第183話
前回のあらすじ
ギャル勇者がかなりディープなクラブライブマニアということを双弥たちは知り、更にクラブライブ愛で双弥と鷲峰は完全敗北。彼女の軍門へ下ることになってしまった。
※前話は相当キモいヲタク会話だった為、衛生上の理由から封印しました。
(あ……危なかったぁーっ)
ギャル勇者はバクバク鳴り響く心臓を抑えるように胸元を握る。
危うく殺されるところであった。鷲峰はともかく、双弥から斬りかかられたら確実に終わっていた。まさか彼らの見ていない劇場版のネタバレをしようとしただけで、そこまでされるなど思ってもみなかっただろう。
だが彼女は今、彼らを手中に収めている。
実は彼女自体、好きであってもそれほどまでクラブライブを愛しているわけではなく、ただ単にガチヲタである親友が普段から言っていた主張を述べただけだった。
親友の言葉にいつも「はいはい」と聞き流していた内容も、あまりにしつこく言い続けられたため覚えてしまったのだ。しかしそれがこんなところで役立つなんて、世の中とは不思議なものである。
「はいみんな注目ーっ」
ギャル勇者はパンパンと手を叩き、注目を集める。その両側には片膝をついた双弥と鷲峰が控えていた。
「ど、どうしちゃったんだよふたりとも! それじゃまるで家来じゃないか!」
「控えよ!」
一体なにがあったのか動揺しつつも訊ねようとしたジャーヴィスを鷲峰が一喝する。そして気を良くしたギャル勇者は手を腰に当て前へ出た。
「こいつらはアタシの下僕になった! 文句あんなら相手になるよ!」
もちろん双弥が。
双弥はすくっと立ち上がり、ギャル勇者を守るように前へ立つと居合の構えをとり周囲のみんなを一瞥する。
「だからどうなっているんだよ! そこのレディは人を操る術が使えるのかい!?」
「いいから黙って姫の言葉聞けや切り落とされてぇか!」
「姫!?」
彼女は今、プリンセスオブヲタサーになっているのだ。いやもはやクイーンと言ってもいいかもしれない。
「ちっ、あのクソ日本人ども、またなんか変なものにひっかかりやがったな」
「どうすんだよ! 一応おれっちたちの最強あいつなんだろ!?」
新勇者最強である江を容易く倒した双弥は旧勇者側でも最強であり、彼がいるから皆は強く出られるのだ。なにかあればあいつを出せばいいと。
だがここでまさかの裏切り。寝返るだなんて誰も思っていなかった。
「はっはー! やるねぇ日本のぉ少女! そいつぅさえ引き込めばこちらぁの勝ちぃだね!」
「は? アタシあんたらの仲間でもないし」
「なっ!?」
喜んでいたインド勇者の顔が一変、驚愕する。それをギャル勇者は見下すようにチラ見した。
そして手のひらを前へ突き出し、叫ぶ。
「アタシはここで第三勢力の出現を宣言する!」
まさかの新勢力。チームジャパン。力の双弥に頭脳の鷲峰。完璧の布陣であった。
(おい双弥、わかってるだろうな)
(ああ。ぬかりはない)
鷲峰は前へ出て、無言で双弥とアイコンタクトをする。それなりに密度の濃い時間を過ごした間柄であるし、鷲峰はチャーチストと一緒に暮らしているのだ。これだけで会話は成り立つくらいにはなっている。
今は従っているふりをする。だがそれは劇場版と続編のBDを手に入れるまでの間だ。それさえ手に入れてしまえば用はない。
とはいえあちらもそれくらいわかっているだろう。最後の切り札はそう簡単に出してはこないはずだ。双弥たちは長期戦を視野に入れている。
「さあさ、誰か相手しないー? しないのー? じゃーアタシの勝ちってことで」
ギャル勇者が皆を挑発するが、双弥がいることで誰も前へ出られない。彼の居合の構えには全く隙がなかった。だから他の勇者たちは悔しそうに歯ぎしりをするくらいしかできない。
「やー勝つと気分いーね! じゃーしゅくしょーかいしよっか! 劇場版クラブライブでも見ながら」
「「えっ?」」
「えって、見たいんでしょ? アタシも見たいし、いーじゃん」
それのために散々こき使われることを覚悟していたふたりは唖然とした。
このギャル、ただのアホなのか、それとも思ったほど悪い子ではないのか。
(こういうときどうしたらいいんだ?)
(狼狽えるな。少しカマをかけてみろ。失敗しても最初の目論見通りだから大きな損ではないはずだ)
何故なにも条件をつけず見せてくれるのかを訊ねる。もしこれで「そっか、そういう風に利用すればいいんだ」みたいな回答が得られたらアホ確定であり、屁理屈王双弥であればどうとでも言いくるめられる。
「あの、こういうときは普通、見せる代わりにあれやれこれやれって命令するものでは……」
「えーっ、そーゆーのいーよ。折角クラブライブ仲間に出会えたんだし、仲良くしたいじゃん」
双弥と鷲峰は泣いた。彼女こそ真の
「ついて行きます! 姉御!」
「そーゆーのマジ嫌なんだけど」
こういったヲタク的なノリは好まないようだ。
彼女はライトヲタクなどでもなく、ドラマなどと同様に表現方法のひとつとしてアニメを受け入れている、ナチュラルアニメーションファンなのだ。
グッズなども買わないし、詳しく調べたりもしない。もちろん声優の名前すら知らない。だからといっていい加減に見ているわけではなく、純粋にその物語を楽しんでいるという、アニメファンのニュージェネレーションである。
ソーシャルゲームやアプリゲームで例えるならば、無課金勢と呼ばれる、金を払わない層だ。しかしだからといってそのゲーム自体をなめているわけではなく、全力で楽しんでいる連中に近い。
それはさておき、双弥と鷲峰はウキウキ気分で町へ戻ることにした。
『ちょっと待ちなさい私の勇者よ!』
突然どこかから聞こえた声に双弥は同様する。声の主は破壊神であることはわかるのだが、一体どこから聞こえているのか。
周囲を見渡すと、全ての時間が止まっているかのように動いていない。神の時間なのだろう。
それよりも声の主の場所を見つけようと双弥は考える。
「ば、刃喰かな……っていない!?」
今更気付いたのか、いつの間にか背中のスロットに刃喰がなかった。散々約束を反故にされた挙句、便利な乗り物扱いばかりで愛想をつかしたのだろうか。
『なにを言っているのよ私の勇者。ちゃんと腰にいるじゃない』
「え……ええっ!? これ刃喰だったの!?」
そう、彼(?)は神刀へクラスアップしていたのだ。
『そんなことより私の勇者よ、自分がなにをしているのかわかっているかしら』
「いやそんなことと切り捨てられる話じゃない気がするんだけど……まあ今は関係ないか。それでなにか?」
『なにかじゃないでしょ! なんで寝返ってるのよ!』
双弥はなにを言ってるんだという顔をし、そして深くため息をついた。
「これは寝返ってるんじゃないです。互いの意見の一致というやつです」
『一致した結果寝返ってるのでしょ!』
「あのですね、寝返るというのは俺が創造神の側について破壊神様へ盾突くことを言うんですよ。彼女個人と仲良くなることがなんでそうなるのですか?」
「えっ!? あ、うんと……そう、ね。別に問題ない……のかしら……?」
破壊神はしどろもどろになっている。
実際問題として創造神の側についているかどうかはさておき、破壊神へ盾突いていることには変わりない。
「それに彼女はとても素晴らしい女性です。俺らが従うに
『……あれ? それだと彼女の側に寝返ったというのでは?』
「もしそうだとしたらなにか?」
『なっ……なにかじゃないでしょ! なにを考えているのよ!』
本当になにを考えているのだか。彼の心は神ですら読めない。
「……じゃないか」
『は?』
「……だって破壊神様、巨っぱい触らせてくれないじゃないか!」
「ば、ばっかじゃないの!? じゃあなによ、その小娘のしょっパイ触ったの!?」
「彼女は劇場版クラブライブを見せてくれる。つまり俺の求めているものを与えてくれるんだ! 破壊神様も俺を従わせたかったら望むものを与えてくれたっていいじゃないか!」
『あげたじゃない! その力はあなたが求めていたものでしょ!』
「……は? 破壊神様の破壊力抜群のダイナマイトボディ以外に俺が破壊神様に求めるものがあるとでも?」
『あの、もうあなた解雇していいですか?』
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