第29話 応援してる……とか。 ー霰sideー


「どういう……こと?」



ボクはそーくんの方に向き直りながら聞く。


だってそーくん、雹牙のことは覚えてた……つまり、ボクなんか興味なかったってことでしょ? だから好きな人は違う人で…そしたらそんな話、今しなくていいじゃん! 何なんだよ!?



「…そう言えば あーちゃんはさ、決めた? 跡取りになること」



そーくんは微笑みながら、分かりきったことを聞いてきた。話コロコロ変わりすぎだし。やっぱりそーくんは馬鹿なんだね。



「……はぁ。やっぱり馬鹿なの? うちには雹牙がいるの。雹牙が跡取りになるに決まってるじゃん」



そーくんの家もお金持ちらしく、一人っ子のそーくんが必然的に跡取りになる……けど、そーくんの両親は強制しないと雹牙から聞いた。


だから、そーくんは何にでもなれる。自分の好きなことが出来るんだ。ボクらとは違う。


ボクらの家は全てにおいて親が決定する。跡取りのことも、結婚相手のことも。だから長男の雹牙が跡取りに、用のないボクは親の決めた相手と結婚する。


いくらボクがそーくんを……いや、宗介を好きになったって意味はないんだ。



「じゃあ、あーちゃんは結婚して家を出るんだ? 相手はもう決まった?」



宗介はボクが結婚することに、何も感じてくれないんだろうか?


宗介が余りに他人事のように放った言葉はボクの胸をえぐった。ボクは頭を落としながら質問に答える。



「来週、お見合いだってさ……それが、どうしたの?」



16歳になったらすぐに結婚出来るように、今のうちから良いところの人とお見合いをしておくらしい。


今度会う人も、家の事情でやむなくするのだろうが、親の仕事の立場上、ボクたちは何も言えない。飼われたペットのように、操り人形のようにボクらは従う。


落ち込んだボクを見て、宗介は微笑んだ。「よかった」と呟いた。


落としていた顔を上げる気にもなれなかった。もう、ボクには希望すらないらしい。



「……ねぇ、あーちゃん。さっき、あーちゃんは俺に聞いたよね。”跡を継ぐのか”って。継ぐよ。俺、あの家を継ぐ。だから、あーちゃんも……ううん、霰もお見合い頑張ってね。上手くいくよう応援してる。逃げちゃ駄目だよ」


「何で……」



廊下に小さな跡を残している涙を睨みつけながら放った言葉は、宗介の耳には届かなかった。ボクは手に力を込める。



「……霰」



今まで変わることのなかったボクらの距離が、確実に縮められた。


俯いていたボクの視界に宗介の足が入る。あの頃とは違う、大きくなった足。ボクとは違う、男の子の足。



「大丈夫、霰は1人じゃないよ」



あの頃とは違う低くなった声で、あの頃と変わらない優しい言葉をかけてくるなんて…。


ボクは、やっぱり宗介が好きだと知ってしまったじゃないか。


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