わたしのツァオロン
@yukiwow
第1話
ツァオロン。ツァオロン。わたしは跳龍。
わたしは跳龍。次世代型指揮官型人型戦闘兵器。そのパイロット。搭乗員。その部品。一つの役割。使い捨ての歯車。機械の一部。
わたしの名前は、鳳麗。ホァレイ。女。少女。消耗品。
わたしは跳龍に乗って働く。人類の為に。つまり、巨鯨、ジゥゲイと戦う為に。
○
わたしの最初の記憶は、真っ白で四角くてとてもとても高い天井に、おびただしく、つまりは虫の抱卵のように敷き詰められた人の繭に入っている透明な液体と裸のわたしと、わたしの両手の柔らかい爪。視界はほぼ固定され、周りは液体とわたし。機械腕(アーム)で養殖され、適宜取り出されるようであるわたしたち。
ようやく、わたしの番がきた時、つまり、わたしの繭がアームに持ち上げられ、繭を滑らかに切り開かれ、柔らかいネットの束の中にわたしがつまみ投げ出された時、わたしは初めてゲボゲボと呼吸を開始し、体を機械風で乾かされる感触を知り、首を捻って周りを見る自由を得た。残念というべきか、その時見えた景色は繭の中にいた時とほとんど代わり映えしないものだったが。
わたしはその時まだ、歩き方を知らなかったので首を動かしたきりネットに横たわり続けたのだが、またしてもアームが(わたしを摘み上げたやつとは別の大きさと形状のものだった)わたしの脇の下と腰を摘んでわたしの角度をネットと垂直にし、これが二足歩行の基本ね、とでも言いたげに前後にゆらゆらわたしを揺らし、もちろんわたしはわざわざネットの上に立ってなどいられないのでアームを少し鬱陶しく思い始めたのだった。
こんな調子で、わたしの意識が芽生えた日、つまりは、わたしの誕生日に、わたしは早速戦うことを強いられたのだ。もちろん、ジゥゲイと。
わたしの創生主にとって、それはよくあることだったのだろうけど、わたしは最初のジゥゲイとの戦闘で右腕を喪う。わたしのツァオロンは体の右半分を喪う。その時はわたしの身体感覚に対する捉え方もおかしかったので、ツァオロンの右半分と一緒にわたしの右腕が吹っ飛んでいったことをちょっとしたハプニング程度に捉えていたが(あいたた、ちょっと痛いんだけど、程度に)二回目のジゥゲイとの戦闘の時に上手く新しい右腕が馴染まなくって、今度は頭を吹っ飛ばされそうになる。
それは、危機一髪といった感じでツァオロンの上半分を吹っ飛ばされた程度で済んだから良いものの、右腕がまだ馴染んでいないのに新しい頭なんかをすげ替えた日には、新しいわたし、すなわちニュー・ホァレイ誕生、などと笑ってられない内に3体目のジゥゲイと戦闘になるところだったに違いない。まぁ、それは、さすがに笑えそうもない。
ところでわたしは、わたしがアームに摘み上げられた時に、別のアームがわたしのとは別の繭を運んでいるのも見ていて、まぁ、その繭はわたしの隣の繭だったんだけど、その時繭の中にいた別のわたし、つまりはホァレイもわたしを横目で見ていて、お互いに目が合った事に気付いていた。もちろん、繭の中のわたしはわたしと液体とすら区別することのない意識の中に漂っていたわけで、目が合ったというのもそのままの意味で、今思えば、というやつだけど、無意識にお互いの存在を確かめ合ったりもしたのだ。
それで、わたしは5体目のジゥゲイを殺しながら、あの時のわたしもどこかでジゥゲイを殺しているに違いないと安心している。もちろん、幸運なわたしと違って、あの時わたしと目が合ったホァレイは、ニュー・ホァレイになってる可能性もあるはずだけれど、それでもいい。きっと今のわたしと同じように、ジゥゲイの5体目を殺し、もしかしたら既に6体目、7体目のジゥゲイを殺しているかもしれない。
いや、やっぱりそれは嫌かも。ほとんど秒単位で同じ時期に生まれたのに、もしもわたしとわたしのツァオロンよりたくさんジゥゲイを殺していたら、わたしはちょっぴり自信をなくしてしまう。
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