第3話「猫はうれしい生き物だ」生きてるだけでね…。
人間、やれと言われたからといって、確実にしおおせるかはわからないものである。
それが…
うちの猫である。
仔猫の時にペットショップから買ってきた。
あまりにも愛らしく、そりゃあ愛おしかったので(当時、飼い猫を失ったばかりだった)まるで幼子に話しかけるように、毎日のように言いきかせていた。
おまえは可愛いから、お外で知らない人になついちゃだめよ。連れて行かれてしまう。
特に! 特に子供には気をつけなさい。中でも男の子は石を投げたり、乱暴だからすぐに逃げなさい。
と…
知らない男の方はお気を悪くするかもしれないが、わたくしは自分の猫を失いたくないがために必死であった。
が…この子がえらく端正な顔立ちをしているばかりか、人の言葉がわかるらしいとすぐに気づいた。
ペットショップの猫は違うな、と思った。
そして十数年の時がすぎ…我が家に妹の子供がやってくる時が来たのである。
甥っ子は可愛い声でわたくしを「ねえね」とよばる。
が、今は老猫の様子がおかしい。
甥っ子の声を聞くなり、部屋のすみっこへ。
さらに、足音をきくとそわそわして、押し入れの中に引きこもってしまったのである。
これが実にまるまる三年、続いた。
もう一人の甥っ子がやってくるまで。
こりゃあ、うちの猫の記憶力ったらない…と、その頭の良さに脱帽した。
話しかけると確かに神妙な顔つきで聞いているようなので、ますますもってペットにしておくのがもったいない!
もっと話しかければよかった。
…ネタになったのに!
今では二番目の甥っ子くんにだけ、体を触らせるので、おやと思っていたら、そのうち一番目の甥っ子くんにも、迷惑そうだがお腹あたりをなでさせるくらいには、落ち着くようになった。
かわいい。
当時の仔猫に対する煩悩日記をつけていたので、いるときが来るかもしれない。
今年十四年になる老猫が、いまだ赤ちゃんのような顔をしてわたくしの横に侍るのをなんとしても、記録しておきたい。
この子がいたら、煩悩なんぞあとからあとから、わいてくる。
ネタが尽きない。
猫はうれしい生き物だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます