ロリ×マジ ACT 0   プレリュード 

ぷーさん

第1話 卑しくも魔法世界の現在は

     ロリ×マジ              

                    ~魔法と推理の協奏曲~


                       

ある女の話をしよう。


江戸時代中期。

秋田県の山中に20棟程度の小さな村があった。

そこに歳の頃は12歳の見目麗しい女子と母の二人が住んでいた。

女子の美しさに近隣の村で噂になり、女子を娶ろうと毎日のように男たちが求婚しに訪れていた。

引っ切り無しに来る男たちの土産物に女子を女で一つで育てていた母は喜んでいた。

そしてある日の事だった。

女子の噂を聞きつけて、その土地の豪族である男が求婚しに来た。

たちまちの内に恋に落ちた二人は、その日のうちに豪族である男の元に嫁がせたいとの申し出を受けた。

母も玉の輿の縁談に喜び、その日のうちに女子を嫁がせた。

そして、その日の夜中の事だった。

ドンドンと戸を強引に叩く音が家に響く。

母は強盗か何かかと思い身構えながら恐る恐る玄関を覗き込んだ。

だが人影はなく、玄関の扉の下に大きな白い何かが置かれていた。

用心深く近づく母だったが、その白い物が何か解った瞬間、嗚咽のような悲鳴を上げた。

そこには、昼に嫁いだはずの女子が美しい白い着物に身を包み冷たく横たわっている。

体から血はふき取られていているが、その喉には大きな刀傷がポッカリと空いていた。

母は慌てふためき女子を抱きかかえようとした時に、スッと腰の辺りにあった一枚の小さな紙が滑り落ちた。

その紙にはたった一文だけが書かれていた。

『傷物故返品致す』

その言葉に激情に駆られた母は出刃包丁を手に持ち豪族の元へと向かった。

「 ひと~つ。人目で出会われて、二つに、二人で恋仲に、み~つ。そのまま返された。」

悪鬼のような形相の母は豪族共を皆殺しに、自宅に戻ると家を燃やし自らも逃亡した。

それからは秋田県の男鹿半島には鬼が住み、子供に悪戯するものには出刃包丁を持つ鬼が来るらしい。

それが、秋田県に伝わる数ある「なまはげ伝説」の一説。

この童話の真相にもっと早く気が付いていれば結果は変わっていたのかもしれない。



                      ACT 0 始まり


「格好つけてる?正義の味方?そうよ、格好つけて何が悪いっていうのよ!」




「新米の君たちに『入学おめでとう』などと嘯いた言葉など吐きはしない。これより待っているのは熾烈な学内競争と魔法使いの試験に合格することだけだ!」

校長は壇上に立っていつもの調子で入学者たちを脅しにかかる。

まあ、校長の存在価値などこの学校ではその程度でしかないわけで、自らが校長であることを示せる唯一の場、それが入学式なのである。

正直、入学式の度に聞かされる私としては、もうちょっと面白味のある祝辞にしてほしいものだ。

「事は2020年、人類は新たな進化を果たすことになる。そう、ここにいる若人がそうであるように一部の人間たちに魔法が使えるようになったのだ。しかし…」

見事な禿げっぷりに負けず劣らずのご高説であるが、肝心の入学者たちは呆けたように耳を傾けている。

確かに教科書にすら載っている知識をさも自慢げにひけらかすのは、wikiに載っているゲームの攻略法を他人に自慢するのと同じ哀れな愚行に他ならない。

今から10年前の2020年人類の一部に突然、魔法が行使できるようになった。

その魔法の発生原因は解っていないがこの現象を「発現」現象として一躍、魔法を使える者は時代の長壽となった。

「だが延べ8万人が犠牲になった新宿魔法爆破テロ以降、魔法使える者は悪として世間から疎まれた。皆さんも経験があるはずだ。そのような言われもない魔法使いへの迫害が!」

バンっと壇上の机を叩き、校長の演説は次第にヒートアップしていく。

そう、2023年にある僅か8歳のカドフェルという少年が起こした新宿爆破テロ。

その事件をきっかけに魔法使いは世界的にも危険因子として扱われるようになる。

魔法使いと見れば忌み嫌い、「人殺し」「悪魔」と揶揄されある者はテロ集団へと身を変え、魔法使いの立場は悪化の一途を辿ることになる。

そこで国民の魔法使いへの反感を抑えられなくなった政府は、保護目的で政府公認の魔法使いの学校を設立する。勿論、設立は名目で魔法使いを隔離、管理するためにである。

「だが安心していい!ここでは魔法は学問の一部として自由に使うことができる。加えて様々なバックアップ体制が君たちを1人前の魔法使いとして育ててくれるだろう。どうだ!血が滾るであろう!君たちの…!」

その時、学内全体に設置しているスピーカーからヴィーン!!という耳を劈く様な警戒音が響く。

入学者たちには天井を見上げたりと慌てだし、校長は警戒音に少々がっかりした様子を見せる。

「もう12時かよ。校長のくせに話長いんだよ」

「全く、めんどくさいビラ配りなんかさっさと終わらせたいぜ」

そう言いながら、入学式の扉前で張っている数十人の生徒たちはビラを地面に置き、合掌を始める。

「…これより先日名誉の戦死を遂げた富原勇太君のご冥福を祈り、黙祷を捧げたいと思います。それでは、黙祷!」

「新入生諸君も、先人の名誉ある戦死に合掌するように!さあ、黙祷!」

校長のその言葉に新入生たちは座りながら合掌を始める。

私も昨日頑張って作り直した新入生用の勧誘ビラを地面に置くと黙祷を捧げる。

会ったこともない人だが、同じ魔法使いとしてしっかりと黙祷をした方がいい。

正直、この一か月は毎日のように魔法使い死亡の黙祷を捧げている。理由は簡単でテロ行為をしている魔法使いたちと、魔法学園の卒業生たちを国の守護として戦わせているからである。

魔法使い同士の戦いも日毎盛んであるが、こうも毎日死亡報告を聞いていたのでは、その感覚も鈍化してしまう。

「富原勇太君は成績優秀な魔法使いだった。しかし国のために自らの体を犠牲にしてこの国の民を守ったのだ。皆様もそういった立派な魔法使いになってほしい。以上だ、解散!」

校長の話も終わり、少しめんどくさい表情をしながら新入生が続々と入学式の会場入り口から出てくる。

その瞬間、私の後ろに待機していたビラ下りの生徒たちが一斉に押し寄せてきた。

「どいて!入学おめでとうございます。私たちはシグマという組織です。よろしくお願いします!」

「私たちはビーラスです。魔法召喚学の上位者を排出したクラブでーす」

私を強引に押しけ、お構いなしに生徒たちがどんどんビラを配り続ける。

10人程度の新入生を取り囲むように、40、50人の生徒がビラを渡してくる。

さながら安売り99パーセントのバーゲンに群がる主婦のように、その場所は新入生勧誘という戦場とかしていた。

全く赤毛で小柄、その上キュートな瞳という美少女三大要因を持つ私を押し退けるとは、全くふざけんじゃないわよ!

「ちょっと!押さないでよ!あ、私のクラブは魔法論理研究会です。よろしくお願いします!」

私も負けじと無理やりビラを新入生に配るが、押し寄せる人波に全くチラシを受け取ってもらえない。

所詮はビラではあるが私のような超弱小の部活にとって、このビラ配りだけでも知ってもらう数少ない機会だ。

負けじと人波を押しのけようとした時、聞き覚えのある声が皆の動きを止めた。

「皆さん!新入生が困っているでしょ。順番を守って配るようになさい!」

その声に新入生たちの足が止まり、「綺麗」「スゲー美人」「でもなにあの格好」など新入生の男子から黄色い声が上がる。

腰まであるピンクのロングヘアーをふわりと宙に棚引かせ、真っ白い傘に中世ヨーロッパの貴族のようなドレスを身に纏っている。

西洋風の格好は似合いはするが、今は夏が顔を出している7月上旬。

大胆に豊満な胸を見せたドレスではあるものの、夏日を向かえている今日の気温を考えれば暑くないのであろうか。

「私はこの魔法学園のNO3アニマ執行委員長の暁愛実(あかつき めぐみ)です。さあ、一番初めの人から順番に配りなさい。真理ちゃん。あなたからよ」

愛実先輩はそう言うと、私に新入生にビラを配る機会を与えてくれる。

「はあ、どうも。では魔法論理研究会の秋渕真理(あきぶち まり)と言います。よろしくお願いします!」

スッと出すチラシを確かに皆が受け取ってくれるが、目線は大胆に登場した愛実先輩ばかりだ。

突然の仕切りに異を唱える者もいそうだが、延べ1000人近い魔法学園のNO3の命令に皆渋々順番にビラを配った。

これじゃ私たちは愛実先輩たちが所属するアニマの宣伝のためにいるピエロだ。

この愛実先輩が所属するアニマは学内生徒のおよそ50%以上が所属する一番登録の多い組織で、学内の揉め事から掃除当番まで広く取り仕切っている。

「良かったわね真理ちゃん。新入生来るといいわね」

「嫌味ですか、それ。漁夫の利なんて卑怯じゃないですか」

ビラを配り終え、一息入れようとした時ににこやかに笑いかける愛実先輩。私はつい苛立ちを隠せず、冷ややかな目で悪態をついてみせる。

「何で?ちゃんとビラ配れたじゃない!それに妹に嫌がらせするお姉ちゃんがどこにいるのよ」

「妹じゃないでしょ、妹じゃ」

「全く素直じゃないわね、未来の妹は今も妹なのよ。ねえ?ところで聞きたいことがあるんだけど」

始まったか。

「お兄ちゃん以外のことならどうぞ」

そう言うと愛実先輩はがっと私の腕にしがみ付き、大きな胸を押し当てながら上目使いで甘えてくる。

「もう、そういう意地悪言わないの、メ!今日は洸優と朝食を食べる約束していたのに来なかったのよ…。洸優どうしてたの?」

洸優とは私の兄であり、愛実先輩が私に聞きたいことがある場合の9割が兄に関することである。

私の事を妹としているのも、愛実先輩の中では兄との婚姻は済ませているということらしい。

「お兄ちゃんなら、今朝は怠そうに私とハムエッグを食べてましたけどね」

「そうなんだ…、約束忘れてたのかしら。昨日は20回ぐらメール入れておいたのに」

20回って、相変わらずそのポジティブな考え方には恐れ入る。

「ん?」

その時、視線の先に小さな少女が何かから逃げるように走っている。

魔法学園の入学には基本的に年齢制限の類はないが、それにして少女の歳の頃は小学校入学したてでもおかしくないほど、幼かった。

大き目のリュックサックと両端の結んだツインテールの髪を束を大きく揺らしながら、後ろを確認しながら学内の奥へと消えていった。

「でもさ、私も朝食はハムエッグを食べてたのよ。そう考えると同じ注文して同じ物を食べていた。つまり、朝食を共にしていたって考えられなくもないわね。洸優はきっと照れ屋だから…」

「ちょっとすいません。通ります」

「え?はい」

私の脇を強引に横切り、真剣な表情の女性が小さな少女の後を足早に追いかけていった。

「でさ、なんで来なかったのかって私考えたの…きっと洸優は遠距離恋愛の練習を兼ねての事だったと思うのよね。確かに魔法使いになったら国の出張とかで会えない時もあると思うのよ。勿論私は浮気なんてしないけど」

「はあ、え?」

私が思わず声をあげてしまったのは、今度は5,6人の男子学生が何かを探すように走り去っていく姿を見たからだ。

物を探すというよりは人探しであろう。

少女を追いかけるように走り去っていった。

「しないわよ!浮気なんて。例えおじいちゃんになったって愛し抜けると誓えるわ。そうやって愛しあっていくものが愛なのよ。私も名前がどうして愛実かって言うと」

「用事があるんで行きます!」

「愛だけじゃなくて、その結果として実を結ぶって意味を込めたのよ。その実がなんだっていうとさ、ちょっと!」

私はほとんど聞いていなかった愛実先輩の話を中座し、足早に男子学生たちを追いかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ロリ×マジ ACT 0   プレリュード  ぷーさん @comicmaster

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ