2020年に書いたもの

21gの価値

 人間は死ぬと21グラム軽くなると言われている。人々はそれを『魂』の重さであると考えた。だが、肝心の魂の正体については一切解明されていなかった。

 しかしある時、ラトン博士は魂の性質についての研究レポートを提出した。魂とは『良さ』であると。


 きっかけは些細な出来事だった。博士の祖母が亡くなったのだ。博士は助手に言った。

「実は先日、祖母が無くなったんだよ。彼女はとても優しくてね。困った人がいれば私財を擲ってでも助けてあげる人だったよ。」

 するとその話を聞いて助手は涙を流した。 博士は、何故助手が泣いているのか分からなかったため彼に質問した。

「どうして君は泣いているんだい。」

「とても良い話だったもので。」

 博士は驚いた。優しい祖母が死んだのだ。私にとっては大きな喪失であるのに、何故それが良い話だと言えるのか。

 博士は試しに、祖母がどれだけ優しい人間で、彼女が死んだことが周囲にとってどれだけの不利益を与えたのかを纏めて、学生達に読ませた。

 学生達は、みな感動で涙した。それは祖母の偉大さを語る量に比例して増していった。

 博士は不合理に思い、過去の文献を研究したところ似たような事例が数多く見られた。有能な人物が死に、人々は涙する。それは彼らを失ったことによる利益の損失ではなかった。彼らの死に何か心を動かされたからだという。

 そこで初めて博士は気がついた。人は死ぬと魂が抜け出る。その魂の正体は「良さ」であり、人が死ぬことで漏れ出た魂が、私達の内にある魂と共鳴して幸福を感じさせると。

 また世間の傾向から、若い者ほど魂の量が多く、年老いたものほど熟成しているということも突き止めた。


 博士の研究結果に世界中が驚いた。だかそれは誰にでも体験があることであり、すぐに受け入れられた。

 やがて先進国は魂による幸福を集めるために戦争を起こした。これは国を豊かにするためであると言って。戦争では大勢の人が亡くなったが、戦争が終わると、その分だけ世界は良くなっていた。

 その証拠に豊かになった世界ではどんどん人口が増加している。しかし、人口に対して魂の量が足りなくなるのではという懸念が相次いだ。だが喜ばしいことに、その問題は直ぐに解決された。人間以外の生物にも魂の存在が確認されたのだ。


 だから私達はより良い世の中を作るために、今まで通りの事をして過ごせばいい。自然環境を破壊して、他の生物を滅ぼすという行為を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る