マンガ界からこんにちは!

博徒ゆうり

第1話 ヒラメキは時に厄介だ


変わりたいと願い続ける日々

自分嫌いで嫌いでどうしようもない

誰でにでもそんな時期はあるのだろうか

想像で描く作り物のかっこいい自分を

今の自分と比べどこまでもクズだと落ち込むような

だからこそ、この世界にあるのだろうか

変わるチャンスをいくらでも与えてくれる世界が



「もうすぐ締め切りっすよー もう出来ました?」

「いやあ、それがちょっと右手爆発しまして・・・」

「テロにでも巻き込まれたんです?どうでもいいんで

早く終わらしてくださいよ。ほんと頼みますよ!」


バタン!!


扉はそんな乱暴に扱うために生まれてきてはいないぞ

はぁ、

こんな事なら漫画家にならなければよかった。

子供のころ、絵を描く仕事に就きたいと願い、

すべてをソレに注いだ

いっぱい絵の勉強をした

そして、奇跡的に有名週刊マンガ雑誌に

自分が描いた妄想の極みが載った。

・・・ところまではよかった。

なぜか・・・?

要するに

妄想ができなくなってきている

なぜだ・・・!

俺の取り柄でもあったウルトラ鮮明な妄想が・・・

もう女風呂の妄想ですら出来ないなんて・・・

「ちくしょー。なんも出てこねえじゃねえか」

ペンを握り薄っぺらい紙を恨めしそうに見つめる

もういいや

どうせダメなんだ、どうせ俺なんて

ネガティブを具現化したような人間である俺は

仕事場の机を離れ、

ソファーに横たわる

甘ったるいコーヒーを飲みながらタバコに火をつけた

「もうやめてーな・・・。無理なんだよ。やっぱり・・・」

そうつぶやき天井を眺めた

壁に画鋲で刺された紙が目に映る

~寝タバコ禁止~

~仕事放棄禁止~

・・・担当が書いたんだろう

もうダブルで破っちゃってるじゃねーか

フン。明日には辞めてやる。もうどうだって―・・・


!!!


なんだ?なんだこの頭に過ぎったヤツは

一瞬。一瞬だけだがイメージが湧き上がった。

「きてるぞ!これきてるぜオイ!」

歓喜余ったひとりごとを呟きながら

ソファーから匍匐前進で机に向かい

光の早さで椅子に座る

ペンを手に取り一心不乱にヒラメキを描く。


楕円形の丸みを帯びたキュートなボディ。

頭になるであろう場所に生える謎の一本角。

短い四肢にミスマッチな死んだ目をした・・・

なんとも・・・ なんともイカさないキャラだ。


「な、なんだこの意欲の湧かない生命体は・・・。なぜコレが頭に・・・」

なんか特殊能力でも持ってる、とか?

こう、時間を止めるとか空飛べるとか?

いや・・・

こいつに微塵の可能性も感じねえ・・・!!

ど、ど、ど、ど、どうしよう

連載中の俺の漫画に全く関係ないヒラメキなんだが!!


「オイ」


ビクっとし振り返る

誰もいない?

「ここだよ、ここ」

首を左右に振りながら辺りを見渡した。


あ、そうか

ついに幻聴を・・・


「早く見つけろよー。お前の描いた紙見ろや」

くっそ幻聴ごときが命令しやがって!!

そう、思ったがグッと堪え言われた通り紙を―

「おうおう、ようやく見つけたか。おせーよ」


―あ、幻覚か


「最近疲れてるかんなー、ちょっと寝よう」

俺はそうぼやきながら踵を返そうとした

「お、てめっ。どこ行きやがる!おい、ダメ根暗作家!」

プチン

俺の何かが切れる音。

「だぁーれが根暗だバカヤロー!てめぇなんて紙に描かれただけの

ファンキーな一反木綿じゃねーかこらぁ!」

そう、そうなの

紙に描いたあの丸米クソヤロー・・おっと

頭を過ぎったキャラが喋って動いてんの。

笑えるし笑えねぇ・・・


「だれが妖怪だクソ作家が!」

「てめーが妖怪なら垢舐めがいいとこだ丸米!

てか、妄想がなんで喋ってんだコノヤロー!」

紙にミリ単位で近づき怒鳴る

「お、よくぞ聞いたな。褒めてやる。

そして俺は丸米じゃねぇ・・・フキダシくんだ。」


は?なんだこの米は??























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