第19話

「ああぁぁぁしつけえ!」

『まだ来るぜご主人』

「マジかよ! もう勘弁してくれよ」

『くひゃははは、俺ぁまだ喰えるぜ』

「もうお前だけでやってくれよ、ほんとに……」


 双弥は今、散々な目にあっていた。




 双弥らは現在、町から南下して森を抜けたところにいる。

 あと半日も歩けば国境に辿り着ける……というところで襲われていた。

 それも魔物などではなく、タォクォのシルバーナイトとホワイトナイトが混じり合い、ほぼ休みなくひっきりなしだ。


 (こっちなら追手は薄いと思っていたのに甘かったか)


 激甘である。

 双弥が思っている以上にリリパールは賢いのだ。双弥がまともに東へ向かうとは思えず調査をし、双弥らしき人物から『ここから一番近い隣国はどこか』と尋ねられたとキャラバンの商人から情報を聞き出していた。


 結果双弥は見事にリリパールからの集中砲火を浴びることとなった。




「あっ、あんにゃろう狼煙を上げやがった!」

『ご主人、東から10以上接近してくるぜ』

「だああぁぁもう!」



 刃喰だけでも戦えるのだが、何分数が多すぎる。3体だけではさすがに取りこぼしてしまう。その場合は双弥がエイカを守りながら戦わなくてはならない。

 最初のうちは破気のコントロールの練習に丁度いいと戦っていたが、こうも多いとさすがにうんざりしてきている。

 この調子では国境まで辿り着けるか怪しいものだ。


 だが問題は他にもある。


 一気に駆け抜けようとして大軍を引き連れていた場合、国境なんて越えられるわけがない。アメフトではないのだ。危険を察知して門を閉じてしまうかもしれない。

 ヘタをしたら攻め入ってこようとしていると勘違いされ、軍により向かい撃たれてしまう。

 つまり再び国境破りをしなくてはいけないのだ。





「くっそぉ、覚えてろよおぉぉ!」

「ふぅ、やっと終わったか」


 なんとか最後の1人を追い払った。

 双弥は殺しをしたくないため、刃喰もなるべく武器だけに攻撃させ、自身も妖刀で武器を破壊するだけに留めている。

 おかげで破気を自在に操れるようになったのは不幸中の幸いといえるだろう。


 とりあえず小休止とばかりに双弥はその場に座り込む。 

 もう少しで国境いの山に入れる。

 木が多いところでは見失いやすいし、リーチの長いポールウエポンも使えないため、今よりは格段に動きやすくなる。

 その代わり国境の警備はそれなりに厳しくなっているため、山から越えることは難しい。

 ただし追跡者を巻ければどうにでもなる。そのために向かっているのだ。



「そういや今更だけど隣国ってどんななんだ?」

『あ? 俺が知るわけねぇだろ』

「だよなぁ」

『んなことより追加だぜ。また10以上だ』


「マジで休みなしかよ!」


 双弥は慌てて立ち上がった。


 刃喰の言う人数は実に大雑把だ。

 10人以上というと普通多くても15人くらいだろう。だが刃喰の10人以上には50人も含まれる。

 確かに間違ってはいないが、それだけの違いがあると精神的に厳しい。


 更に言うと現在、30分ごとに50人というサイクルで襲ってくる。そんなことをもう6時間も続けているのだ。

 リリパールの指示のもと、6000人を動員しての削り作業だ。確率で言ったらほぼ100%双弥に勝ち目はない。どう考えても精神力が尽きてしまう。完全に潰そうとしている。


 エイカがいるため遠距離攻撃や一気に畳み掛けるマネはしてこないが、これがいつまで続くのだろうと考え、いつか潰れるくらいなら早いところ負けを認めたほうが楽になれる。



「ま、待て。ストップだストップ!」


 刃喰の攻撃を掻い潜って接近してきた剣士に双弥は両手を上げた。

 兵士はそれを何かの作戦かと疑い攻撃してきたが、双弥はその剣を切り裂く。


「お、俺がやられても第2、第3の……」

「いやいや、そういうのいいから話だけでも聞いてくれ」


 実際第3どころか10ターン以上攻めこまれているのだ。さすがにもう潮時だろう。


「戻ってリリパールに伝えてくれ。降参するからもう止めてくれと」


 こうしてまた双弥は捕まることとなった。






「双弥様。私は今度こそ本気で失望しました」


 リリパールが大勢の騎士たちに囲まれた状態で腕を組み仁王立ちをしている。相当なご立腹だ。

 周囲を見渡した双弥は早めに降参してよかったと思った。


 これだけの人数だ。大怪我を負ったとしても治癒魔法で回復させ、痛みが消える2、3日後にまた参戦できる。凶悪なローテーションだ。


 そして現在、双弥の両手は後ろで縛られている。妖刀はきっちり納刀せず隙間を作り、破気をコントロールし触れようとするものへ恐怖を与えている。そのため誰も奪えないため帯刀したままだ。

 両手さえ封じてしまえば剣を抜くことはできないため、このままでもよいと判断されている。



「仕方ないだろ。俺は先日神に会って直接言われたんだ。魔王を倒せって」

「ふぅん。では創造神様がどのようなお姿をしていたのか仰って下さいな」


 夢とはいえリリパールは神から啓示を受けたのだ。その姿を知っていてもおかしくはない。

 そして双弥はその姿を知らない。が、特徴については知っている。


「え、えっと……ハゲジジイ」


 ブフッ


 リリパールは顔を真っ赤にさせて口元を押さえていた。


「そ……そぉやさま、ぷふぅっ。い、いくら正しいからといって、創造神様をですね、そのような……くくっ」


 リリパールは今、必死に笑うのを堪えている。どうやらツボに入ったようだ。

 今まで誰もが崇めるような存在を突然ハゲとか言われ、普通なら怒りそうなものだが彼女もきっと気になっていたのだろう。


 なんとか堪え、気を取り直したリリパールは、咳払いをして再び双弥に目を向ける。


「しかし双弥様。勇者であるならばシンボリックが使えるはずです。あなたにそれができるのでしょうか?」



 シンボリックは創造神の使いであることを証明するものでもある。

 魔法により火や水を出現させることは魔法使いならばできるが、それは無から有を創るものではなく、空気中にある魔法の元素を変換させることにより起こす現象だ。シンボリックのように形あるものを出現させるものではない。


 だがそう来ると思い、既に双弥は策を練っていた。


 実は今、刃喰が岩盤まで掘り双弥のデザイン案の通りに岩を切り刻んでいるのだ。

 あとは頃合いを見計らって唱えたふりをし、その岩を地中から出現させればいい。


『準備できたぜご主人』


 刃喰の1体が双弥の背後から現れ、こっそりと告げた。


「見てろよリリパール。これが俺のシンボリックだ! 突! スカイツリー!」


 その直後、ゴゴゴゴゴと地鳴りがし、地中から何かが飛び出すように出現した。


「お、おおお……」

「こっ、これは……っ」


 周りの騎士たちがどよめき立つ。


 そう、その姿はまさにシンボリックといえるような、男性のシンボルに見えるものだった。

 あまりに立派なソレを見てしまい、リリパールは泡を吹いて倒れてしまった。


 (「お、おい刃喰。ちゃんと説明しただろ!」)

 (『大体は合ってんだろ。いーんだよ適当で』)


 刃喰はどうやら下から作ったらしいのだが、岩が足りなかったせいで途中の展望台までしか作れなかったようだ。

 しかも大雑把な性質のせいで形もいい加減。どう見てもち●こでしかなかった。


 (やばい、これはいろんな意味でやばい)


 シンボリックは国を象徴するものであると鷲峰から聞いていたのだが、これは国とかそういうものではない。

 ということは双弥が使ったのがシンボリックではないという証明になる。


 双弥はある程度の覚悟は必要だと判断した。


 だが運のいいことに、以前双弥たちが召喚されたときにいたタォクォの騎士がここにいた。


「そ、そういえば前に双弥殿の国では巨大な男性器を祭っていると……」

「なるほど。それならば確かにシンボリックで間違いないようですな」


 これについては双弥からではなく、他の勇者からの証言だけに信憑性が高い。


 通常の魔法と違いシンボリックは詠唱を必要としない。熟練になれば省略できるが、つい最近この世界に現れロクに魔法を理解できていないはずの双弥がシンボリック以外の方法でこれを出せるとは到底思えない。

 神の御使いである勇者がシンボリックを発動させた以上、公平な扱いをしなくてはならなく、そうなると1人だけ長く束縛するわけにはいかない。

 だからといってこのようなものを我が主──イコ姫に確認して頂くわけにはいかないと騎士は考えた。

 代理としているリリパールも気を失っている以上、この場は騎士団長の判断が絶対になる。


 勇者召喚に参列していた騎士は皆、敬虔な創造神信者である。もし神が国を裏切れと言えば裏切らざるをえないだろう。

 怪我の功名。双弥はこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。


「疑いは晴れたようだし、そろそろ行かせてもらえないかな」

「は、はっ。失礼致しました」



 双弥は開放された。

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