ガラス越しの夜

水上 遥

プロローグ

 どこまでも、どこまでも。


 まるで、ガラスを砕いて、ばら撒いたような星空が続いている。


 それらは、今にもシャラシャラと、楽しそうに歌いだしそうだった。


 振り返れば、遠くの方に、あたし達が住んでいる街が見える。


 ぼうっと淡くオレンジに光るそれはまるで、真っ暗な稲穂の海に浮かぶ、光の島だった。


 遠くの山脈からやってきた風が何かを通り抜けて。


 りゅーりゅーと鳴きながら、あたしの前髪を揺らす。


 その鳴き声に怯えたのか、虫達が、少し声を潜めて、それでも内緒話を続ける。


 目の前にはどこまでも、どこまでも続く一本の道。


 その道のずうっと、ずうっと先には、海がある。


 この道の、終わりの場所。


 ここでは聞こえるはずもない、波の音が。


 りゅーりゅーと鳴く風とは別の風に乗って、聞こえる気がする。


 どこまでも、どこまでも。


 まるで、御伽噺にでも出てきそうな、そんな夜。


 そんな、ロマンチック過ぎて、胸焼けして、吐き気を催しそうな、夜の中。


 彼は、あたしの死体を背負って、海を目指していた。

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