第2話 獄門磔の刑
町の外れに老舗料亭の廃屋がある。
風光明媚な景観を売りにしていたが、リーマンショック後廃業となった。今では木々が館を覆い、また庭園にあるベンガラ色の、名物だった獄門は朽ち、一面雑草が生い茂ってる。
まさに由緒ある料亭は過去の遺物と化したと言える。
それ故に危険、鉄条網が辺り一帯に張り巡らされている。
このような廃墟で、凄惨な斬首事件が起こった。
所轄署は直ちに捜査に乗り出し、その第一報告書がここにある。
その上、首がすっぱりと切り落とされていた。
有山という男、弱者を脅し、金品を巻き上げる犯罪歴がある。町では胡麻の蠅と呼ばれていた。
また最近、女子高校生の
女高生はこれに悩み、自殺した。
こんな事態を受け、ウェブ内で人民裁判なるものが秘密裏に開かれた。これにログインした人民からの投票で判決が下った。
白滝雪菜を死へと追い詰めた罪は重い。まさしく町の恥。
よって死罪の『
その1週間後、有山は人民に拿捕されたのだろう、刑は執行され、首が
第1発見者は散歩中の老人。連れていた犬がいきなり敷地内へと。鉄条網を潜り追い掛けて行くと、獄門に生首が転がっていた。
老人は驚き、まず友人の記者に携帯で相談した。その後警察へと連絡する。
この時間差によりマスコミ関係者が先に現場に到着することとなり、現場は荒らされた。
初動捜査は遅れたが、現時点での主な判明点は次である。
一.犯行推定時刻は前日の18時
二.有山に射られた矢は、白滝雪菜が通っていた高校の洋弓部の矢
以上が報告書。
だが一方の新聞は『獄門磔の刑は執行された』と生々しい現場写真を載せ報じた。そして無法者が殺され、町民はこれに喝采しているところもある、と結んでいた。
されど決して許されることではない。警察としては早く解決したい。
その一環で、捜査一課の百目鬼学刑事と部下の芹凛こと芹川凛子刑事が急遽捜査に加わることとなった。
二人は早速報告書に目を通した。
しかし、二人とも頭を抱える。なぜなら、この犯罪は町ぐるみであり、かつ学校ぐるみであると直感したからだ。
「芹凛、まず人民裁判の首謀者を見つけ出そう。俺は町で聞き込みをするから」
「じゃ、私、学校を当たってみるわ」
こんな息の合った会話後、飛び出して行った二人、夕刻に顔を合わせ、まず芹凛が報告する。
「一つわかったのですが、白滝雪菜の担任は女性教師の
有山のストーカーは金目当て、やっぱり他にも被害者はいたか、と考えを巡らす百目鬼に芹凛が続ける。
「だけど意外なんですよ、少し弱々しく見える政所はカリスマ性があって、指導をしている新聞部では女王様的存在なのです。部員たちは政所に絶対服従で、結束が強いんですよね、しかも異常なやり方で」
これに耳を傾けていた百目鬼、「どんな異常なんだよ?」と間髪入れずに突っ込む。
芹凛はこんなリアクションに
「その悪だくみとは?」
さらなる百目鬼の切り返しに、「部員全員が、あの殺人があった時間、政所先生は私たちと一緒だったと言うのですよ。これって、掟通りで、一つだけ許された嘘ですよね。コンチキショウ!」と、芹凛は怒りで顔を赤らめる。
一方百目鬼は手を頬に持って行き、伸びた髭を無造作に擦る。
「第一発見者の老人は人民裁判の一員、また5本の矢は5人の執行者を表す。何か見えて来たようだが、町の者や女教師の周りの者は全員嘘を吐くってことか、この事件の解決はちょっと……」といつもの切れがない。
そしておもむろに、「俺は政所のような女は苦手だ、だから芹凛、お前が落としてくれないか」と弱気。
なぜなら、たとえ百目鬼が百戦錬磨であっても、自意識が強過ぎる女教師なんて、どこを攻めれば良いのかわからない。
ここはやっぱり――、毒を以て毒を制す。芹凛に委ねるのが一番だ。
もちろん芹凛はそんなこと合点承知の助。
それでも百目鬼、「Okie Dokie」と二つ返事の芹凛が気になる。「どうゲロさせるんだよ」と一応上司としての確認をすると、芹凛はフフフと不気味に笑う。
「もちろん政所真可には、無法者を獄門磔の刑で処罰した、立派だわ。これであなたは正真正銘の女王様よ、と持ち上げて、最後は『部員はみんな白状した、あなたは裏切られたのよ』って、私も一つの嘘を吐かせてもらって、トコトン追い詰めてやるわ」
百目鬼はこの魔女、芹凛の執念に背筋を凍らせた。
だがあとは、前のめる部下の勢いを少し鎮めてやるのだった。
「仮説は今のところ事実ではない。だが真実の確立は高そうだ、その方向で明日から一つ一つ確かめて行こう」と。
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