ロリ×マジ ACT1 魔法論理研究会。

ぷーさん

第1話 魔法論理の起点事象

マジ×ロジ 魔導論理研究会           

                        

                       <Front Matter>


どうして魔法が発生したのか。そんなことは知りようもない。

ただ感じるままに言うなら、凡そ人として生きることに、近代と同時に心理的閉塞状態にある人間たちの腹奥の欲。

その凝り固まった欲が魔法の起源。

ゆえに僕の行為は正当なんだ。

だって、彼らに向けられた国民の感情は殺意だったのだから

 サミエル=カドフェル




西暦2020年5月12日。PM:13時27分 東京 新宿 都庁。


全てが慌しく動き、物と人で溢れかえる街、新宿。

だが、その日は普段の滞留する物音や人の声と異なり、地鳴りのような機械音のみが新宿を支配していた。

都庁周辺を旋回し空を囲う数十基の軍用ヘリと戦車。

道路を占拠し、溢れ返る人波はすべて武装された軍人に変っていた。

「サミエル=カドフェル。君は完全に包囲されている。即時投降を要求する」

複数飛び交う軍用ヘリからの勧告は、都庁の屋上に座り込む少年に向けられたものだった。

しかし、少年はただ無反応に屋上の排気口の影で座り込み、スマートフォンに写るニュースを見つめていた。

「遂に、前代未聞の集団殺戮を行った犯人が、今逃げ場を失い、ここ都庁の屋上で最後の時を迎えようとしています。現在、七カ国新首脳会談は延期され、日本政府の発表によりますと、『道徳では庇いきれない残虐性であり、人道を挟むことも難しい』との発表をしております」

「道徳…人道…?。コメントで聞こう」

少年は、ニュースの生放送に何かある都度、コメントを打ち込んでは無邪気に遊んでいる。

「最後通告する。君がこの投降を受け入れない場合、直ちに射殺する。カウント!30、29…」

一方的なヘリからの勧告に呼応し、スマートフォン画面は新年を祝うかのように、カウントコメントで溢れている。

国民の同調?、いや、ただの盛り上がりたいだけの祭りであろう。

避難勧告にも関わらず、だんだんと機械音だけでなく、遠くからカウントを数える人間たちのどす黒い声が脳内に響いてくる。

10カウントを切ると同時に少年はゆっくりと立ち上がり、両手を上げて降伏のサインを示した。

「全軍!カウントを中止。各国に連絡を!」

「中止!厳戒態勢のまま待機!」

新宿の街に響くほどの声と共に、上空のヘリは大きく旋回しヘリの中でライフルを構える。

手を挙げる少年の体を覆うほどの赤外線スコープの光は依然外されることはないが、その様子に緊迫した空気が和らいだ、はずだった。

「はあ~。ママ…世界の頂点だ!」

少年の甲高い笑い声と叫び。

その反応と共に、少年に向けられた銃口全てから銃弾が発射された。

その刹那の間を、2台のカメラが捉えていた。

1台目は監視カメラに映された映像。

口火は射撃だったのか笑い声だったのかわからない。

捕えた映像から見えたものは、少年の体から出た高速の赤黒く波状する波。

その赤い波は一瞬でビルを突き抜け、勢いを衰えさせることなく街全体に広がる。

そびえ建つビル群が赤い波に触れると、鉄筋のコンクリートは一瞬で塵に変わり、残された鉄筋の骨組もすぐさま塵へと変わる。

一つ目の監視からもその波に触れたのか、以後の映像は消失する。

二台目、遠方20キロ地点の高光度カメラの映像に流れたものは世界を驚嘆させた。

高層ビル群が立ち並ぶはずの場所にビルはなく、あるのは地面にへばり付いた溶岩のようなもの。

不気味にドロドロと大地を溶解し続けている。

新宿都庁を中心に約直径8キロ四方の大地が溶け、残されたのは沈下することのないマグマの塊だけだった。

これが、2017年に人類が魔法と接触してから3年後の出来事。

人類史上初めて7カ国首脳殺人者にして、負傷者含め8万人を出した新宿崩壊事件の首謀者。

破断の魔法使い。

『サミエル=カドフェル』 

7歳の凶行。

この事件以降、人類の認識は魔法を危険分子として隔離、管理対象へと移行することになる。




                         ACT 1           

                  <beginning or starting point>

                         <1>


西暦2024年5月12日 東京 魔法政令指定都市 蹴鞠市 魔法学校 屋上



いよいよだ…

私、『秋渕真理』(あきぶち まり)には、宿敵とも天敵とも言える男がいる。

可愛らしくセミショートの赤毛の髪、そして小柄な体躯からは想像もできないだろうが襲わなくては気が済まない敵がいるのだ。

「で、本当にやるのかよ?」

「あったり前でしょ」

「あたしは手伝わないよ」

「期待してないっての!」

これは私が勝手にやっている復讐談、いや悪に対する鉄追に他ならないのだ。

誰かの助けなんか借りようなんて思っていない。

何より我が友の加勢があっては、何の意味もない。

「ふふ、近くに生徒会長様もいるってわけだ。ほんと凝りないね~」

ターゲットの出陣を祝うように、玄関から校門前まで同じ格好をした生徒たちが整然と一列に隊を組んでいる。

その中を場違いに、ターゲットに連れ添うウエディングドレスとブーケに身を包んだ女性がいるが、いつものこと。

気にしてなんかいられない。

「魔法陣、展開。全身に息吹を与えろ。その風は私を包み、翅の揺らめきを与え給え」

私の足元に詠唱魔法陣が現れると、体全体をふわりと風が纏いつく。

「転送魔法!」

肩から魔法陣が浮かび上がり、そこに右腕を突っ込み日本刀を引き抜いた。

ターゲットとの目測は屋上から地上までの距離、約50メートル。ターゲットとの対角線距離は約200メートル。

風の初歩魔法だが、加速をつければ十分に寝首をかける。

(詠唱補助魔法も物質を転送させる魔法もうまくいった。あとは…)

今回の奇襲を10回はイメージトレーニングをしている。

加速付きの袈裟切りなら威力も十分なはずである。

「玲奈、行ってくる!」

私は意を決め学校の屋上のフェンスを超え、地面を勢いよく蹴ると滑空する鳥のように鋭く、そして速く、ターゲットの真後ろ、正確にはその首筋を捕えた。

「もらったぁ!」

滑空の勢いを最大限利用しながら、持っている日本刀を男の背後、正確には首に向かい振り切った。

体重を込めた一撃は、風を纏いターゲットを体を打ちつけて吹き飛ばす、…はずだった。

強烈な爆風で、周囲の生徒は身を屈める。

しかし、イメージした内容でできたのは爆風だけ。

全体重を乗せた一撃だったが、刀の切っ先はターゲットたる男の指2本で簡単に止められた。

「…何のつもりだ、クソ妹」

「お、お見送りだよ!バカ兄貴」

不機嫌という顔と聞かれたら、私はこう表現する。

私の兄を見ろと。

ニュースじゃ、今日の気温は夏の到来を予感させると言っていたのに、兄の格好は、黒いコートに黒い髪、全身真っ黒の姿。

この男こそ、我が兄こと『秋渕 洸優』(あきぶち こう)である。

そして、いつもの蔑んだような目で私を睨んでくる。

「…まぬけ」

私は指2本で止められた日本刀を持ちながら、体を空中で静止され動けない。

目の前の兄はまるで、ゴキブリか何かでも見るような視線を送ってくる。

私は犯罪者か何かなんだろうか。

「それと兄貴?いつからそう呼んでいいと言った?」

兄はゆっくりと私を降ろすと、そのまま私の手を強引に掴むと握手を強要してきた。

「痛!痛い!」

「そうか、わざわざお見送りご苦労」

すっと手を離したかと思うと、ゆっくりと私の額に指を近づける。

その指には、魔法印が記され強化された指。

スローモーションのように私の額に近づけるその指先は、間違いなく私のリアクションを見るための嫌がらせであろう。

「や、止めろ~!」

「行ってきます」

コンと軽く額に当てた指から、強烈な風圧が体を包み混んだかと思うと、私の体は空中で何回転も回され、20メートルは離れた魔法学園の銅像にドンッと体を叩きつけられた。

「く、くそ…」

銅像の揺れと共に、私のバックりと大股開きに空いてしまったその姿。

パンチラ目当てか、それとも情けない姿が目当てか、整然と並んでいた生徒たちから次々と私の阿良でもない姿を携帯で写真を撮る。

クスりと笑ったように見えた兄はそのまま、身を返し白い霧の中に消えていった。

「くたばっちまえ!バカ兄貴!」

私の怒号が聞こえていたのかわからない。

だけど、わかる。

この結果も兄が予め仕組んだ計画の一つ。

そう、性格の悪さが招いたものなのだろう。

最近じゃ妹という存在を特別視し、兄弟を仲が良いとする風潮があると聞くが、 あえて言おう。

私の知る限り、兄弟姉妹というものは仲は絶対良くないと。


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