第11話

(人は義務と欲求でのみ行動する・・か)


(・・・)




ミサ「ねぇ・・」




(・・・)




ミサ「ねぇ、起きてる?」




(・・・)




ミサ「ねぇねぇ、起きてるー?」


「あーー、うるさいっ」


「起きてるってわかってるんだろーがっ」


ミサ「なんだか多陀君のことで色々考えこんじゃってるからさ」


「・・この関係のなんと不便なことか・・」


ミサ「不便なことばかりじゃないさ」


「不便しか感じない」


「でもやっぱりどうしても昼間のこと考えてしまってなぁ」


ミサ「ほう、というと?」


「お前さっき言ってたろ?」


「人は義務と欲求のみで行動するって」


ミサ「うん、そうだと思うよ」


「多陀もそうだったんだなと思って」


ミサ「ふむ・・」


「あいつ死のうとしてただろ?」


ミサ「うん」


「初めに屋上で見た時『なんであいつが?』って思った」


ミサ「たしかに言ってたね」


「俺からみたら友達も多いし、周りのやつと楽しそうにしてるし」


「なんの不満があるのかと思った」


ミサ「たしかに君から見たらまずそう思うだろうね」


「で、あいつの話聞いただろ?」


「父親がろくでもない奴で」


「母親とはすれ違いで兄弟もいなくて家では一人ぼっちで」


「だから学校に居場所が欲しかった」


「それで周りと仲良くするために明るく振舞ってたって」


ミサ「多陀君もがんばってたんだね」


「あいつはそうやってがんばったけど」


「心底仲良くなれるやつがいなかったんだよ」


ミサ「多陀君自分でもそんなこと言ってたね」


「そう、自分は自分のために周りの人と一緒にいて」


「周りの人も自分のために一緒にいるだけだっていうようなこと言ってただろ」


ミサ「うん」


「本当にそれで割り切ってたら死ぬ必要なんてないはずじゃないか?」


ミサ「そうかもしれないけど・・」


「そう、それなんだよ。『けど』なんだよ」


「結局耐えきれなかったから死のうとしたんだよ」


「本当は一人だってことに結局耐えきれなかった」


「耐えるために割り切ってると自分で思うようにしてたけど」


「無理だったってことだろ?」


ミサ「そうだね」


「ってことはだ。あいつが本当に欲しかったものは」


「今あるものじゃなかったってことだよな?」


「表現が微妙か・・」


「あいつが本当に欲しかったのは今ある形じゃなかったってことだよな?」


ミサ「少なくとも現状で死を選ぼうとしたんだからそうなるよね」


「具体的にはわからないけど・・」


「あいつ本人も具体的にはわかってないのかもしれないけど・・」


「損得抜きで自分といてくれるやつが欲しかったんだろうな」


「そんなやつに自分のことわかってほしかったんだろうなって思った」


ミサ「そうだろうけど・・」


ミサ「それは多かれ少なかれ誰にでもあるものなんじゃないか?」


「そうだと思う。でもあいつの求める力が強すぎたんだろうな・・」


「誰よりも寂しかったからがんばったのに」


「がんばればがんばるほど自分が欲しいものから遠ざかったのかもな・・」


「たしかにお前の言う通り人は行動する理由の一つは欲求だよ」


ミサ「・・・」


「あいつは自分のことがわかって欲しかった」


「でも無理だと思った」


「それで諦めた」


「駄目だと思って、諦めて」


「いっそ楽になりたいと思ったんだろ」


ミサ「多陀君の心の動きはそれだけじゃなかったのは君も気づいてるよね」


「そう、楽になりたいと思いながら助かりたいとも思ってたよな」


ミサ「君もあの時彼に『自分で気づいてるのか?』って言ってたよね」


「そうなんだ」


「それでお前が言った事で思ったことがあるんだ」


ミサ「言ってみて」


「結局人は『こうしたい』とか『こうされたい』と思って行動してるんだって」


ミサ「ふむ・・」


「そしてそれはすごく自己中心的なんじゃないかって」


ミサ「たしかに、君が取り上げた話だけをみればそう思えるね」


ミサ「僕が言ったこともそう受け取れるし」


ミサ「ただ」


ミサ「人が人との関係の中でとる行動は必ずしもそうであるとは限らないと思うよ」


「・・・」


ミサ「たしかにその行動が欲求によるものだとしても・・ね」


ミサ「だから僕は人のこと嫌いじゃないと言ったんだよ」


「なんか・・難しいな・・」


ミサ「難しいかな?」


ミサ「君はもう理解の一歩手前まで来てる」


「・・・」


ミサ「僕と話し合ったことでね」


「・・・」


「ってお前!」


「だから俺の考えてることわかってるのに」


「わざと話させたんだなっ?」


ミサ「えへへ、どうでしょうね~」

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