第18話 Happiness 幸福というもの 加筆修正有2021.2.26/12.26

18.


" imaginary fears 杞憂 "


 竜司の兄、稔の結婚の時もいろいろと難癖をつけ、ゴネた挙句に

同居を条件にしぶしぶ結婚を許した政恵だ。


 今回の竜司の結婚では相手が年上だということで更に政恵の言動は

ヒートupしている。


 その様子から兄、稔は自分の妻、知沙子にも自分のいないところで

母親が何かしでかしているのでは?と今まで思わなくもなかったが

知るのが怖くて逃げていた。


 だが、遅まきながらちゃんと知沙子の気持ちと向き合って

おかなければならない時が来たのだと悟る。


 自分の収入は世間一般よりも多いほうだと思うのだが

保育園にひとり息子の光を4才の時から入園させ、妻は

働きに出るようになった。



 実はその事も気になっていたのだ。

 

 そんなに慌てて働きに出なくても、せめて光が10才頃までは家にいて

専業でいいじゃないのかと提案したのだが、就職には1つでも若い時の

ほうが有利だからと言い張って譲らなかった経緯がある。


 子供のいない休日、思い切って知沙子に自分の母親とはうまくいっている

のか、恐る恐る尋ねてみた。


 当たってほしくはかったけれど、よもやの妻が離婚の準備をしていたことを

知った。



18-2.



 その理由の1つに今回の黒崎さんへの仕打ちもあるのよと

妻は言う。



 「私達の時も随分反対されたわよね!あなたとの結婚を許して貰えるなら

と同居したけれど・・もう随分前から耐えられないようなことが

続いているの。


 だから働きに出ることにしたの。

 本心はね、私だって光をじっくり自宅で育てたいわ。


 だけどお母さんと四六時中同じ家にいると息が詰まりそうで

そんな理由で働きに出たんだけど、収入を得たり社会と繋がりを持ったり

したことで、この家を出て行くっていう選択肢も増えた」



 「お袋の気性は俺も判っているつもりだ。

 俺は君が何も言わないことをいいことに、ふたりの問題から

逃げてたんだなぁ。


 ごめんなっ、知沙子。この家出よう!」


 「えっ、ほんとに?」




 「今までよく頑張ったよ、あんな気難しいお袋と一緒に8年余りも

暮らしてくれたんだからね。


 家に居て専業に戻るもよし、このまま働いてもよし。

 これからは君の意思を尊重して協力していきたいと思ってる」




18-3.



 「でも、お義母さん許してくれないわね」


 「もう関係ない。

 具体的にこの計画を進めよう、善は急げだ。


 目ぼしい賃貸を探しておいて、お袋が旅行で家を空けた時に出て行こう。

 お袋の話はその後だ。


 こうでもしないともう俺達この家から出て行けないさ」





 「よく判ったわ。

 私、あなたとお別れしなくっていいのね」


 「止めてくれよ、俺めっちゃ知沙子のこと愛してンの、離れる

訳ないだろう。

 ほんと心臓に悪いって。


 離婚考えてたなんて告白されて、心臓がバクバク鳴ったさ。

 知沙子ごめんな、お袋のキツイ言動で悲しい思いさせて」


 知沙子はこのところずっと、自分の将来の事をあれこれ考えて胸を

痛めていたのだろう。


 ほっとしたのか、彼女の目からはポロっと一粒涙がこぼれた。

 その零れた涙を指で掬って俺は瞼にそっとくちづけた。



 自分の第六感は正しかった。

 間に合ってよかった。

 自分のほうは何とかなりそうだが、問題は竜司のことだ。


 弟思いの兄は母親と弟のやり取りを横目に密かに心配していた。



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