須藤健二 Ⅱ
(1)
礼服に身を包んでもまだ何もかもがしっくりとこなかった。
理沙から殺されたと聞いてからも、実は間違った情報でやっぱりガセだったって言葉が出てくる事をどこかで期待していた。しかしその後、別の級友からも同じ報せが入り、その次にはすぐに拓海の葬式の連絡が回ってきた。それでもまだ信じられないという気持ちが消えなかった。
だが、葬儀会場の仰々しい室内に置かれた棺の前で、あのはじけんばかりの笑顔が額縁に窮屈に閉じ込められているのを見て、健二はようやく石崎拓海が本当に死んでしまった事を実感した。
拓海。
常日頃つるむ程の仲というわけではなかったが、それでも幾度も会話を交わし、同じグラウンドを走り回り、同じゲームで遊んだりもした。友達と言って何ら差し支えない関係だった。
拓海の下には多くの人が訪れ彼の死を悼み弔った。やんちゃで元気で愉快な人柄が、これだけの人間を呼び集めたのだ。それは彼が築いてきた大きな財産だ。周囲に静かに流れるすすり泣きに健二の心痛は増し、拓海との思い出を胸に灯しながら彼の冥福を祈った。
なぜ。どうして。一体誰が。
犯人が捕まったという知らせまだない。
どうしてこんな事が起きてしまったのか、何故拓海は殺されたのか。
全てが意味不明だった。
「絶対許さねえ……」
その時、低くくぐもった恫喝するような声がふいに横から聞こえ、健二は合わせた手をそのままに声のするほうに目を向けた。
その男は合掌しながらも視線は拓海の遺影に向けられ、歯をくいしばりながら目元を真っ赤に晴らしていた。
「殺してやる……殺してやる……ぜってえ仇とってやっからな……」
そう言い終えると、男はすぐに会場を出ていった。
――風間……?
級友達が多く集まっているので、椚中学の者も多く参列していた。風間真一もその一人だ。そして拓海といつも行動を共にしていた男の一人だ。おそらく中学卒業以降も親交は続いていたのだろう。
殺してやる。仇を取る。
その言葉が拓海との当時から変わらない仲の深さを表していた。
犯人への感情が健二の中でも高まった。
級友の命を奪った犯人が一刻も早く捕まる事を、そしてこんな事がもう自分の周りで起きない事を心から願った。
だが、その僅か二週間後。そんな健二の想いをあざ笑うかのように、また一人犠牲者が現れた。
殺されたのは、拓海の仇を誓った、風間真一だった。
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