第13話

 双弥たちがいるのは、広い草原地だった。

 といってもこの草原、人工的に植えられたものなのだろうか、芝のように短い草しかない。

 国境の川をそうそう渡れるとは思えないが、それでも越えた場合でも隠れる場所がなく、容易く捕まえられるようにだろう。


 双弥は川の方を振り返ると、極小の光がちらちらといくつか見えるのを確認した。あの程度ならばこちらまで届かないはずだ。

 町からそれなりの距離を流されているし、もう見つかることもない。


 刃喰が反応しないため、周囲に人間は確認できない。やっと双弥は一息つけた。




「大丈夫か?」


 地球よりも明るい月明かりの下、双弥は少女を見る。

 双弥もそうだが、びしょびしょのドロドロだ。このままでは風邪をひいてしまう。

 それに乾かすのもこの状態では無残になるのは目に見えている。

 一度戻って水で洗う必要がある。そのためにはこの少女が着ているということが厄介だ。


 つまり、ひん剥かなくてはいけない。


 双弥は迷った。相手は年頃の娘さんだ。それから服を剥ぎ取るなんて行為が許されるのか。

 更には戻ってくるまでの間、裸で放置しなくてはならない。どれだけ酷いプレイを強要させることになるのか。

 だがこのままでは風邪どころか、最悪肺炎にかかり命に係わる可能性がある。


 ごくり


 双弥は空気を飲み込み、震える手で少女のスカート部の裾を掴もうとした。


 今双弥は己と戦っている。

 このまま捲り上げてしまったら理性の箍が外れてしまい、そのまま襲い掛かってしまうのではないかと。

 こんなシチュエーションは初めてのため、衝動を抑えられるか非常に不安である。彼は元気な男の子だ。


 そこで双弥は深呼吸をし、大きく息を吸い込んだところで一気に動いた。


「ごめん!」


 双弥は少女の腰紐を解き、ワンピースを剥ぎ取ると、急いで来た穴を戻り、川の水で泥を洗い流して再び穴から出てきてワンピースを絞った。


 (これはタイムアタックだ、時間がないぞ、急げ、急げ!)


 頭の中で自我を保つ呪文のように急げと唱えつつ。


 粗方水分を出し切ったところでワンピースを広げ、バタバタと振り少女に着せた。

 全て勢いに任せてしまえばなんとかなるという行動は間違っていなかったようだ。双弥はやりきったという感じで大きく息を吐いた。



 (うん、よれよれで少しみずぼらしいな)


 文句どころか何も言葉を発さない少女を見て、双弥は考えた。どこで間違ったのかと。



 まず出会ったこと。これに関しては問題ないはずだ。襲われた町の生き残りである少女と話をする。大抵の人間ならするだろう。

 そして彼女の両親を埋葬したこと。これを問題視するほうが間違っているだろう。

 他の町人は放っておいたのにと言われるだろうが、遺族がいるならばそちらを優先的にし、他は後回しにしたところで問題はないはずだ。

 では少女を連れて戻ったこと? もし他に仲間がいればそうできただろうが、目の届かないところに放心状態の少女を置いていくというのは人としてどうなのか。

 ならば少女を連れて川へ飛び込んだことだろうか。いや、あの場にいたら巻き込まれていた可能性が高い。あの魔法の威力がどんなものかは知らないが、最悪死んでいたかもしれない。

 話をして兵士たちが止まればよかったのだが、生憎そんな雰囲気ではなかったし。


 結論。指名手配された時点で間違っていた。


 だが今更な話だ。こうなってしまったことは仕方ない。重要なのはこれからどうすべきだ。

 ベストなのは親戚に預けることだろうが、いるかどうかもわからないし、キルミットに戻ることができない。

 だからといっていつまでも一緒にいられるわけではないし、それはよくないことだ。どこか適切な場所で保護してもらうのがいい。


 その前に、できればちゃんとした服を手に入れたいところだ。



「刃喰、この辺に町はないか?」

『あるぜ。川に沿ったところだ』


 川沿いにあるということは、先ほどの町同様国境警備の町なのだろう。

 とすると対岸とはいえ先ほどの騒ぎが伝わっている可能性があり、近付かないほうがいい。

 だからといってこのままじっとしていても良くはならない。


 双弥は少女を背負い、なるべく川から離れるよう進むことにした。



「……と、どうしたものか……」


 突然足を止め、考え込んでしまった。

 悩む原因はいくつかあるが、今一番問題とするのは少女のことだ。


 話してくることもなければ、話しかけても反応がない。自分の意志で動こうともしない。

 むしろ意思がないように見受けられる。


 移動には正直邪魔でしかない。だからといって放っておくこともできない。

 そして彼女は自らの行動ではなくとも、無断で国境を越えてしまった犯罪者だ。

 少女は軽いが、いつまでも背負って歩けるほど楽ではない。そろそろ体力的に厳しい。



「ねえ、自分で歩けないかな」


 と言ってみると、ふらふらと歩きだしてしまった。

 その姿を見て双弥は慌てる。


「ちょ、ちょっと待って!」


 少女はピタっとその場に止まった。

 靴が片方しかない。これでは歩きづらいし、なにより足が怪我をしてしまう。


 双弥は自分の靴を脱いでみたが、これを履かせてもだぶだぶで余計に危ないと感じた。

 しかしここで一計を案じ、靴下を脱いだ。


 (うぷっ、酸っぱい)


 数日間もの間山道を歩き続け、履き続けた靴下だ。酸っぱ臭くなっているのが普通だ。


 だけど我慢してもらわないとと心を鬼にし、靴の中から中敷きを引っ張り出し、それを靴下の中に入れて履かせた。


「これで大丈夫だと思うけど……歩いてごらん」


 少女はまたもやふらふらと歩き出した。


 (聞こえている素振りはないが、言うことは聞いてくれるな)



「刃喰」

『あ? なんだご主人』


「ちょっとこの棍を切ってくれないかな。ここらへんまで」

『ちっ、めんどくせぇことやらせんなよ……ほらよ』


 刃喰はだるそうに1体だけ飛び出し、棒を鮮やかに切り落とすとケースへ戻っていった。


「ねえ、この棒を回してくれないかな。こうやって」


 双弥は少女の前で棍を回してみた。

 すると少女も同じように振り回し始めた。双弥は少女に歩きながらでもできる舞花棍をやらせようとしている。


「そうそう、上手い上手い」


 頭で覚えていなくとも、体が覚えてしまえばいざというとき動くものだ。そして今、この少女は言われたことを愚直に繰り返すだけの状態だ。


 ご両親を失っているうえに、双弥はお尋ね者だ。いつ別れてしまうかわからない。

 そのときせめて1人でも生きていく術があればと、双弥は自分の知識を少女に与えることにした。


 もちろん信頼できる場所で保護してもらえるのが一番いいのだが、それがいつになるのかわからない。



『そんなことよりご主人よ。北の方から人の気配がするぜ』

「何っ!?」


 慌てて北を見るが、光などは見当たらない。それなりに離れた場所であると推測される。


「数は?」

『知らねぇよ。とにかくたくさんだ。ご主人と会った村より多い』


 あの村で人口200を越えていたのにそれ以上となると、そこそこの村或いは町になる。

 さもなければ軍の可能性だ。


「動いているか?」

『いや、ほとんど動いてないぜ』


 ならば住居……いや、この時間ならば軍も野営をしているだろう。

 双弥と少女はもう少し距離を詰め、一晩明かすことにした。






「ここは村……いや、町かな?」


 朝になり暫く様子を見ていたところ、大きな移動を刃喰が感じなかったため人が住んでいると判断し、近くまでやって来た。

 高さは2mほどの石を積んだ壁が広い範囲を覆っている。人が攻めてきたときのためというよりも、魔物のための壁だと解釈できる。


 双弥は少し警戒しつつも平然を装い町の門まで行くと、兵が渋い顔をしながらやって来た。


「お前、町に入るつもりか?」

「えっ、そのつもりだけど……」


 不審な点はなかったはずなのに、止められたことで戸惑う。

 キルミットならいざ知らず、隣国にまで手配書が届いているとは思えない。

 なにせ姫君同士は不仲だし、互いの交通が不便だ。


「うちの町で浮浪者の居場所はないぞ。帰った帰った」


 そこで自らの格好を見直す。

 乾いた泥で斑になっており、ガビガビだ。これでは浮浪者と思われても仕方ない。


「あ、いや、これはその……ちょっと沼に落ちて洗い流したんだけど残っていて……」

「うん? お前もしや……そのまま喋ってみてくれ。自分のことでいい」


 何の話だかわからないが、双弥は少し首を傾げて言われる通りにしてみた。


「俺の名前はツヴァイで、東に向かって旅をしているんだ」

「やはりお前、別大陸のものか。口の動きと言葉が咬み合わない。だがこの術が施してあるということは、客人だということか」

「待て、客人なら証があるはずだ」


 双弥は心の中で舌打ちをした。客人というものが何かわからないが、自分に都合よくものが運ぶなら乗ったほうがいい。

 しかしそこに障害があった場合、上手く乗り続けるか思い切って飛び降りるかだ。


「見ての通り沼に全部落としたんだ。で、命からがら脱出してきた」


 それを聞いてもう1人の兵士が「ああ、あそこか」と、すると別の兵士も「あそこなら仕方ないな」と返す。きっとそう遠くない場所に底なし沼でもあるのだろう。

 双弥は上手いこと乗り切ることができたようだ。

 

「申し訳ないが、あの沼に落とした荷物はもう見つからないと思ったほうがいい。諦めてくれ」

「あーっ、金とか全部入ってたのに……」


 少し過剰なくらいの演技をし、悔しがる双弥。それを見て兵士たちは哀れそうな顔を見せる。

 と、ここで思いついたように手を叩く。


「悪いけどこの町で働けるような場所ってあるか?」

「ああ、ならばスリッページさんのとこへ行くといい」


 金が必要だとわかっている兵士は、1人の名前を言った。


「どこの家だ?」

「こっからでっかい屋敷が見えんだろ? あそこだ」


 双弥は入り口から中を覗いた。

 真っ直ぐ続く道の先、かなり目立つ場所に青い屋根の屋敷が見えた。

 リリパールの邸宅とは比べものにならないほど小さいが、それでも豪邸には違いない。

 双弥は礼を言い、少女の手を引き屋敷へ向かった。


 到着するまでに周囲を見渡すが、小さいながらも町の装いをしていた。

 宿らしき建物にレストラン。雑貨屋などがあり、人もそこそこ出歩いている。


 街道から外れているため宿場町というわけでもなく、近くに沼や森はあるが資材が取れるわけでもない。なのに発展している不思議な町だ。


 やがて2人は屋敷まで到着し、扉を開けた執事らしき男に事情を説明すると中へ通された。



 応接室で待たされたが、さすがにこの服では座れないため、立って待っていると一組の男女が入ってきた。

 女の方はスーツのような格好格好をしていて、妻というよりも秘書といった感じだ。

 男のほうはシルクだろうか、光沢のあるシャツを着ておりいかにも金を持っていそうな雰囲気をかもし出している。

 そしてその目はにこやかに見えるが鋭く、何かを見透かすように双弥たちを見る。


「ようこそ客人。わたくしがスリッページです」

「初めまして。ツヴァイと申します。えっと……」

「大まかな話は先ほど伝わっております。何故働きたいのでしょうか?」


「俺は東に向かって旅をしているのですが、やはり食うにも寝るにも金がかかりますから」

「なるほど。そちらのお嬢さんは妹さんですか?」


 スリッページは少女を一瞥し、双弥へ顔を向けて尋ねる。


「いえ、魔物に襲われた町の生き残りなんです。放っておくわけにもいかず、同行させています」

「それは立派なことだ。今どきそうそうできることではない」


 スリッページは少女を全身見回し、何か納得したように頷く。


「もしよろしければ、そのお嬢さんを当家で預からせてくださりませんか?」

「どういうことですか?」


「ええ、わたくし、これでも慈善事業として孤児に教育を施しておりますので」

「ちょっとよくわからないんですが、それをやってあなたに何の得があるのですか?」


 双弥は怪しんだ。見た感じ質素というわけでないうえ、この男は恐らく商売人だ。

 根拠としては常に値踏みをするような感じでものを見ている点である。特に少女のことを。


 商売人というのは良くも悪くも採算で勘定する。慈善事業というのは基本的に本業の儲けを上げるために行う。

 自分は慈善事業を行っている。これにより他者から好感や信用を得られやすいし、守銭奴などの悪評が付きにくくなる。


 だがそれは現代社会の場合であり、この世界ではどうなっているのかは別だ。


「たくさんありますよ。まず、若いほうが知識を吸収しやすい。そして長く育てることでその子の特性がわかり、本人の才能をよりよく伸ばせるのです」

「それのどこにメリットが?」

「優秀に育った子には私の仕事を手伝ってもらっています。そうでなくともきちんと教育を受けた子であれば、町で充分に働くことができます」

「なるほど」


 所謂青田買いみたいなもだ。

 秀でた人材は長く使いたいから若いほうがいいし、町が発展すれば自分の仕事の収益も増える。



 双弥は悩んだ。


 これ以上連れ回すということは、それだけ危険な目に合う確率が高くなるということだ。

 そして長く一緒にいすぎると、愛着が湧いて別れづらくなる。

 もう既に別れることを戸惑っている辺り、早いところなんとかしないとと思っている。


 本来ならば彼女の意志を尊重したいのだが、生憎それはできない。

 それにできることならばキルミットへ送ってあげたかった。


 少女に顔を向けても相変わらずの無表情。何も言ってくるわけでもなく、伝えようともしない。


「もし彼女の意識が戻ったとき、その意思を尊重していただけるなら」

「わかりました。そのようにお預かりしましょう。それで、貴方はどうするんですか?」


「俺は旅を続けるよ。東に向かってずっと進むつもりだ」

「ならば仕事をひとつ頼んでいいですかな? 街道を東にずっと行くとゼロサムという大きな町があります。そこへ届けてもらいたいものがあります」


 そう言っている間に秘書らしき女性が奥へ行き、スーツケースのような箱を一つ持ってきた。


「これを届ければ交換で報酬が出るようにしておきます。中身は大切なのでくれぐれもミスなくお願いしますよ」

「わかりました。それじゃ、元気でな」


 双弥は少女に一言かけ、宿代と食費、そして謎の箱を預かり屋敷を後にした。





「なあおっさん。スリッページさんってどんな人なんだ?」


 双弥は宿で久々にまともな寝床で暫く横になったあと、これまた久々にまともな食事を宿の隣にあるレストランで摂っているとき、ふと店主に尋ねた。


「変わった人だね。大金持ちのくせにこんな辺鄙な町に住んでて」

「大金持ちねぇ。何をしているんだ?」


「タォクォで1、2を争う娼館のオーナーだよ。店を10軒は持っているそうだ」

「なんっ!?」


 あまりのことに、双弥は立ち上がった。

 孤児に教育をして働かせると騙されてしまったのだ。

 今ごろ少女も男たちの慰みものになるためいろんなことをされているのではないだろうか。


 こんなところでのんびりしていられない。双弥は慌てて少女のもとへ行こうとした。


 が、テーブルの脚にすねを思い切りぶつけてしまい。悶絶してしまった。



 痛みが治まると共に冷静さを取り戻した双弥は、スリッページとのやりとりを吟味してみた。



 >孤児に教育を施している

 これに嘘はないだろう。ただしどんな教育かは知らないが。


 >特性を知り、才能を伸ばす

 これも嘘ではないだろう。何の才能かは知らないが。


 >優秀な子に仕事を手伝ってもらう

 恐らくこれも本当だ。何をさせるかわからないが。


 >教育がされていれば町で働ける

 間違いないだろう。どんな店でかは知らないが。



 双弥はがっくりと項垂れる。


 (なんてことだ、あの男、嘘をついていない)


 つまり双弥は、一切騙されることなく怪しい仕事をしている相手に少女を任せてしまったことになる。

 誰のせいだと言われれば、双弥のせいに他ならない。



 所詮赤の他人だ。この世界で生きていくのは地球に比べ、遥かに辛く厳しい。少女も生きているだけマシといえる。


 双弥は部屋に戻ってベッドで横になり耳を塞ぐ。それでも頭に響く少女の父を呼ぶ微かな呟き。

 ここで動かなければ一生悪夢に魘されることとなる。双弥は棍と刃喰を持ち、部屋を出た。




 屋敷の周囲は1mほどの壁で覆われていたが、難なく越えて改めて屋敷を見る。

 少女がどこにいるかをまず探さなくてはいけない。


 どうしたものかとうろうろしていると、裏の窓から薄明りが漏れていることに気付いた。

 カーテンが光を抱擁しきれず滲み出ている感じだ。


 こっそりと窓に顔を近づけるとカーテンの隙間から部屋の一部が見ることができる。


 そこで見たものは、透けたヴェールのような服、ベビードールを着せられ、首輪を鎖で繋がれて歩かされていた少女の姿だった。

 スリッページは椅子に座り、正面に立っている少女を跪かせようとした。


 そのとき双弥は窓を叩き割り、中へ飛び込んだ。


「なっ、なんですか貴方は!」

「その子を返してもらいに来た!」


 その言葉と姿を確認し、スリッページは飛び込んできたのが昼頃に会った双弥ツヴァイだとわかった。

 約束が違うと言いたげな双弥の顔を見て、スリッページは呆れたように肩の力を緩めた。


「わたくし、嘘は申していませんよ」

「わかってる。それは充分にわかっているが、さすがにこれはダメだ」


 ふむ、といった感じにスリッページは双弥を品定めした。生温いことを言うこの若造に多少興味を持った様子だ。


「貴方にとってこの子は赤の他人ではないですか」

「ああそうだ。だけど知り合ってしまった以上、見過ごすことはできない」


 双弥は真っ直ぐスリッページを見据える。それは迷っている風には見えなく、確固たる意志を持っているように見える。

 この世界では普通のことだとしても、双弥には譲れないものがある。


「ちゃんと確認しなかった俺が悪かった。割ったガラスも弁償するし、依頼もキャンセルして頂いた経費も返す。だから今回はなかったことにして下さいっ」


 双弥は床に頭を叩きつけた。頭割ずわり土下座である。痛みが後頭部まで響き、耳鳴りがする。


「客人と聞いていましたが、そんなことだとこの大陸では生きていけませんよ」

「それを理解した上でだ。お願いします!」


「しかし貴方は無一文ですよね? 支払いはどうするのですか?」

「うっ」


 少し意地悪をするようにスリッページがにやりと笑いながら言うと、双弥は詰まってしまった。

 最悪、自分が犠牲になるくらいのつもりでやってはいるが、どうしてもこれ以上の言葉が出ないでいる。


「では貴方に仕事をして頂きます。箱を届けてください」


 スリッページの言葉に双弥は頭を上げ、何を企んでいるのか見透かそうとする。

 しかしそれもまた失礼にあたるとして、双弥は相手の考えを読もうとするのはやめた


「あの、ですが、それは……」


「旅先で拾っただけの少女のためにそこまでしたこと。そしてわたくしの言葉をちゃんと理解し、嘘つき呼ばわりせず、且つ自らの過ちを開き直らず受け入れたこと。貴方は信用に値する人物だと思ったからする依頼ですよ」

「ありがとうございます!」


 再び双弥は頭を下げた。



 最後にちゃんと窓代は報酬から引かれることとなったが、それでも双弥の気分は晴れやかだった。

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