(2)
今日もゆうは机に参考書や問題集を重ね、ノートにひたすらペンを走らせていた。もうかれこれ2時間以上はぶっ続けで勉強を続けている。だがこれがゆうの勉強ペースだった。集中が続けばいくらでもゆうは問題を解き、単語やら文法やら歴史を記憶していった。
そろそろ休憩すれば、と最初の頃は口を挟む事もあったがそれはゆうにとって必要なものではなく、むしろ邪魔でしかないと気付いてからは何もしないように心掛けた。
「ふう」
ようやくペンを置いた所を確認し、涙はコーヒーとパンケーキをゆうに差し出した。
「順調?」
「うん。でもまだまだ。自分の力だけで勉強しなきゃいけないから大変だよ」
「無理だけはしないようにね」
「ありがとう。でも無理しなきゃ。いくらやっても時間が足りないぐらいだもん」
ゆうは今大学受験に向けての勉強に必死だった。自立という大きな目標を掲げた時、どうしても大学に進む必要がある。学歴がないと社会に出れないし、就職も出来ない。その為にはやはり勉強しなくてはいけない。
ゆうが必死になるのも当然だ。今彼が実際に何歳なのかを知らないのでおおよそでしかないが、だいたい今で高校生ぐらいだろうか。だが、ゆうはずっと学校に通っていない。義務教育ではないので高校に通う必要はないし、それまでゆう自身学校というものに抵抗感があったようだ。
何がきっかけになったかは分からない。そんなゆうの意識が変わり、今では毎日勉学に励んでいる。涙はそんなゆうを暖かく見守り、ゆうがここから無事に飛び立てる事を祈るようになった。
もちろん寂しさもある。ゆうが自分の生活からいなくなる。ゆうがどう思ってくれているかは分からないが、涙からすればゆうは家族同然の存在だった。だからこそ複雑な想いに駆られた。彼の幸せと、自分の悲しさ。天秤の上で二つの感情が絶妙なバランスをとっていた。
だがその頃、涙の中にはもう一つ別の感情がつきまとうようになっていた。
幸せを願う一方で膨らむ悲しさの中に、不穏な疑惑が混じり始めていた。
もし、もしも自分が感じているこの違和感、疑念が予想通りのものだったとしたら。
ゆうの幸せを考えた時、それがきっと大きな足枷になる。
まだ涙自身確証はない。だがもしそれが確信に変わる時が来たならば、はっきり言おう。涙はそう決めていた。
「大学、応援してるから」
今はただ、そう言うしかなかった。
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