第19話 Happiness 幸福というもの 加筆修正有2021.2.27/12.26

19.

" Be refused 断られる "



 「母さん、もう見合いは止める」


 そう政恵に竜司が宣言したのは12月の末、あかねから本当の別れを

切り出された翌々日の暮れも押し迫った寒い日のことだった。


 「どうしたの竜司、まだあと2~3人候補の人がいるのよ

ううん、あと1人でもいいわ、そんな事言わないで頂戴」


 「いや、もういいんだ。

 黒崎さんとの結婚も付き合いも止める。


 見合いまでして好きでもない相手とどうこうする気もないし。

 そもそも見合いは黒崎さんと結婚したいが為にしてただけだし、もうする

必要もなくなったわけだから」




 「何言ってるの、黒崎さんとの結婚を止めたのなら、尚更お相手を

見つけなきゃ。

 ほらこれ見て、年は27才見た目もそこそこおきれいでお勤めは○○銀行

でお父様は○○○会社の専務でらして釣り合いから言って申し分のない

お相手なのよ。 会うだけあってみなさい」



 「母さん、しないったらしない。

 もう僕のことは諦めてくれ。


 この先結婚は、たぶんしないと思う。

 反対してた結婚がなくなったんだからうれしいだろ?」



 力無く竜司は政恵に再度そう言うと、足早に自分の部屋に向かった。


 その竜司の後ろ姿をなんとも表現し難い表情で見送る政恵が

その場に佇んでいた。



19-2.



 年を越してからも執拗に政恵から見合いを勧められた竜司だったが

首を横に振るばかりだった。


 ある時竜司が言った。


 「母さんはどうして僕が黒崎さんとの結婚を止めたのか聞かないんだね?」


 「どうしてって、もちろんあなたから断ったのでしょう?」


 「断られたんだよ、僕のほうがね」


 「何なのそれ、何様のつもり、あの女」





 「止めてくれよ、母さん。

 頼むからこれ以上彼女のことを悪く言うのは。


 顔合わせの日、僕や父さんの居ない所で彼女に酷いこと言ったんだろ?

黒崎さんが別れを選んだのはあの日の母さんの言動にあるのは確かだと思う」


 「何言ってるの、反対だっていうことは皆の前でも言ったし、

黒崎さんとふたりきりの時も確かに言ったけど、酷いことは言ってないわよ」





「そんな嘘ついても駄目だよ、知ってるんだよ。

 母さんがどんな酷いことを言ったのか全部」





「そんなの嘘よ。

 言った本人だって今一言一句思い出せないのに。

 黒崎さんにあること無いこと言いくるめられてるのよ、全部」



 「嘘ぶくっていうことは、母さんが黒崎さんに酷い事を言い放ったという

自覚はあるんだね。


 僕はね、母さんには失望している。

 あんな信じられない非道な言葉を投げつけるような人の息子に愛情も

好意も一瞬で木っ端微塵になったことだろうよ。


 長い間、その事を言い出せなかった彼女にとった僕の言動も今なら何て

マヌケなことだったのかと判るよ。


 何も察することの出来なかった僕は彼女との結婚を夢見て、母さんの

同意がほしくて見合いまでしていたんだから。

 まるでピエロだよ、ハハハっ」



 そう言いながら竜司は乾いた笑いを零した。


 たまたま、このふたりのやり取りをいつもより早く帰宅していた

兄の稔が聞いていた。



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