第24話 Happiness 幸福というもの 2021.12.26 (最終話)

24.

※ “No road is long with good company.”

 良い仲間と一緒なら長い道のりなどない



" 旅は道連れ世は情け No road is long with good company. "



 気のいい夫婦の元で働いていた真砂だが、田舎に住むご亭主のほうの

母親が倒れた為、食堂を閉めて郷里に帰ることになったらしく、真砂達は

収入源が無くなったら、早々にアパートにいられなくなるので

あたふたしていた。


 途方に暮れるふたりに竜司は救いの手を伸べようと決心し

真砂と泉に、ひとまず俺の所に来ないか、と声をかけた。


 そんな中、食堂のおばさんがちょうど昼食の為店を訪れた

折に話しかけてきた。



 「笠原さん、ありがとう。

 真砂ちゃんがうちの店にいてくれる間は、わたしら元気に頑張らんと

いけんねって言ってたんだけど、田舎で独り暮らししてる亭主のお義母さん

が倒れてしまってね。

 店を畳んだら、ゆくゆくは田舎に帰ることにはしてたんだけど、ちょっと

予定が早まってしまうことになって。


 わたしら、この子達のことだけが気掛かりで、路頭に迷うようならいっそ

わたしらと一緒に田舎に連れて行こうかねって亭主と相談してたんだよ。


 もし、手に負えなくなったりしたら、わたしらに連絡ちょうだい。

 出来る限りなんとか力になってやりたいから」



24-2.



 

 「おばちゃん、判ってる。

 仔猫がとりもった縁だけど、これも何かの縁、このふたりがまさかの時は

支えてやりたいって実は前から思ってたから」



 俺のこの返事を聞いて、おじさんとおばさんはほっとしたようだった。


 そしてちっこいふたりも、可愛い4ツの目で俺を見上げて

ほっとしたのか目をウルウルさせている。



 それからほどなくして、店の夫婦は郷里に旅立って行った。


 後から真砂に聞いたんだが、おばさんたちはアパートを追い出

されないよう、半年は住んでいられる位のまとまったお金を持たせて

くれていたらしい。


 おんぼろアパートのほうの解約やらなんやら手続きをして

翌月からふたりは俺のマンションにやって来た。



 そして3人と1匹の生活が始まった。


 真砂は今、アルバイトを探しているところで合間を縫って

家事をしてくれている。


 弁当も出来る限り頑張って作ってくれている。

 真砂の作ってくれる弁当は素朴だけれど栄養があっておいしかった。


 役所では、笠原くん彼女できた?なんて何人かに聞かれた。


 彼女?そだな彼ではないわな、などとひとりごちた。

 同僚には今親戚の子と住んでるので、と説明しておいた。



24-3.


  半年が過ぎ、気が付くと俺はこの生活に居心地の良さを感じていた。



 しかし、夫婦でもないのにいつまでもこのままじゃ、いられない。


 きっとまだまだ子供のような真砂は自分とはとてもじゃないけれど

結婚相手に、見ることができないだろうし。


 2人を引き取って一緒にこの先ずっと暮らすにはどーすればいいのだろう。

 そんな事ばかり考えるようになったある日ふたりを前にある提案をした。



 俺は君達と養子縁組したいと思ってる。


 この先も一緒に暮らしていけるよう。

 どーかな?


 弟の泉は無邪気に喜んだ。

 姉の真砂は浮かない顔だ。


 「養子縁組って私達、竜司さんの家族になるの?」



 「そうだよ。」



 

 「私は妹で泉は弟になるの?」




 「そうだね、そんな風な感じで良いと思うよ。イヤかい?」



 「ゼーンゼーンいやじゃない・・・僕は」と泉が言う。



  「あたしは・・・・」



 「あたしは! イヤかい?しばらく考えたらいいよ」



 ふたりは風呂に入って寝支度を始めた。



24-4.



 真砂にイヤと言われるとは思ってなかったので正直、少し

凹んだ? イヤ、かなり凹んでるな、俺。


 ベランダに出てそんな風に凹みまくっていたら、いつの間にか

弟を寝かしつけた真砂が側にいた。


 そして俺の腰にしがみついてきた。



 「えっ、どーした?」



 「竜司さん、あたし家族になりたいって言ってくれてすごく

うれしかったよ」



 「そーかぁ!なら良かった」




 「良くないよ・・・良くない。

 ねぇ、あたしをお嫁さんにしてくンない?だめ?

 子供っぽいから駄目かなぁ。


 ただの家族じゃなくて竜司さんの奥さんがいい。

 ゼッタイセッタイ奥さんがいい」



 そう言って真砂は泣いた。



 「なぁ、こんなおじさんが旦那さんでいいのかい?」




 「うんっ、おじさんでもおじいさんでも・・・なんだっていい

竜司さんがいい」



 「仔猫に甘えられて悪い気はしないね。

 じゃぁ、養子縁組は泉として、真砂とは結婚するとしよう。

 だからもう泣かないで」


 「だめっ、うれし過ぎて涙が止まんないンだから、もうしばらく

泣かせて!」




24-5.


 「はいはい、お嬢さん。僕の胸でお泣き」



 俺はそう言って胸の中に真砂を包みこみ、抱きしめ囁やいた。


 「今まで小さい弟を連れてよく頑張ってきたね。


 これからは俺が付いてるから大丈夫だよ。

 それに俺だけじゃない、俺には頼れる兄がいるからね。


 万が一俺に何かあっても、君はもうひとりじゃない。

 俺の兄を頼ればいいからね。

 兄の奥さんもやさしくていい人だよ」



 俺はすぐに保険の受け取り人を真砂の名前に変更し、すぐに

入籍を済ませた。



 黒崎さん程好きになった人は今までにいなかったし真砂に

対する気持ちにあの時のような恋情は正直言って無い。


 だけど愛しい気持ちは誰にも負けない自信がある。

 もう望めないと思ってた幸せを俺にくれた女の子。





 黒崎さんとのことを後年真砂に話したら、彼女はこう言った。




 「あたし、あかねさんって人に感謝してる。

 だってあかねさんが竜司さんを振ってくれたお陰であたし、竜司さんと

出会えたんだモン!」



          。。。。。



 3人と1匹で暮らし始めてから、別の部屋で寝るようにしてた

真砂の弟の泉が寝付かれないと言っては、俺たち夫婦の部屋にやって来る。


 俺を挟んで川の字になるのだ。


 ふたりとも俺の側でうずくまるようにして眠る。

 ついでに仔猫もしょっちゅう俺たちの傍らにやってくる。


 結局、仔猫併せて家族全員、ひとつの部屋で寝ることに!



 そんな俺たちだけど、もうすぐ我が家にもコウノトリが

赤ちゃんを連れて来てくれそな気配。



 泉が、弟分が出来ると今から楽しみに赤ちゃんの

誕生を待ちわびている。




☆-★-☆ お・し・ま・い  ☆-★-☆






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Happiness 幸福というもの 設樂理沙  @manchikan

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