第94話 帝都決戦 後日談Ⅱ

帝国革命は無事終わり、革命軍の勝利で終わった。




革命が達成し、数日が過ぎた。


これは後日談、と言っていい何か。




僕等王国勇者及び帝国革命軍は無事帝都を幻想種及び操られていた帝国勇者、皇帝から奪還し勝利を収めた。




この事実が帝国での決定事項だ。




帝国勇者 九図ヶ原戒能 


     呂利根福寿


皇帝   バルカムリア・ダーバック


第一騎士団長 『堅牢』 グールス・ゴーガン


第二騎士団長 『炎深』 ファールクダ・クペタ


その他多くの貴族、帝国上層部。




人族は、多くの英雄的存在を失い、帝国内部並びに周辺国家でのその事実は民を絶望に傾ける。




僕から言ってしまえば、今回の革命は落第点も良いところだ。


はっきり言うと、後手後手に回ってしまった。




いくつかの準備をし、いくつかの道筋を整えてはいたけれど。


幻想種 幹部 ユニコリアによってその予定は大分崩されてしまった。




当初予定していたやりたいことも半分程度の達成具合だ。


結果としては僕のごり押しで誤魔化したに過ぎない。




上手く言った事と言えば、


鎌瀬山釜鳴という存在の英雄への昇格。


今回の革命において、帝国勇者・九図ヶ原戒能を打倒し、暴走した皇帝に止めを刺した立役者。




その偉業が、帝国内に伝わらない筈は無く、帝国全土において……否、人族にその偉業と鎌瀬山という英雄の名は知れ渡った。




そして、最も重要なのは鎌瀬山にとっての足枷、弱みを与えられた事だろう。




クルムンフェコニとニーナ。


その二人の少女は、鎌瀬山の中では自分の次に大切な者になり得たし、彼女たちの前では『勇者』で成らざるを得なくなった。


精神の成長も促せたし、彼にとっては大躍進だろう。




結果としては、予想通り。その点では目的は達成できた。




けれども、やはりそこまでの道筋に個人的にはちょっとした不愉快さを否めない。


……が、一先ず良しとしよう。


そのおかげで幾つかの拾い物も出来た事だし。








今、帝国はプラナリアを筆頭に人事再編を進めている。


……と言っても、帝国は元帝国及び革命軍どちらをとっても人手不足だ。




上層部に旧帝国、新帝国を織り交ぜざるを得ない状況にガーナックやプラナリアは多少困ってはいるそうだけど、そこからはもう彼女らの仕事だ。


それにこの混乱に乗じて種は既に蒔いてもある。






所々が破壊されてはいるが比較的損傷は少なかった帝国城。


それは、おそらくユニコリアの意志によるものだろう。


全てが終わったのちに、王座に座るべくなるべく損傷がないようにと気にしていた……が、彼女が王座に座ることはなかったけれどり




その帝国城から、僕は眼下の城下町を視界に入れる。




破壊の限りを尽くされ、まだ死者の回収すら追い付いていない。


それでも、人々の瞳は希望に満ちていた。




プラナリア・ユーズヘルムという新皇帝に、鎌瀬山釜鳴と言う新たな英雄の背中に希望を抱きながら。


平民も貴族も騎士も、その全てが一緒くたになって、新たな帝国に思いを馳せていた。




「こんなところに居やがったのか、太郎」




「あぁ、鎌瀬山か。おめでとう、これで晴れて君も英雄だね」




「っち。英雄に仕立て上げたのはてめぇだろうが。九図ヶ原を殺したのはてめぇだろうがよ」




「僕としてもね、君に殺してほしかったんだけど……君じゃあまだ倒せそうなほどパワーアップしてたから仕方なく、僕が幕引きさせてもらっただけだよ。でも安心するといい、九図ヶ原をあそこまで追い詰めたのは君の力だ」




僕の称賛の声に、鎌瀬山は不愉快そうに舌打ちをする。


そうして、僕に近づいてその胸倉を掴まれる。




「てめぇが何してたか知んねぇが、あんまふざけた事してんじゃねぇぞ。てめぇがも少し早く手を貸してりゃあ被害はもっと最小限で済んだ筈だ」




「……おや。君の口からそんな言葉が出るなんて予想外だよ鎌瀬山」




「茶化すんじゃねぇよ。てめぇが大丈夫だっつーからクル子とニーナをユーズヘルム領において革命に参加したんだ。俺はてめぇの言葉を信じたんだぞ?だが、結果はどうだ?二人は帝都に投げ出された」




「……」




「クル子や他のガキ共の多くは運よくエ―ゼルハルトが要塞化してる区域に着地した。他のガキ共もそこに辿り着けた。……だが、ニーナはどうなんだ?一回死んだんだぞ?俺の前で、一回殺されたんだぞ!?俺が九図ヶ原の野郎と一切の雑念無しに闘えるようにてめぇが裏方に居たんじゃねぇのかよ!?あぁ!?」




「鎌瀬山……君は」




「てめぇが初っ端から素直に参戦してりゃあこんな参事にはなってねぇだろ。……教えろや、てめぇが裏で何をしてたのかをよ。どんな大層なことをすりゃあこんな結果に……こんだけ帝国をボロボロに出来たのかをよぉ!!」




鎌瀬山の激昂。


その表情を、気迫を見て、僕の心は喜色に揺れる。


鎌瀬山の成長を感じられる。以前までの彼なら、自分以外の誰かの為にここまで怒ることは出来ない。




自己保身に長けた格好つけ。


英雄の素質なんて微塵も無く、『英雄』という看板を背負っただけで調子にのっていただけの存在。




それなのに。


彼の心には英雄としての素質が作られつつある。


人が死ぬ戦火に身を置いて、力なき者に頼られて。


彼の心には英雄の種は蒔かれた。




今はまだ二人の少女の前でしか鎌瀬山は英雄であろうとしないかもしれない。


けれども近い将来。彼は自他共に認める英雄へと昇華するだろう。




まったく。




「帝国なんて踏み台に過ぎないんだよ鎌瀬山」




鎌瀬山。君の育成は本当に面白い。




「帝国は君を育てるための土台に過ぎない。そもそも勇者が多すぎたし、旧体制の大国は邪魔だからね。はっきり言って勇者は僕等王国だけで事足りるし、人族はいずれどこかで纏め上げないといけない。前者に関しては減らせる分は減らすし、特に九図ヶ原、呂利根は後々残せば邪魔だし君と芽愛兎二人のレベルアップ素材として役立ってもらった。後者は考えるまでもない。人は減ったが、国力は他の国に比べ帝国はまだ圧倒的だ。プラナリアという僕等に恩があり勇者の言いなりに出来る傀儡国家があるだけで纏め上げる楽さは大分変わる」




「太郎……何言ってんだ……?そんなやり方、正義が許すわけねぇだろ」




「英雄王の許しが必要なのかな?僕のやりたいようにやるだけだよ」




「ふざけんじゃねぇ。初歩でこんだけの犠牲が出てんじゃねぇか。俺らは人族を救うために呼び出されたんじゃねぇのかよ」




「その通りだ。でも犠牲は必要だろ?」




「てめぇ!!」




僕の胸倉を掴む手は力を増していき、鎌瀬山の瞳は怒りに満ちる。




犠牲。




人族の犠牲になろうとしていたニーナのことが彼の頭を過ったのだろう。


そして、鎌瀬山はもうニーナのような犠牲者を出さないことを自分に誓ったのだろう。




「安心してよ鎌瀬山。僕が言う犠牲っていうのは今回の強化兵たちやニーナ達みたいな、そんな犠牲じゃない。……どちらにせよ、人族の多くは死ぬ。戦争にしても、何にしても、僕ら勇者が居るだけで救える命は有限だ。目の前にある命しか救えない。なら、視界外で消える命を犠牲としてなんらかに役立てた方がいいだろう?僕が言っているのはそういう犠牲だ」




最も、少し動けば視界に入れられることの出来る命を助けるか犠牲で切り捨てるかは微妙な所だけどね。


得になるなら犠牲にするし、損になるなら助ける。どうでもいいのは、そのままおさらばだ。


無意味なものを救っても、労力の無駄だしね。




「だとしても、答えになってねぇ。てめぇが動けば救えるはずの命はあった筈だ」




「わからないかな、鎌瀬山。犠牲として切り捨てた方が僕にとって、僕等にとって得だった。ただそれだけの話だよ」




鎌瀬山の瞳から怒りは消えない。




「君の無力を僕にあたるなよ、鎌瀬山。……簡単な話だ。僕が取り零した命を君が救えばいいだけだ。至極簡単な話じゃないか」




「くそがッ」




鎌瀬山はまだ何か言いたげではあったが、僕の胸倉を掴む手を乱暴に離す。


彼の話は他力本願もいいところだと、彼自身も気付いたのだろう。




僕が助ける気がないなら、自らで助ければいいのだから。


その力がないことは、鎌瀬山自身の問題だ。


だからこそ、そんな弱い鎌瀬山を育成してあげてるんだから文句より感謝してほしいんだけどね。




「今はてめぇの敷いたレールを歩かされてるかもしんねぇ」




鎌瀬山は呟く。




「けどな、いつまでも俺がてめぇの思い通りになると思うんじゃねぇぞ」




「僕もそうなってほしいと願っているけどね」




「くそがッ。てめぇはやっぱり嫌いだよ」




鎌瀬山は舌打ちして、背を向け、おそらく鎌瀬山はここへ来た理由であろう言葉を告げる。




「……プラナリアから招集命令だ。俺らが公国へと向かう打ち合わせと……不動青雲の野郎が公国から帰還した。公国の現状を奴から聞く。てめぇもさっさと来い」




そう言葉を告げ、鎌瀬山はこの場を去った。




背後から聞こえる復興の喧騒がうるさく、日照りが眩しい。




「さて、次は公国か」




未だ、公国の領土は半分占拠されたままで、英雄王も蜜柑も向こうにいるし、幼女は捕らわれたままだ。




ここで、行方知れずになっていた不動の帰還。


革命が終わった直後に、本当にタイミングよく帰ってきてくれたものだ。




「まったく、蜜柑がいながら公国が片付いていないなんてね」




僕の昔からの従者が頭に過り、苦笑する。


彼女には少しばかりは贔屓目に期待はしているし、もしかしたら革命の最中に公国の方を片付けてきてくれるかもとは、微かに期待していたけど。


砂の粒ほど期待はしていたけど、まったく、他人に期待するっていうのはどうも上手くいかないものだね。

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