第39話

「なあジャーヴィス。もう少し揺らさず走れないかな」

「ハハハ、面白いジョークを言えるじゃないか」

「冗談じゃねぇよ……うげっ」



 町を出て1日が経ち、現在双弥たちはひたすらに北東へ向け走っている。

 もちろんそんな道はない。ジャーヴィスは荒れ地に突入し走り回っているのだ。


 当初街道を通る予定だったが、方角しかわからないしどの道が国境へ行いているのかわからないため、ならば行く先だけでもまっすぐにとアホな考えで進むこととなった。

 その結果この通り、荒れ地を走り車内はシェイクされている状態だ。


「私……もうだめ……」

「おい止めてくれ! エイカがやばい!」

「オーケーレディ」


 車は丘を越え、変な角度のまま停止。エイカはすぐさまドアを開け、光の彼方へと向かった。


「レディは体が弱いからもっと気を使わないといけないかな」

「女の子じゃなくてもやばいだろ。俺だってギリギリだぞ」


 ジャーヴィスはいまいち納得いかないような顔をしているが、運転している人間は酔いにくいものだ。馬に乗っても大丈夫なムスタファでさえ青い顔をしている。


「私もできればもう少しまともなところを走って欲しいのだが……」

「みんな贅沢だなぁ。まあいいや。それで道はどこだい?」



 今どこを走っているのか誰も知らない。


「ど、どうするんだよ道合ってるのか?」

「だから道なんてないよ」

「じゃあどこ向かってるんだよ!」

「ハハ、双弥は常識を知らないなぁ。太陽があるのが東だよ」

「いつの時間の話だ!」


 つまり、完全に迷っているわけだ。

 誰も地図を持っていない。というより地図があったとしてもここがどこかわかる人はいない。



 現在いるのは丘を越えたところの草原地帯。遥か遠くには山脈のようなものが見え、その手前には森らしきものも見える。

 車では恐らく森を抜けることができないだろう。ではこのまま真っ直ぐ進むことはできないため迂回する必要がある。

 それはいいのだが、問題は向かう方向だ。


 今が昼でここが北半球であると仮定した場合、ジャーヴィスは東へ向かっていることになる。ならば今は太陽を背に──北へ向かうのがいいだろう。

 前日は半円を描き、遠回りに東へ進んだのだから丁度いい。これで夜間も走っていたら大変なことになっていた。

 できることならばどこか人の住んでいる場所まで行き、道を聞くのがいいのだが、見渡す限りそういったものはない。


「刃喰、何かわからないか?」

『さあな。狐の嬢ちゃんにでも聞きな』


 アルピナに聞こうと思ったが、気持ちよさそうに寝ているためやめることにした。

 どちらにせよ警戒をしていないのだから何かが聞こえるといったことはない。


 そこへエイカが戻ってきたとき、アルピナがガバッと起きた。


「ん? ごはんか?」

「うぅーっ」


 アルピナが警戒している。どうやら車内にいたため音が遮られていたようだ。


「ジャーヴィス、敵だ」

「敵? そんなものどこにいるんだい?」


 双弥は車を降り、ハッチを開く。するとアルピナは飛び降り、森の方へ唸る。


「あっちだ!」

「なんだ、僕らには関係のない方角じゃないか。だったら放っておいてもいいよ」


「そうはいかないだろ。それが群れだとして、町を襲うところだったらどうするんだ!」

「それこそ僕らに関係ないじゃないか。この世界のことなんだから深入りしないほうがいい」


「駄目だ。それだけは」


 双弥は魔物に襲われた町の惨状を知っている。それ以上にエイカがよくわかっていることだ。

 放っておけないのはエイカのためでもあるのだ。


「じゃあ好きにするといいさ」

「ああ、そうさせてもらう」


 双弥は荷物を下ろし、エイカと共にアルピナが見据える先へ向かう。


「待てよ双弥。……仕方ないなぁ乗れよ」


 やれやれといった感じにジャーヴィスは双弥を車に乗せた。




「おー、凄い数だなぁ」


 やっと見えた魔物の数にジャーヴィスは楽しそうに眺めている。

 数はおよそ300。とてもじゃないが双弥と刃喰だけでは厳しい。


「ねえ双弥。僕が思ったことを言っていいかい?」

「なんだ?」


「魔物は集団で町を襲うんだろ? てことはあいつらが向かっている方角に町があるってことじゃないか?」

「……そうだ! でかしたぞジャーヴィス」


 双弥に褒められ、まんざらでもないといった感じの照れ笑いをするジャーヴィスのアクセルを踏む足に力が入る。



「それよりあれ、どうすりゃいいんだろうな」


 あの数をどうやって倒せばいいのか考えているのだ。

 双弥が戦うのは当たり前として、刃喰、そしてジャーヴィス。一人頭100体だ。なかなか厳しい戦いを強いられる。


「あの程度なら簡単だよ。見てな」


 ジャーヴィスはさらに加速させ、群れに並走するように走る。

 魔物がそれに気付き、集まってくる。


 そこで突然車を停め、ジャーヴィスが運転席から飛び出す。


「崩! マイフェアレディ!」


 刹那、魔物の群れの上に巨大な橋ロンドン・ブリッジがかかる。そして一体あれをどうするつもりかと考える間もなく、橋が突然崩壊した。


 その岩のような破片は魔物たちへ一気に襲い掛かる。

 回避できるような量ではない。あれだけいた魔物の群れは瓦礫の下敷きになった。




「え……えげつねぇ……」


 戦争の跡地のような惨状を見て、双弥はつい言葉に出した。魔物相手とはいえなかなか酷い有様であった。


「……わぁお。初めて使ったけど予想以上だね」


 当のジャーヴィスでさえも口に出すほどのものだ。


 勇者の魔法というものは多種多様。対単体もあれば大群相手でも戦える。

 対する双弥は数を倒せる術を持たない。あるのは魔王と戦うらしき力。


 それと……。



「さて、じゃあ町へ向かうか」

「そうだね。数が多いんだから大きな町だといいな」


 2人は車に乗り、走りだした。




「ところで双弥は僕がいなかったらどうするつもりだったんだい?」

「そりゃあ……た、戦ってたよ」

「さすが双弥だね! 次は双弥が戦っているところを見せてよ!」

「機会があればな……」


 そんな機会は一生なければいいなと嫌そうな顔で思う。さすがにあんな数だとは考えてもみなかったようだ。



 かくして一行は町へ向け進んでいった。

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