藍城涙 Ⅲ
(1)
「そろそろ自立しなきゃって、思うんだ」
ゆうはいつでも唐突だ。一切の素振りも見せずにいきなり自分の決意を語る、そんな所があった。
今更それに驚きはしないが、さすがに自立という言葉には涙も驚きを隠せなかった。
「自立って、ここを出るって事?」
「うん」
ゆうの頷きに迷いはなかった。そうと決めたら迷いなく直進する。決意の固さが嫌でも伝わってきた。
その決意は喜ばしい事でもある。だが、それはあまりにも急な発言だった。
「でも……」
正直な不安が声となったが、ゆうの態度はぶれなかった。
「もちろん分かってるよ。今すぐには無理な事だし、もうしばらく涙さんには迷惑かけると思う。でもそろそろ考えないとなって」
その言葉に涙は少しほっとした。今すぐ出ていくなんて言われたらさすがに止めようと思ったが、ゆうはそんな愚かな子ではない。
「分かった。でもゆう君」
「何?」
「迷惑かけるなんて、そんな事気にしなくていいから。遠慮なんてしないで。出来る限りの事はしてあげるつもりだから」
「ありがとう」
ゆうは涙に礼を言い、置いていた本を再び手に取り読み始めた。
――自立か。
ゆうがここを出ていく。そんな日がいつか来る。そう思っていたが、いざゆうの口からそれを聞くとさすがに寂しさを感じた。でもそれはとてもいい事なのだ。それだけゆうが人間らしさを取り戻している証なのだ。
ゆうが涙の元で過ごすようになって、約3年が経過していた。
すっかり背も伸び、顔つきもかなり大人びてきた。
それでもまだまだ子供で、独り立ちさせるには不十分だと思っていた。だがそれは涙だけの勝手な思いだったのかもしれない。
そしてこの頃から、ゆうは明確な未来に向けて歩き始めた。
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