【あんぱんは】焼却炉の中で拾った【昼飯だった】

小雨路 あんづ

【あんぱんは】焼却炉の中で拾った【昼飯だった】0

――ある日、突然世界は繋がった――


 発展し続けた技術。その技術により、同時に存在する5つの別世界との交信に成功したのは人類の大きな進歩と言ってもよかった。


そのあまりにも大きな代償を除いて考えるならば。


 1つめは世界同士の連動。2つめは「世界の抑止力」と名乗る彼女たちの存在。


 それに対抗するため、21人の巫たちはその身を紋章に捧げることで力を得た。それぞれの属性ごとの力を有する紋章たちとその統括である、紋章師という存在はそうして生まれたのだ。


そうして今この瞬間も、紋章師たちは戦いに明け暮れている。

 それがこの世界の歴史。


 眠たくなるような、老人のしわがれた声で訥々と紡がれる言葉。先ほど受けて来たばかりの世界史の授業を思い出した。現実逃避だと分かっているそれ。


 切り取られたように銀枠にはまる青空。少し開いたそこ。雲一つない晴天と耳騒がしい蝉の声を聴きながら窓の外を見る。ため息が小さく口からこぼれた。


「あーあ、どうすっかなぁ」


 大学の構内。シャワー室に置かれた水を張った猫足のバスタブ。その横にしゃがみ込んで、軽く頭をかく。


 片肘をついて中をのぞく。湯だったように赤い肢体がぐったりと首まで浸かり、ゆらゆら水面に揺れている。ところどころ跳ねた白い髪に、長い前髪。白い肌に中性的な美貌。今は閉じられている瞳が左右で色が違うことを俺は知っている。


(もし誰かにこの状況見られたら俺の世間体死にますわ)


 男2人が1つのシャワー室。1人は気絶していて全裸、もう1人はそれを眺めている。どう考えても変態。俺なら通報するレベル。もちろん見ている方を。


 入るときも細心の注意を払ったが、出るときも同じことをしなきゃいけねぇのかと思うと今から頭が痛い。今度は肩を下げて、大きくため息を吐く。


 紋章師という職業に就いている2人はあまり家に帰ってくることはなかった。が、その反動のように会うたびにいつもうっとおしいくらい構ってきた。

 すぐに連絡が取れるようにと小学生のころから端末を持たされていた俺は、友達曰く「過保護」らしかった.


 まあそんなことはどうでもいいとして。


 目の前の湯船に漂う存在を見る。成人した男の裸なんか見る趣味もねぇが、見てなきゃすぐに溺れそうなほど意識のない身体はぐんにゃりとして不安だった。


 両親が持ってきた集合写真でしか見たことのない人物。本来は異空間で戦っているはずの存在。それがなんでこんなところにいるのか。 


 窓の外に広がる空は相変わらずぎらぎらとした青空で。少し開いたそこからはこのくそ熱いのに部活動にいそしんでいると思われる号令が響いてくる。


 それから、ふと思いついて両親にもらった端末を取り出す。そうして、あるページを開いた。

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