~華葬~骨ってこんな味だったかしら?

れなれな(水木レナ)

第一話「なぜ気づかない!?」ずーっとおかしかった、あの日…。

私と王子様


書式を統一せねばならないけれど、WEB文書にはWEB仕様があるのではないかと思うので、ヒトマス空けはしません。


これは、わたくしと、ペットショップの王子様との出会いと、さよならの歴史……。


わたくしは幼いころから、虫や鳥、犬や猫などと親しみがあった。

家が貧しかったので、両親は共働きだったし、礼儀なるものは自分で学んできたが、まだまだ未熟だ。変なところがあったら、教えていただけると助かります。


王子様の名前は大和(やまと)と言います。

父が「宇宙戦艦ヤマトのヤマトだ」と言いますが、わたくしは「大和猛尊」の大和のつもりでいました。ええ、王子様ですから。

その出会いは、わたくしから思い切ったアプローチをして始まった。

実はわたくし、ペットショップで値札を見たことがない。冗談ではなく、買うつもりが全くなかった。


今は先輩にあたるが、幼馴染の娘が、「ヒヨコを縁日で買ってもらった」とか「ハムスターを買ってもらった」と言いながら、「三日で死んだ」「一週間も持たなかった」という話だったので、小さい生き物はわたくしには飼うのが難しかろう、と思い込んでいたのだ。


そのわたくしが、ためたお金をぱんぱんに財布に詰めて、「ニャンコ」を買いに行った。

もとが貧乏人であるから、感触はおよろしくなかった。



「フシャー!」



と、彼はわたくしを見るなり威嚇した。

いきなりのツンデレのツンをくらったが、めげない。なにせ、わたくしは彼の飼い猫としての生を買いとるつもりで来たのだから。


彼はアメリカンショートヘア―の雄で、血統書付きだった。値札には五という数字にゼロが四つついている。予想より安価だ。

しかし他に売っている猫はいなかった。つまり彼は「売れ残り」になりかけていたのだ。

目鼻立ちはよろしく、瞳は緑。グレーと黒いタビ―のうつくしい猫だった。


いらいらと檻の中をうろうろする姿は、気性の荒さを感じさせたが、なぜだかはわかっていた。

わたくしが、病院で死なせた猫の匂いをつけていたからだ。少なくとも、後の彼の態度の変化でそれは明確になる。



「ペットショップで買うのは初めてなんです……与えている餌と分量を教えてください、あとトイレはどこに置けばいいですか?」



しつこくしつこく尋ねて、そのショップで扱ってきた餌をあるだけ買いこみ、ペットシーツなるものの存在を知り、彼が遊んでいたオモチャを買い、首輪とドラえもんの絵皿二つをサービスしてもらった。


ペットショップで扱うには少々大き目な気もする彼だったが、血統書にはグランドチャンピオンの孫、とあった。


心苦しい。


わたくしがいくら望んでも、彼の子供には逢えないのだ。


前に飼っていた猫は、去勢しなかったばかりに、非常なドラ猫に育ってしまい、なわばりを守って向こう傷をいくつも作って、ウイルス性の病気にかかってしまい、死んだ。

よって、わたくしは彼を去勢し、野良猫との血縁関係を結ばないようにするつもりだった。

あそこまで育っていたのだから、必要のないであろう保険までかけて、結局売値の倍の値で手に入れた。



この子がませた子でね。

去勢したら、瞳に光を映さなくなって、



「増えなきゃいいんだろ」



と、ちょっぴりぐれていた。


そのくせ、



「決めた、お前をオンナにする」



とか言うから、「はあ?」である。


彼が言うには、相手に気づかれないように背後から近づくのが肝心だそうで、わかってしまったら、ダメなんだそう。


で、なにをするのかと思えば、無防備に寝転がるわたくしの足と腰を揉んでくれるのである。


そりゃ、猫にとってはいい気もちなところだし、実際気持ちは良いけれど、しばらくわたくしは、



「この子は足腰を揉んでくれる希にみる子」



と言って回っていた。そしたら、彼は揉んでくれなくなった。年もあるだろう。一生懸命にわたくしの腰を揉む姿は必死。のどをゴロゴロいわせながら一心に揉んでくれる。疲れて帰って来た時などは本当に助かった。


それが勘違いから来た行為だとしても。


でもまあ、遊ぶのは好きなようで、以前、わたくしの飼っていた猫が、妹の拾ってきた鳩を喰ってしまった弱みで、彼を譲ったところ、床に立たせる起き上がりこぼしのバネ人形を、激しい猫パンチで破壊していた。


見かけは大き目でも、まだまだ子供と踏んで、わたくしは彼と鬼ごっこをして遊んだ。


どうやるかというと、彼がやってくる畳の部屋の布団にもぐりこみ、指で掛け布団をつついてもこもこ動かしたり、隙間から彼の視界に入るように指をちょこちょこ出してはうごめかせた。


彼はその遊びを飲みこみ、わたくしの指にタッチしたら、ヒットアンドアウェイでささっと身をかわすようになった。

わたくしも腕を伸ばして彼の肩にタッチして、布団にもぐる。それをくり返した。


彼は死ぬまでその遊びを憶えていた。


わたくしが、あまりにも彼を放っておいて、PCなどをいじっていると、ぽん、と腕にタッチしてきて、

「今度は追いかけてきて……?」

というしぐさをする。

ヒットアンドアウェイ。


わたくしと彼にだけわかるお遊びだった。

彼がいなくなった今、本当にあれだけが、彼とわたくしの絆と言えた。


死にゆく彼に、わたくしはひどいことを言った。



「おまえの命はわたくしのもの。生きろ」



それだけにとどまらず、



「あったり前の日常を、あったり前に生きて、それが終わるなら、知らないうちが良い」

つまり、いつまでもそばにいて、死すら何も告げずに逝けと……わたくしは命じた。

それから、彼は何も言わなくなった。

ただ一人で苦しみに耐えていた。

わたくしがそばにいる間は体を立てなおし、

独りになると、トイレに倒れこんだり、ドアの真ん前に横たわっていたりした。


すべて、わたくしが生きろと命じたがため。



「苦しかった」



聞こえてくるようなのは、彼の魂がこの世にまだ、とどまっているのだろうか?



「わるかった」


「謝られるとつらい」



じゃあどう言えばいいのか、わからない。



「ありがとう」



と言ってみたらば、



「それでいい」



と王子らしく応えてくれた。


彼は十八日の今日、友引明けの斎場に運ばれていった。本当は立ち会うつもりでいたが、場所が遠いため、かなわなかった。

白い薔薇を手向けたかったが、扱っている店はない。多分注文を受けてから仕入れる仕組みなのだろう。


かわりに十四本のカスミソウを入手した。

十四年、側にいてくれたからだ。


段ボールの中の顔も姿も見えなくなるくらい、花を敷き詰め、覆ってやった。


火葬にするときは、ダンボールはけし炭が黒々として汚すので取り去る、といわれた。

それでも、中に入れたわたくしの写真と女神の髪かざりを一緒に焼いてくれると言ってくれた。


今はもう。


明日お骨が届くのを待つしかないのだ。

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