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『壁のスクリーンを見てね』
という文字を認識する前に、半分溜息のような変な声を出してしまった気がする。生きてい……る? そうだ、仮想箱の中で、記憶が確かなら身構える間もなく――
壁のスクリーンを見る、とは一旦ヘッドセットを外してという意味だ。やっと理解と処理に頭が回り始めた。主観ではないとは言え強烈な体験あるいは視覚体験によって妙に強い反動に襲われた。夢を見ていて大変な目にあって飛び起きるよりもずしりと重い。指示通りヘッドセット外し、片手で椅子に少し体重を預けたままスクリーンを見ると、
『ここでは人生最後の瞬間を疑似体験できるよ』
真っ黒なスクリーンに味気無い真っ白のゴシック文字が表示されている。
『あと少しの時間で世界が滅んでしまうとしたら、あなたはどんなことを考える?』
『最初に体験してもらった通り、痛みは全く無いので安心してね』
文章はそう続いていた。なるほど、そういう仮想箱だそうだ。
「……うーん」
はいそうですかと素直に思えない自分が考えすぎなのかどうか、まだ分からない。一つ前の箱のことを思い出して私は判断を待った。あれにも“説明書き”があり、そしてこの時代の人々をターゲットにして作られた“流行りもの”の箱であることが共通している。少しフレンドリーな白いゴシック文字が仮想箱の製作者のものであるかを読み解こうとしたけれど、やっぱりまだ情報が足りない。次は『20分』が選べるのだろう。もう一度入ってみよう。
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