神様
神様はエデンの園から人類を眺めていた。はるか昔、彼らと共に住んでいたのだが知恵の実を食べた罪で追い出したのだ。それでも元は自分が生み出した子であり愛情がないわけではなかった。地上に落とされ困っていた人間に対して最初はこっそり食べ物の種を与えたり、農業の仕方を教えたりもした。
だが今では自分達の住みやすいように地面をアスファルトで固め、木を切るかわりにビルを建て、山を削り都市を拡張している。まるで自分達が神にでもなっているかのようだった。
神様はそんな人間をこらしめるために大雨を降らせた。しかしどんな降水量でも街に落ちた雨は完備された排水システムを通り貯蔵タンクに送られる。河川は下流で枝分かれするように整備されており氾濫することはなかった。
干ばつを起こす。ビルの上に敷かれたソーラーパネルは太陽光を集め室内を涼めるための電力に変換される。水不足が起こりかけたが発達したネットワークで,数日間まで未曾有の豪雨だったという遠い国から飲み水が海上輸送がされた。
疫病をばらまいた。身の回りが無機物で囲まれた清潔な街では、すぐに病人が隔離される。何名かの死者が出たがそれ以上感染が広がることはなかった。その後、この突然発生した未知のウィルスの構造について研究が行われた結果から、あらゆる病気を治すことのできる新薬が作られるようになる。
神様はこれを見て嘆いた。以前は世界をやり直せるほどの奇跡を起こせていたが、信仰力が弱まった今ではこれがやっとのようだった。神といえど自分を存在を信じる者がいなければ無力なのだ。
時が流れ文明が成長していく。やがて全ての物事は科学で説明できるようになっていき迷信の類は忘れ去られていった。
とある国の大統領はスイッチの前で押すべきか否かを悩んでいた。その時彼の耳元で何かが囁いたような気がした。と言ってもこの時代には空耳といったものは科学で説明ができるのだが。蛇のように低くて響くような声で「押してしまえ」と。
人類の間で戦争が起こった。雨のように爆弾が降り注ぎ、大地の草木が枯れる。一度始まった戦争はウィルスのように国から国へと広がっていき止まることはなかった。
一人の人間が荒廃した街の跡で誰かに助けを求め呟いた。しかし彼はその誰かが何者なのか分からなかった。遠い昔に聞いた言葉のような気もしたが、やはり聞いたことがなかったかもしれない。
「神様助けて下さい。」
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