第2話
ウェインさんが俺のいる世界に興味を持って来てくるとは予想外だった。
「っていうか自由なんですね、ウェインさんって」
「すまない」
「一言で済ませちゃったよ」
「気になったのだ」
「もういいですよ、母さんと父さんは仕事だから家にいないけど、どう説明しよう…」
「それなら心配はいらない」
ウェインさんは安心してほしいと言うように左手を選手の宣誓のように胸の辺りまで上げて手のひらを見せた。
なんか英会話の大げさな演技をする外国人みたいだ。
不安になったので一応何が心配いらないのか聞いてみることにした。
「一体何が心配いらないんですか?もしかして俺の親が来る前に元の世界に帰るんですか?」
「そうではない。私の魔法の1つに記憶を改ざんできる洗脳魔法がある」
どうしよう犯罪の匂いがしてきた。
「それは絶対にやっちゃ駄目ですよ。帰ってください、お願いします」
僕は体育館に不良が乱入してきたのを止めるバスケ部員のように深々と頭を下げて帰ってくださいお願いしますと2回言った。
「すまんがすぐには帰れない。最低でも12時間は滞在しなければ戻れない」
「深夜4時半までいるんですか…学校の友達が来たってことでごまかすしか…いやでもマントとか胡散臭いし…」
「共に私がこの世界に違和感なくいられることを考えよう」
「ウェインさん」
「なんだ?」
「俺はこれでもかなり温厚なんでイライラさせないでください」
「すまない」
どうしよう…とりあえずまずは服装と設定からだよな。
俺は考えた設定をウェインさんに説明した。たぶんこの設定ならバレないだろうし、親にも電話しておこう。
「ウェインさんはとりあえずこの服に着替えてください」
俺は普段着の1つを貸した。
「この時代の服か?まあ、確かに時代に合わせなければならないからな」
とりあえず着替えさせたが、サイズはぴったりだった。
この鎧どうしよう?
「あのマントと鎧なんですけど、どこかに隠せないですか?」
「さすがにそれは出来ない」
「魔法でなんとかなりませんか?」
「わかった、やってみよう」
そういうとウェインさんは魔法を唱えて丸い異空間を作り出し、鎧やマントをその中に入れた。なんか便利な空間だな。
「ウェインさん」
「今度はなんだ?」
「ウェインさんもその中にはいれ…」
「るわけがないだろう」
ウェインさんに先に言われてしまった。
「なんで駄目なんですか?」
「この空間魔法の中には生きているものは入れない」
「そうですか、名案かと思ったのに…」
「そんなものは名案ではない、ただのわがままだ」
ウェインさんが何か上手いこと言ったみたいな空気を出しているのがうざかった。
「いいですか、ウェインさんは学校の友達…にしてはちょっと歳離れてるし…大学生の友達ってことにしておきますから聞かれたらそうだと言ってくださいね」
「大学生とはなんだ?」
ええと、どう説明すればいいのだろう?
っていうかウェインさん年いくつなんだろう?
「大学生は…ええと、俺みたいに学校に通う人ですよ」
「なりきるの難しいから冒険者という事でいいか?」
「えっ、それは…」
「冒険者はこの世界では難しいのか?」
「高い確率で変人に思われちゃいますね」
どうしよう、大学生がダメならアメリカの留学生…いや、外国の友達ってことにしておこう。
「そうか、変人か。それはなんか心外だな」
「俺がなんとかしますからウェインさんは合わせてくれればいいですか」
「わかった、まかせよう」
ウェインさん、なんでちょっと偉そうなんだろう。
俺は限られた時間でできるだけこの世界の事を教えたが、覚えられたことはこの世界はモンスターがいない事と学校と会社に通っているのが人間の常識であることと、パソコンを使えば世界中に繋がるとか服装はスーツとかウェインさんの来ている普段着だとかそういうことくらいしか教えられなかった。
「つまり冒険はしないのか?広い大陸なのに変な話だな」
ウェインさんはパソコンでネットの世界地図を見ながらそう言った。
「いえ、している暇があったら会社か学校行って帰りは家でで生活しています」
「退屈しないのか?」
「そりゃ、退屈は退屈ですけど冒険するとお金もかかるし、学校や会社に行けなくなると進学や就職に不利になりますから冒険なんて出来ませんよ」
「そんなものなのか」
「そんなもんです」
言うと俺はお腹がグゥーと鳴った。
そろそろ夕食の時間だ。でもコンビニで何か買ってきてないし、買いに行くにもウェインさんがいるから1人にする訳にもいかないし…どうしよう。
「腹が減ったのか?メイジゴブリンの干し肉があるが食べるか?」
「えっ?ゴブリンって食べれるんですか?」
「何を言っている。ゴブリンはあまりおいしくないがメイジゴブリンは別だ。肉も硬めでうまいぞ」
「それは意外でした。でも今はそんなこといいんです、重要じゃないんです」
「食べないのか?」
「コンビニで買ってきますからウェインさんが食べてください。元々ウェインさんのだし」
「コンビニ?なんだそれは?」
「えーと、ウェインさんの世界で言うところのショップ?みたいなところです」
「興味がある」
「行っちゃ駄目ですよ、そこで大人しくしててください」
「わかった」
なんだか親戚の子供と遊ぶみたいな感覚だなぁ。
俺はウェインさんを俺の部屋に置いて、外に出た。
こんなにコンビニで早く買い物を済ませたいと言う謎の焦りが生まれたのは初めてだった。
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