第20話 Happiness 幸福というもの 2021.12.26
20.
" Brothers 兄弟 "
「竜司、待てよ!さっきの話、聞いてたよ。
お前の見合いに黒崎さんやっぱり納得してなかったんだな?」
「僕が相談した時は見合いしている間一時的に別れようって言われたけど
僕がふたりの結婚を母さんに認めさす為の見合いだったってことは
納得してくれていると思ってたンだ。
特に彼女はその時、僕たちの別れについてっていうか母さんに
ぶつけられた暴言のことは言わなかったしね。
今考えると、もうあの時に僕とはやっていけない・・笠原家には
嫁げないって思ってたんだと思うよ。
だから見合いのことなんて今更どうでもよくて、反対もしなかった、そんなことだったんだろうと思う」
「それでどうするんだお前、それでいいのか、諦めていいのか?
お前は母さんに反対されたら諦めるようなそんな半端な気持ちだったのか!
実はな竜司、お前には言ってなかったが、俺と知沙子の結婚の時も
母さんはやっぱり反対してたんだわ」
「えっ、そうなの!」
20-2.
「あぁ、ほんとにあんな母親持つとお互い苦労するな。
自分本位で自分の考えや物指しが一番で、人の気持ちに添う
ということの出来ない人だ、あの人は。
結局俺は反対するならこの家を出る、知沙子との結婚を取る
って言ったよ。
そしたら、何だかんだ言いながらも同居するのならと、お許しが
出たってわけ。お前にはそういう覚悟はないのか?」
「兄さん、たぶん僕は自分の取るべき行動、どこでどんな選択をしたら
良かったのか、大きな間違いをしたんだと思う。
だけどあそこまで母さんが酷い事を顔合わせの時にしていたなんて
予想もしてなかったからね。
反対して会わないって言ってたのに会ってみてもいいって言ったんだぜ。
誰だっていい方向に向かってるって思うだろ。
可能性があるって思うだろ?
なのにそんな僕や黒崎さんに対してあんな言動してたなんて
母さんがほんとに信じられないよ」
そう言いながら、竜司は拳を握り締めた。
20-3.
「黒崎さんから聞いただけじゃなくて、母さんの肉声で罵倒を聞いた。
耳を塞ぎたくなるような言動だったよ。
あれ聞いたら、誰だって思うさ。
誰がこんなヤツの息子と結婚するもんかってネ。
もう僕は、黒崎さんに家を出るから・・母さんとは縁を切るから・・
結婚してくださいって言うことも出来なくなった」
竜司は項垂れてそう言った。
もう何も掛ける言葉はなかった。
万事休すだな。
せめて今言っておいたほうがいいことをこの落ち込んでいる弟が
この後も誤った選択をせぬように、告げておかねば。
「ところで竜司、急だけど・・まだいつとは決めてないが
母さんが家を空ける日に、知沙子と今の家を出て行こうと思ってるんだ」
「・・・・・」
弟は予想してなかったのだろう、驚くばかりで言葉を出せないでいる。
20-4.
「人事じゃなくて、俺のほうも火の粉が飛んで来そうな按配でな。
手遅れになるところだった。
母さんの今までの言動が原因で知沙子が俺との離婚を考えていたんだ。
お前や黒崎さんに対する母さんのあんまりな言い草を聞いているうちに
もしや?と思うところがあって、時間をとって知沙子の今の気持ちを
聞いてみたら・・まさかのまさかでビンゴだった。
感が当たっててな。
知沙子が働き出した頃からなんとなく思うところはあったンだよ。
父さんにも一応言ってある。
もう住む家も大体目星はつけてあって、決行日までに少しずつ、荷物を
運ぶつもりにしている。
お前がもしちらっとでも家を出て行こうという気持ちがあるなら
俺達が家を出て行く前のほうが出て行き安いだろう?
そう思うから、決行日はまだ先だが今知らせとくわ。
俺達が居なくなった後じゃ、出て行きにくいだろ・・って
いうか、母さんが離してくれないだろうからな」
「そっか、もう決定なんだね。
義姉さんが可哀想だよな、このままじゃ。
僕も兄さんのように、ここっていう時に決断力があったら、好きな人を
失わずに済んだかもしれない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます