あの日の冬虫夏草
石時春
序章 私の半径20m以内の出来事
「お前らのちんたま叩き潰してやるぁ!!」
「うるああああああ!どすこいいい」
高音の声の飛び交ううるさい教室に私はいた。男子が、馬鹿みたいにたかってプロレス……といっても良いのかな?……をしていた。
「センベイチームいけええええ!」
「ホモサピエンスどもであええええ!」
机をとんで、踏んで、そして叩いて、アクロバチックな近距離線をする男子もいれば、輪ゴムをピンピン飛ばす遠距離戦をする……女子もいた。女子いたのか。あまりにも人口密度が凄くて気づきもしなかった。
「なにあれ」
昼休み、体育館から戻って来た私は面白そうに思いながら見ていた。
混ざりたいなと思ったけど、私のグループリーダー由佳ちゃんはあの意味わからん戦いに混じってる女子グループが嫌いだし、私がハブられたらどうしよってかんじだし。
「あはは!輪ゴム連弾〜」
「あー!ちんこがあああ」
楽しそう………
「はーい!最終兵器!極太輪ゴムゥ〜」
楽しそう楽しそう楽しそうううう!!いいよね?別に由佳とは別クラスだし。
「私もやっていい?!」
「良いよー!ウェルカム!」
そう言われて、私はその子にかなり感動した。だって由佳ちゃんはかなりハブるし。優しくなったらいきなり無視したり、その次の日にはいきなり優しくなってる。あれっておおざっぱにいうとDVと同じやり方だよね。
何で私は由佳の為に一喜一憂しないといけないんだか……。大きく溜息をついた。でもこのグループもキラキラし過ぎて逆に針のむしろだよね。いくらメンバーが優しくたって、元由佳ちゃんグループのサナがいるから。サナはかなり嫌な奴だし、私がこのグループに居座ったら「なんでくっついてるの?ちょっとキモいよ?」って笑ながら言いそう。
今日だけ。今日だけ!
心にそう言い聞かせた。
「名前、あのう名前何だっけ?」
「ん?みずきだよ!」
「あ、みずきちゃん、みずきちゃんね」
「そー。輪ゴムどうぞ」
「あ、どうもどうも」
私ったら言葉のキャッチボール下手くそだなぁとおもいつつ、なんだかみずきちゃんという方が眩しくて神々しくて嬉しかった。って今日だけ。今日だけ。
輪ゴムを今、飛ばそうと思った時だった。
「ねぇ、うるさいんだけど。あ、そうだ先生呼んだからね?」
戸をピシャッと開けたその人の声が響く。
……由佳ちゃんは軽蔑するような目で私をちらっと見て、自分の教室に戻った。自分の取り巻きを引き連れて。静かな教室に響いたのは、取り巻きや由佳のクラスメイトが拍手したり、由佳の取り巻きが「まじうっぜーわ」という声だった。
「はーー怒られちゃったねー」
そう言ったみずきちゃんは、床を見て輪ゴムを片付け始める。
「あーくそこれからだったのによ。まじで由佳なんなの?うっぜぇ」
と言って男子が教室から出て行く。
私たちの教室はとても寂しかった。
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