第72話

 双弥は今、1人で行動していた。

 圧倒的ぼっちである。

 女性陣は服を見に行ったのだが、前回散々な目にあっていたため双弥は弾かれてしまった。自業自得である。


 しかしそれは都合が良かった。

 これから行くのはティロル公団とセィルインメイ。さすがに3人を連れて行ける場所ではない。


 まず最初に訪れたのはティロル公団だ。受付にいたのが意外にも女性だったことに少し驚いたが、男女で区別してはいけない。彼女も同志なのだ。

 双弥は身分を明かし、寄付金を置く。大陸外のティロル公団員と聞いて少々戸惑った感じの女性だったが、寄付金を見て顔をひくつかせながらも笑顔で対応する。

 なにせ一般人の年収くらいはあるのだ。驚くのも無理はない。


 女性は双弥を奥へ通し、支部長を呼ぶ。恰幅のいい中年男性が、これまたにこやかにやってきた。


「ようこそ同志よ。遠路はるばるよくお越しくださった。私は支部長のデリバティブです」


 先ほどの女性から寄付金額を聞いたのであろう。とてもうれしそうだ。


「ツヴァイだ。今は特派員をやっている」

「ほう?」


 特派員という言葉に何も思い当たらない感じを受ける。港町といえどここは国内だけで使われる小さなもので、情報があまり来ていないのだろうか。


「ティロリストの捕獲をメインで動いている。情報を貰えるとありがたい」


 それを聞いてああと頷く。この国の公団もティロリストには頭を悩ませているようだ。


「それはありがたいことです。だが今はそれをやっていられる余裕もないんですよ」

「どういうことだ?」

「少女たちの受け入れ先を探すのに四苦八苦しておりまして……。規約違反になってしまうが、我々でも保護している状態でして」

「つまり……なんだ? 何が起こっているんだ?」

「この国は現在崩壊しておりまして、国外の公団にも手を貸して戴いている次第なんです」



 クーデターでも起こったのかと思っていたのだが、その方が遥かにマシな出来ごとがあったようだ。

 なんでも半年ほど前に首都が丸々消失してしまったらしい。今行ってもそこには巨大なクレーターのようなものしかない。


 同じくらいの時季にこの近くでも同様なことが起こっており、首都がどうなっているのかやっと把握できた程度であり情報は少ない。

 クーデターの場合は国のトップが入れ替わる。しかしそれで機能が失われるわけではない。だが今の状況は完全に国の体裁を保っていないのだ。

 誰も仕切れず軍も動かせない。税金を納めなくてもいいんだキャッホーとか言っている場合ではない。



「なるほど、事情はわかった。俺は把握するために首都跡に行ってみよう」

「そうですか。こちらからは何もできず申し訳ありません」

「いや、それよりも今の仕事を頑張ってくれ。他の支部には俺からも事情を説明して咎められないようにしておく」

「ありがとうございます」


 デリバティブは深々と頭を下げ、双弥は受付に再び寄付金を置いて支部の建物から出た。



 そして歩きながら1人で考える。


 魔王の仕業だとしたらあまりにも酷い。

 酷いといってもその行いがではない。魔王なんだから酷いことをやっても別に普通である。

 一番の問題はそれだけの力を持っている奴と戦わなくてはいけない双弥だ。どうしろというのだ。破壊神酷い。


 あとこれが魔王の仕業ではなかった場合。


 魔王以外にこれだけの力を持った敵と戦わねばならないとする。

 恐らく魔王はそれよりも強い可能性がある。更に酷い話になってしまう。


 敵勢力ではない場合。

 お前が魔王倒せよという感じだろう。


 だがこれがもし他勇者の仕業であったのなら…………。

 いや、それはないはずだ。半年も前といえば双弥たちはまだ召喚されていない。


 ならばやはり魔王或いは魔王関係によるものであると考えたほうがいい。こんな自然現象は有り得ないからだ。

 可能性があるとすれば隕石などだが、それにしてはあまりにも周囲への被害が少なすぎる。


 やはり人災……いや魔王災と見るのが自然だろう。それを自然だと感じることが不自然ではあるが。





「あっ、お兄さーんっ」


 双弥を見つけたエイカが手を振っている。この町にはセィルインメイの支部がなかったため買い物をしようとしたところであった。


「よお。リリパールたちは?」

「食べ物とか調味料買いに行ったよ。お兄さんは?」

「用が済んだから買い物にな。いい服あったか?」

「それがね、この国の服ってみんなこんななんだよ」


 どれどれとエイカの全身を見る。前から着ていたものと違うワンピースだ。

 淡いグリーンなところは変わらないが、袖がほとんどなく太いベルトで腰を縛っている。


 サイズはけっこう大きめなのだろう。それをベルトで縛ることで調整しているのだ。いわゆるフリーサイズというやつだろうが、良く言えば長く使え、悪く言えば雑である。


「リリパールたちもか?」

「うん。エクイティさんもだよ」

「NANII!」


 ワンピースにベルト。それはもう強調されるべきものが強調されるためにあるようなものだ。

 ないものには更にないように、あるものには圧倒的な存在感を与える。

 エイカは平面だ。上部が引っ張られているせいで余計に真っ直ぐだ。


「だがそれもいい!」

「ど、どうしたの?」


 突然の台詞に困惑するエイカ。それはさすがに伝わらないものだ。


「まあそれは後での楽しみとして、ちょっと話があるからもし見かけたら宿に集めておいて」

「うん、わかった」


 それだけ言いエイカと別れ、必要なものを買い揃えた。





「それでお話とはなんでしょうか」


 リリパールが若干イラッとした感じで双弥に尋ねる。その理由は先ほどからエクイティの胸をちらちらと見ているせいだ。

 双弥的にはわからぬようやっているつもりのようだが、傍から見るとバレバレである。非常にみっともない。

 もちろんエイカもその視線がわかっており、睨むように見ている。


「えっ、あ、ああ。えっと、これから首都跡に向かおうと思う」

「首都……跡、ですか?」


 リリパールはいまいちピンとこないような返事をする。他国にはあまり知られていないのだろうか。


「今この国は崩壊している。理由は首都があった部分が消失してしまったかららしい」

「消失とはどういうことですか?」


 ある程度政治に関わっているリリパールは興味がありそうに聞く。場合によっては他人ごとではないからだ。


「俺も詳しくは知らないけど、聞いたままみたいだ。今は巨大な穴しかないという話だった。ひょっとしたら魔王に関係しているかもしれないからそれを調べようと思う」

「この国の規模は知りませんが、首都と呼ばれるほどの町が丸々消えたなんて信じ難いですね……。確かに調べたほうがいいかもしれません」


「早いところ進みたいという気持ちもあるが、多分これを調査することは有益だと思う」

「そうですね。もし魔王の仕業であれば何かしら残している可能性もありますし、戦いが有利になるかもしれません」


 犯人は現場に戻るという言葉もある。半年も経っているため可能性は低いが出会えればラッキーだ。

 いや、最悪の不幸かもしれない。できれば対処法などを考える時間くらいは欲しい。


「お兄さん、ちょっといいかな」

「ん? どうした」


 作戦や今後の行動についてはいつも双弥とリリパールが考え、エイカはそれをただ聞いているだけで発案することなんてなかった。珍しいことがあるものだと双弥とリリパールはエイカを見る。


「首都の周りって少し離れてるけど町がいくつかあるよね? それだけ大きなことがあったら見てた人いるかなって」


 目撃者を探そうというのだ。ただ現場を見て推測するよりずっと役に立ちそうだ。


「よし、まず周辺の町を巡って情報を集めよう。いいぞエイカ」


 褒められてエイカは顔を赤らめ照れ笑いをする。いつも聞くしかできなかったのに自分から意見をしてくれたことに双弥とリリパールも喜ぶ。



 翌日、早速一行は首都周辺の町へ向けて出発した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る