第9話 少女と魔法のこと
無事に洞穴に到着する。その際少女は、
「ここにこのような場所があるとは。でも、ここなら難を逃れそうですね」
と、納得した様子であった。だが洞穴の中に入り、奥へ進むに連れて少女の気配が萎縮していくのがわかった。
何せ、入口付近はただの洞穴なのだが、少し進めば幅は狭く急だがしっかりとした階段が現れたからだ。少女は最初遺跡か何かだと思っていたようだが、段々と遺跡とは性質の異なる場所であることを肌で感じ取ったらしく、徐々に固くなっていった。
そんなこんなで地下エントランスまで下りてきた頃には、少女の表情は青ざめたものになっていた。どうやら困惑している様子である。それは僕が地上に出てきたときの反応に酷似していた。
そんな少女をよそに、僕はバルブ付きの重厚な扉を開ける。そして僕は躊躇なく中に入っていき、少女はオロオロと躊躇ったのち、慌てて僕のあとを追いかけてきた。
入ってすぐの工房のような研究室は、足の踏み場もないくらい物が散乱しているので、僕は少女が怪我をしないよう時々手を貸しながら慎重に進み、隣の部屋へ。つけっぱなしのランタンに照らされた倉庫のような部屋に辿り着く。ここには当然変わらない姿で防音室型のタイムマシンが鎮座している。
草原の地下に広がる人工の空間に、少女はキョロキョロと辺りを見渡すばかりだった。それをよそに、僕はタイムマシンの中からキャンプ用の折りたたみ椅子を取り出す。
「どうぞ。こちらにかけて」
広げた椅子に座るよう促すと、少女はぎこちない反応をしつつ「し、失礼します」と断ってから座った。流石に複数椅子があるわけではない――母の想定では僕一人であったはず――ので、僕はいっぱいにペットボトルが詰まったダンボールを持ち出して椅子の代わりにした。
「えっと、その反応を見ると、お互い聞きたいことが山ほどあるようだね」
向かい合うように座った僕たちの間には、重たい空気が横たわっている。それは何も風通しのない埃っぽい地下だからということではなく、一緒に逃げてきたにも関わらず、互いに互いのことが一切わからない状況であるのが原因であった。
「その、まず順番に、僕からいろいろ聞いてもいいかな」
「はい。どうぞ」
互いにやや緊張した面持ちで事情聴取が始まる。
「まず、名前を教えてくれないか? その、あなたのことをなんて呼べばいいのかわからないので。……っと、人に名前を尋ねる前に、僕が名乗らなければね。僕は
どんな状況であれ、ますは自己紹介から始めるべきだろう。
「はい。それでは総介さんで。その……総介さん、驚かないでくださいね。私は、ラシュトイア・ビアウザ・ムルピエと申します」
ラ、ラシュトイア・ビア……えっと、なんだっけ? 一応聞き取れはしたが、聞きなれない名前であったので、すんなり飲み込むことができなかった。
取り敢えず最初の名前は聞き取れたので、ラシュトイアさんと呼ぶことにしようかと思ったが、ここは未知の土地であり、恐らく東京とは異なる価値観の場所である。ラシュトイアさんと呼んで失礼に値しないか気になってしまった。
一応三つに区切られているようでなので、ファーストネーム、ミドルネーム、ラストネームと分けられているようだが、その区分が僕の知る人名の構成と同一であるとは限らない。見当違いの名前を連呼するのもそれはそれで失礼だろう。はて、どうしたものか。
「あの、私の名前を聞いて、驚かないのですか?」
僕が黙考していると、ラシュトイアさんが躊躇いがちに尋ねてきた。いつの間にか下がった視線をラシュトイアさんに向け直すと、彼女はモジモジと落ち着かない様子だった。
「えっと、どういうこと?」
「いえ、名前を聞いても無反応でしたので……」
ラシュトイアさんはより一層縮こまりながら僕を見つめてくる。どうやら少女の名前には何かしらの意味があるようだが、名前を全て飲み込めていない僕としては、その意味は皆目見当がつかなかった。
「ごめんなさい。この土地に疎いもので、ここの人の名前がどのようなものなのか把握していません。もしかして、とても有名な方ですか?」
名前の意味と言われると、即座に出てくるのが、その人の身分であった。僕はそれとなく聞いてみる。するとラシュトイアさんは小さく口を開け、
「……この国の、ムルピエ王国の王女です」
と躊躇いがちに囁いた。まるで誰かに聞かれるのがまずいかのように。
だが合点はいった。確かに王女の名前であれば驚かざるを得ないし、賊の襲撃の対象になるわけも説明できる。なるほど、現状では確かにそのような態度で名乗らなければならないな。
しかし僕としてはこの国の規模がわからないので、どのくらい偉いのか見当をつけることができなかった。いや、まあ、偉いことには変わりないのだけれども。
そんなことを思ってしまったため、僕は驚くタイミングを見事に逃してしまった。
「えっと……それでは、なんて呼べばいいですかね? 王女? 姫様? それとも……殿下?」
先程呼称の問題に悩んだが、事態は僕が想定していた以上にややこしいものであった。相手が高貴な身分、それもこの国のトップクラスとなれば、気安く名前を呼ぶことはできない。だが見方を変えれば、相手を名前で呼ばなくてもいいということなので、これはこれで僥倖なのかもしれなかった。
「よくラシュトイア王女と呼ばれています。ですが、お好きにお呼びくださって構いません」
お好きにどうぞと言われましても、それは事実上ラシュトイア王女と呼べと言っているようなものであった。まあそれに関してはとくに異論はないので、それに倣うとしよう。
「それではラシュトイア王女。その、今一番気になっていることなのですが、さっきまではお互いの言葉が全く通じなかったですけど、どうして急に通じるようになったのですか?」
目下最大の疑問はそれであった。出会った当初は意思疎通の見込みがなかったのに、手のひらを返したかのように流暢な日本語を話し始めた。これが謎でなくて何を謎というのか。先程「少々小細工」と言った奇怪な行動が何か関係しているのだろうけど、それならば、一体ラシュトイア王女にはどんな力が宿っているのだろうか。まさか都合よく魔法とか言い出すのではなかろう。
「それはですね、異国の方には珍しい形態かもしれませんが、これが我が国の魔法です」
魔法だった。
まさか本当に魔法と答えるとは思ってもいなかったので、僕は反応に困った。
「ま、魔法ですか。その、それはどのようなもので?」
だが僕は無理やり思考を働かせ、会話をつなげる。流石に魔法ですと言われて万事解決するわけではない。
「はい。我が国の魔法は、他国とは形式が異なりまして、現象を引き起こすというわけではなく、現象を再現するというものなのです。『現象保存』が、私たちの魔法の理念なのです」
「『現象保存』、ですか」
まだ話の全容が見えてこないので、おうむ返しに受け答えするしかできなかった。
「はい。他国の魔法は、自然界と同調することでその加護を受けたり、個人の魔力で現実を故意に歪めたりして発動させるようですが、我が国の魔法はそのようなものではありません。魔法単体で現実を変質させることはできないのです」
ラシュトイア王女はそう言いながら袖口から何かを取り出した。それは先程閃光を放った札と同一のもののようだ。僕は僅かに警戒した。いやだって、またピカッとされたらたまったものじゃないし。
けれどそれは杞憂であり、ラシュトイア王女はそれを使うことはなく、話を続ける。
「我が国の魔法は、対象の現象をこの魔符と呼ばれるカードの中に記録させ、そしてこの魔符を使うときにその現象が再現されるのです。つまり他国の魔法とは違い、魔法によって現象を引き起こす場合、その前にその現象を記録するという手順が必要となるのです」
僕のわかる概念で例えるならば、音楽などを録音するCDのようなものなのだろうか。実際は歌手や楽器を揃えて奏でなければ音楽を楽しむことはできないが、一度レコーディングし、それを再生する機材があれば、実際に歌手や楽器を用意しなくともその音楽を楽しむことができるのと同じだろう。逆に、手軽に音楽を楽しむのであれば、それを録音するという手間がかかるということなのだ。
「えっと、つまり、解読や翻訳的な効果をそのカードに記録させ、それを使ってこうして会話できるようにした、ってことか?」
ラシュトイア王女の説明と僕の理解から察するに、この現象はそういう解釈になる。
「はい、その通りです。私が先程地上で使ったのは、古代の文字や異国の言葉など、我々の使うものとは異なる言語を解読したという結果を魔法で保存したものです」
「でもそれだと、既存の言語は解読できても、未知の言語は意味がわからないままなのでは? その、未だに魔法の形態がよくわからないからうまく理解できてないだけかもしれないが、言語を解読したということを現象保存したカードを使っても、その一度解読をした言語を再び解読するときにその手順を短縮できるだけであって、それ以外の言語には対応できないのではと思ったけど」
「フフフ。そこがこの魔法が特異である部分です」
僕の疑問を聞いたラシュトイア王女は、その反応を楽しむかのように微笑んだ。そして少し誇らしげに解説し始める。
「これは捉え方の問題ですが、先程の魔符は『未知の言語の解読』という現象を保存しましたが、その保存の中核は『解読したという結果』です。これが『特定の言語』や『解読の過程』が保存の中核ならば、あなたがおっしゃったように既存の言語にしか効果がありません。しかし保存の中核が結果となると、その限りではありません。言語を解読したという事実が、そのまま再現されるのです。よって未知の言語でも、解読したという結果が再現されるため、こうして効果が発揮されるのです」
う、うん……。言っていることがいまいちわからないが、現象保存時の解釈の仕方で魔法の効果が変わっていくようなものなのか? なんというか、法の隙間を縫うように、魔法の法則の隙間を縫っているような感じだ。
「な、なるほど。なんとなくだが、理解した」
正直、魔法なるものがどのような理屈で成り立っているのかは不明だが、その部分はきっと説明されても理解できないだろう。現代科学――今の状況では現代ではないけど――は日常に浸透しているが、誰も作用している物理法則を正確に説明できないのと同じで、そういうものであると解釈するしかないだろう。今後魔法に関してはノータッチで、必要な場合はラシュトイア王女の見解を仰ぐことにしよう。
大分ざっくりと魔法の説明を受け、現在僕とラシュトイア王女が会話しているからくりをようやく把握した。それにより、出会った当初ラシュトイア王女がなんと言っていたのかがわかった。
翻訳すると、
『あなたはどこの誰ですか』
『ん? なんと言いましたか?』
『もしかしてあなたは異国の人ですか? でも……、どうして異国の人がこのような場所にいるのでしょう。ここは国の端なのに』
『そうだ! 確か調査のため翻訳の魔符があったはず。殆どは臣下に預けてしまいましたが、念のためいくつか自分で持つようにしたのでした。文字に使う魔符ですが、理屈上人に使えないことはないはずです』
というものだった。
「調査って、何の?」
ここでラシュトイア王女が気になることを言っていたので、僕は詳細を尋ねた。
「実はこの地方は、大昔地底人がいたと言われていまして、地底人が住んでいたと思われる地下迷宮が存在します。それもかなり広大な地下空間があるのです。しかし詳細を記す歴史資料は、残念ながら当時の地底人との争いの中で消失してしまいました。そのため、定期的に調査が行われているのです。ですが、あまりにも広く複雑な構造のため、調査は芳しくありませんでした。しかしここ数年諸事情により王族の、いえ、王国の趨勢にかつての地底人が関わってきてしまったのです。そのため、渦中であるこの私自らが、調査隊を率いて難航している調査に挑んだのです」
「そして、日が落ちて今日の調査を打ち切ったところ、その帰り道で賊の襲撃を受けた、と」
「……お恥ずかしながら」
なんだか、事態はかなりややこしいことになっているらしい。最初賊に襲われたと聞いて、どうせ金品目当てだろう思い込んだが、話を聞く限りそうではないようだ。何者かによる調査の妨害工作、そして王女暗殺。その何者かは明白で、恐らく王女の調査を快く思っていない派閥か何かであろう。
そしてラシュトイア王女自身、その何者かが誰で何の目的があるのか把握しているようである。なんせ地上で言葉を交わしたときに、ラシュトイア王女自らが賊の目的は自分だと言ったのだから。これは自身が特定の誰かに暗殺されることを懸念していないと出てこない言葉だろう。
いくら王女を助けたといっても、流石に部外者である僕が内政に首を突っ込むわけにはいかない。早々にこの話題を打ち切り、夜が明けたらしかるべき組織にラシュトイア王女を引き渡すのが最善であろう。
しかし一つだけ疑問が残った。
「聞きたいのですが、どうして得体の知れない僕を信用して助けを求めたのですか?」
派閥争いをしている最中に、賊を装った刺客まで送られてきたこの状況下では、身元がはっきりしている家来以外は信用に値しないはず。もしあのとき、ラシュトイア王女一人ではなく近衛兵や側近が傍に控えていたならば、僕は間違いなく斬り殺されていた立場である。それなのにどうして王女は僕を信用したのだろう?
「それは、あなたが異国の言葉を話していたのと、あなたのその反応です。もし私でない何者かが先にあなたに接触して襲撃するよう雇ったとしても、その過程で必ず私がしたように魔法を使って意思疎通をしなければなりません。しかしながら私が魔法を行使したその瞬間、あなたはその光景に心底驚いた様子でした。演技だとしても、あそこまでの驚きようは、しようと思ってもできないでしょう。よって私は、あなたは何者とも繋がりのない者だと判断をしました。それに、その上品な身なりを見て、とても賊とは思えなかったのです」
ラシュトイア王女の判断基準になんとか納得しつつ、僕は指摘された自身の服を見た。学校の制服のままタイムマシンに乗り込んだので、当然今も学生服のままである。地上を彷徨ったため少々汚れがついてしまったが、そこまで見栄えは悪くなかった。
「その服は、我が国の騎士団の制服に似ています。あなたがどこの国の方かは存じ上げませんが、不埒な者が着るような服ではないので、すっかり信用してしまいました」
今まで服装などの見た目を褒められたことがあまりない僕としては、そう言われるとなんだか居心地が悪い。僕はやや照れながら会話をつなげる。
「その、僕の服は単なる学校の制服なのですが、この服がこの国の騎士団の制服と似ているなんて、なんだか面白い偶然ですね」
騎士と聞くとどうしても甲冑を連想してしまうし、軍隊だったとしても迷彩服を思い浮かべてしまう。僕が着ているブレザースタイルの制服と軍服とでは、纏う雰囲気がまるで違うと思うのだけれども。
そんな僕の心情を見透かしたかのようにラシュトイア王女は、
「騎士は皆魔符が支給されていまして、攻撃されても全て防御魔法で対処しますので、攻撃を防ぐのに防具の類は必要としないのです。その分身軽に、というのが我が国の伝統なのです」
と説明した。それはとても理にかなった方針である。
魔法。その技術は当然軍事目的で発展しているようだ。
「王女と会う前、草原で戦闘を見ました。きっと王女の騎士と賊との戦闘だと思われますが、騎士の人たちが手先から火を出したり氷を出したりして応戦していました。あれが魔法なのですか?」
「はい、そうです。火をおこすことは容易いですが、それが魔法により急に目の前に出現したら、それは武器として十分効果を発揮します。氷も同じで、洞窟で氷柱が落ちてくれば危険ですが、何もない場所で死角から氷柱が落下してくれば、それは危険を通り越して脅威になります。その他にも、剣などの通常武器や獣などの動物兵器も、全て魔符に記録されているものを再現しています。魔符による装備品の省略は我が国の誇りです」
自国の自慢をする王女ほど喜色満面な人はいないだろう。何せ自身の存在そのものが国宝なのだから。実に幸せそうである。
「ではそろそろ、総介さんのことを伺ってもよろしいですか?」
ラシュトイア王女は自分のことを話し、僕はそれを興味津々に聞いていたので、王女の警戒心は霧散してしまったようだ。爆発音を耳にしたときの険しい表情はもうどこにもなく、今では年相応に愛らしく相好を崩している。
そういえば、王女の年齢はいくつなのだろう。僕は十六歳だけど、同級生の女子と比べると年下であるように見える。そのあたりのことは、機会があればそれとなく探りを入れてみよう。
そんな少女の純粋無垢な眼差しを向けられると、僕も正直に話さなければならないような気がした。なので、僕は嘘偽りなく身分を明かした。
「僕は、実は過去から来ました」
言ってみたものの、その言葉によりこの場の空気が凍った。同時にラシュトイア王女も凍った。うん、美少女の笑みは例え凍りついて固まったとしても、可憐さは失われないようだ。
数瞬過ぎたのち、
「あ、ああ! カコですね。いけない私てっきり過去、現在、未来の過去だと思ってしまいました。総介さんはカコというお国の出身でしたか」
固まった空気は動き出し、ラシュトイア王女も更なる笑みを浮かべるが、その根底は盛大な勘違いであった。
僕は思わずこめかみに手をやり、唸り声を上げながら視線が下がった。
「どうかされましたか?」
「いや……なんでもないです」
僕の反応にラシュトイア王女は小首をかしげて尋ねたが、僕は王女の勘違いを修正する気力が出てこなかったので、適当な言葉で返した。
まあ一応僕は真実を話しているわけだし、その話を受け手が違う解釈をしていても、それは僕の責任ではないはず。理解の修正をするためには、きっと僕の住んでいた東京のことを事細かに説明するところから始めなくてはならなく、非常に労力を消費する上に情報量が多すぎて理解させるのは難しいだろう。であるなら、既に相手にある概念に沿った解釈でいいのではないだろうか。現に僕は、現象を保存する魔法のことをCDに例えて理解したのだし。
よって、僕はカコという国のトシマという領地のゾウシガヤという街出身の旅人ということになった。果たしていいのだろうか、これで。
その後国のこととか家族のこととか聞かれ、一応素直に答えた。それが僕の意図した通りに解釈してくれたのかは謎だが、ラシュトイア王女はとくに不審がることもなく話を聞いてくれた。ちなみに母とトワのことはかなりオブラートに包んで話した。
そんなこんなで、ラシュトイア王女は僕の素性に納得してくれたみたいだ。
「無事に生還しましたら、晩餐会を開いて旅のお話やお国のお話を詳しくお聞かせください。一国の王女の命を助けたとして、本来なら王城にお招きしてお礼しなければなりませんが、あいにく急務にてこの地方にいる身、王城までご案内するのが難しいのが現状。ですがご安心してください。元々この地方は王立の図書館があった王家縁の地。王族が所有している別邸がございまして、今もその別邸を拠点に調査活動を行っております。生還後別邸にて盛大に晩餐会を開きましょう」
「い、いえ、僕はそこまでしてもらうような人間ではないので、お気遣い無く」
「何を言いますか。総介さんは私の命の恩人なのですよ。私一人でしたら、このような退避に最適な場所を見つけられずに賊の手にかかっていました。あなたがいらっしゃったからこそ、こうして安心して身を潜められるのです。ご自身を過度に卑下するのはいただけません」
僕の謙遜の言葉は逆に王女に火をつけたらしく、ラシュトイア王女はやや興奮気味に僕に迫った。なんだろう、生粋の日本人である僕は遠慮したつもりだったけど、この国の王女にはそう映らなかったようである。
でも、それもわからなくもない。ここは最早日本とは異なる場所なので、文化自体が異なるのである。そして文化が違えば、当然人間性も異なるのだ。この国がどのような文化をしているのかはわからないが、異文化であることには変わりないので、そのあたりは気を遣った方がいいのかもしれなかった。ここは日本じゃない、外国だ。そう認識しよう。
取り敢えず、大勢の人に注目されることが苦手なことと、豪勢な食事に慣れていないということをやんわりと伝えた結果、こぢんまりした晩餐にするという方向で話はまとまった。
あと関係ないが、興奮したラシュトイア王女の表情は実に愛らしく、「萌えとは何か」と問われればこれですと答えてしまいそうなくらい惹きつけられるものであった。高貴な人は、どんな表情をしても生まれ持った気品さが滲み出るようである。
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