星の天使

花森 待音

第1章-白い羽

第1話

故郷は赤い星だった。

学校で聞いたことだが、どうやら故郷は他の星よりヒトには住みにくい環境らしかった。しかし故郷に移り住んできたヒトはどうやら優れた技術で星を彼らの生活に合わせて改良していったらしく、おかげで自分やその家族、級友達は何も心配事などなく生きていく事が出来ていたのだった。でも、自分は・・・・・・自分は、そんな故郷から逃げ出して・・・・・・

ああそうだ、だんだん意識がはっきりとしてきた。ヒイロは、そこでやっと自分の置かれている状況に気が付いた。これは夢で、ならば現実の自分は?現実の自分は・・・・・・広い宇宙を泳いでいる時に、運悪く巨大な隕石の欠片と衝突した。もしかしたらこれは夢ではなくて、自分はもう死んでいるのかもしれない、とか色々と考えて、そして、ふと目を開いた。


真横に、自分が使っていた黒の宇宙船の残骸が見える。はっとしてゆっくりと腕を動かす。ズキズキとした痛みなどお構いなしに、全身をぺたぺたと撫でまわして出した結論、どうやら自分は生きているらしい。ただし体は衝撃で大分ボロボロのようで、時間が経つにつれ痛みがはっきりと分かるようになってきた。

同時に、ふと思う。ここはどこだろう。誰もいない星だろうか。そもそもここは星なのか。疑問はいくらでもあった。ただ、傷のついた頭はうまく回らず、それについていけるだけの気力など、この時のヒイロは持ち合わせていなかった。突然、再び瞼が重くなってくる。次は目が覚めないかもしれないな、と覚悟した瞬間、視界に何か白いものが映りこんだ。


「・・・・・・おきてるの?」

ヒイロは再びはっとした。紛うことなき少女の声だ。

ヒトがいる。たった1人でも、それはヒイロの心を僅かに暖かい色に染めるくらいに嬉しいことだった。

「ケガ、してる・・・・・・いたそう」

少女が屈んでそっとヒイロの手に触れた。ひんやりとしている、けれどもその中に、確かに命の感覚がある。どうしようもない状況だというのに、どうしようもなく落ち着く。

そしてヒイロは、体温を感じてはじめて「温度」という概念を取り戻した。ここは、暑い。


「あ、の」

弱々しい声だった。意識が浮かび上がってから一切声を出していなかったから無理もないだろう。少女は首をかしげる。一瞬遅れて、白く長いその髪が流れた。

「みず、ある、かな」

一音一音はっきりと発音する。少女に伝わっているだろうか、とヒイロは不安になった。

「・・・・・・ある、もってくる」

そう言うと、少女は膝を伸ばしてちょこちょこと駆け出していった。

残されたヒイロは、横たわったまま考えていた。これからどうなるのだろう、どうすればいいのだろう、と。考えるべきことは山ほどあった。だからヒイロは小さな疑問を見落としていたのである。


なぜ少女は、たった1人この星にいるのか。

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