からの提案 -1
本日は、月曜日。
土日の休みの反動がもっとも大きい週明け。
天気は曇り。夜中にかけて雨が降るらしいけど、日中は耐えるみたいで、可も不可もなくと言ったところ。
おでん探しにとりあえず支障のない天候だ。
「ん、んーっ」
僕は背伸びをしながら月曜の通学路、つまり何があっても帰っていいという免罪符を手に入れられたなら世界人口の約七十パーセントは確実に帰路へ着くという自信があるもっとも気だるげな曜日の通学路をぼちぼち歩いていた。
まあそう言いながら、今の僕はその七十パーセントには含まれていなかったりする。理由はもちろん勉学にあるのではなく、沢瑠璃さんとのおでん探しにあるのは言うまでもない。……沢瑠璃さんがその七十パーセントに含まれていないのが前提だけど。
沢瑠璃さんとの初デート(何度も言おう、あれはデートだ)から今日までの数日。日曜日はさすがにいつもと変わらない休日になったけど、平日と土曜の休み、僕は沢瑠璃さんと一緒におでん探しを続けていた。
その間、特に問題は起こらなかった。……それはウソでした。この年齢ゆえの若気の至り的な部分があるとはいえ、タイミングと相手が悪ければ公安職の公務員を呼ばれても全然おかしくないのだから、さすがに何もないことはない。
たとえばビジネスビルのカード式キーのスリットに沢瑠璃さんがどこかのポイントカードを通したところ途中で詰まってしまったり(これはなんとか除去できた)、どこか怪しい雑居ビルに入ったところ実はそこは成人向けのビルだったり(そのあとしばらく空気が微妙になった)、送電鉄塔を囲むフェンスの南京錠を針金で適当にしたら外れてしまったり(沢瑠璃さんには開かなかったと報告した)、消防署の訓練施設へ入ったのを見つかってホース巻きを手伝わされたり(沢瑠璃さんは免除された)と、まあいろいろありはしたのだった。
残念なのは、おでんは見つかる時があるものの結局見失ってしまうこと、僕の高所恐怖症は沢瑠璃さんと一緒ならマシになるものの一人の時はまったく改善されていないこと、そして沢瑠璃さんとの距離がなかなか縮まらないことだった。
おでんは、較べれば見つかる時の方が多い。けれどそのすばしっこさはちょっとげんなりしてしまうほどで、もう十年ほども一緒にいるはずの沢瑠璃さんからも逃げてしまう。一度、おでんの好物だという魚肉ソーセージを投入したこともあったけど、その効果の無さにはがっかりだった。
がっかりで言えば、僕の高所恐怖症もそうだ。昨日の日曜日、自宅前のマンションへ一人で行ってみた。少しは進展してるかも、という希望を込めてのものだったけど、結果はかんばしくなかった。二階まではなんとか上れたのだ。けれど、三階はムリだった。三階への階段を登るたび、腰から下の拒否感が一気に高まって、それ以上は僕の中で育てたはずの勇気がぽっきり折れてしまった。今の僕は、どうやら沢瑠璃さんがいなければいい結果を生みだせないようだった。
沢瑠璃さんとの仲もそうだ。……とはいえ、これに関して、沢瑠璃さんとの距離はまったくどうにもなってない、わけではないと思う。その判断基準として、女言葉と男言葉の割合が、多少ではあるものの変化している気がするのだ。まあそれも機嫌によるところが大きくもあり、機嫌が悪い時は終始男言葉なのだけど、それを一つのバロメーターとして見ている僕としては、小さくても嬉しい一つの変化、というか一歩の前進だと思っている。
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