3】スタンプラリーらしき地図 -2
「探す場所は検討つけてるのよ。そうだな……今日は一番近いここかな」
そう言って沢瑠璃さんは地図の一ヶ所を指さした。
僕はその指さされた場所というより、地図そのものを見つめた。
地図は、この街を中心にした地図だった。市販のもののようだけど、白黒でシンプルに描かれているその地図は、かなり精密なものだった。決して安価ではなさそうなその地図に、赤いマルが書き込まれている。それも、ざっと見たかぎり三十以上。そしてその半数以上に、見たこともないキャラクターのハンコが捺されている。
「……なんか、スタンプラリーみたいだね」
「スタンプラリーなんだよ」
「スタンプラリーだった!」
「冗談だよ、そんなわけないじゃない。それより、今日はここに行くぞ」
彼女の指さしたものは、ここから一番近くとおぼしき空白の赤マルだった。
ぱっと見たかぎりで予想はしていたけど、つまりハンコの意味するのはやはりすでに彼女が探し終えた場所なのだろう。……とすると、彼女はこれまで独りでこれだけの場所を? そしてそれでなおまだ見つからない? だとするなら、これはかなりの難作業だ。
……ん?
「ねえ沢瑠璃さん、それだったらこっちのほうが近くない?」
ふと見ると、彼女が指したものよりも多少近い赤マルがあることに気づいた。
けれど、沢瑠璃さんは一瞥しただけで「そこは後回し」と簡単に却下されてしまった。……なぜ!?
「じゃあ、作戦を発表するぞ。お前を囮におでんを引きつけて、私が捕まえる。分かった?」
囮……。おでんは、あのリラックスした写真とは裏腹に、猫ではない獰猛な生き物なんだろうか。
「……うん」
僕は頷く。彼女の発表した作戦が、作戦といえるものかどうかは別として。けれど沢瑠璃さんは僕がうなずいたことにずいぶんと気前を良くしたようで、「理解が早い手下を持てて良かった!」と満足気に笑っている。明らかに契約していないはずの単語がその言葉に含まれていることには完全に気づいていたけど、僕は黙っておくことにして、立ち上がることにした。現時刻は、十六時すぎ。モタモタしていると夕暮れになって、おでんを見つけづらくなる。
「じゃあ、さっそくだけど行かない?」
「そうだな。じゃあさっそくその前にあの滑り台へ」
「沢瑠璃さん行こう、今すぐに行こう、拙速は犬も喰わないと言うし春の夕べはつるべ落としとも言うし」
分かってる、そんなことわざは過去にも現在にもそしてたぶん未来にも存在しないことなど。ただ、滑り台から逃れられるのであればどんなウソでもつく覚悟が僕にはあった。
かくして、それでもなお滑り台に未練を残す沢瑠璃さんをなかば引きずるようにして、赤マルの地点へ向かうべく公園を後にした。
――僕は、バカだった。この時点で気がついておくべきだった。
地図の赤マルに共通する条件のことを。僕が僕だからこそなんとなく気づけたはずだった。
そして今朝、僕は沢瑠璃さんをどこで見かけたのかを。
沢瑠璃さんは今朝、マンションの屋上にいたことを、気がついておくべきだった。
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