第51話遅れた到来
クルルカとルミナスは北西に向け、駆けていた。
己の姿を隠す透玉の腕輪。
奇襲や逃走にもってこいの能力を持つ神遺物を利用してクルルカ達は北西に向かう。
最初、これが何かを身に着けていると機能を有さない事にルミナスには少しの抵抗があったがそんなわがままを言っていられる状況でもなく、クルルカに言われるがまま服を脱ぎ、クルルカと手をつなぎ大地を駆ていた。
「あー、これはダメですね」
「何がですの?」
「敵さんにバレバレですね、これ」
「なんですって!?」
確実に自分達の方向に進行してくる多数の魔素の存在。
それを感じ取ったクルルカは冷や汗をその額から垂らしながらルミナスに告げた。
「この神遺物を使えばバレないんじゃなかったんですの!?」
「敵さんの方が一枚上手だったようですよ。私も自身無くしてるんですからそんなに責めないでほしいですよー」
「これじゃあ私が裸になり損じゃありませんの!!」
「あ、そっちですか」
落胆の色を示すクルルカとルミナスだが、囮役に出た彼らは十分に敵を惹き付けてくれた。
そう思っている。
敵の数はおおよそ五名。最初と比べてかなり少ない。
だが、追い付かれれば今の二人では勝てない。
そう思える膨大な魔素を放出した人形が迫ってきていた。
死にもの狂いで駆け、なんとか基地の一番端、大きく壁に穴が開いた場所にたどり着く。
「あそこですね……」
クルルカはたどり着くと逃走を止め、瓦礫の傍に駆け寄る。
その唐突の行動にルミナスは不思議そうな顔をする。
「何がですの?」
クルルカが瓦礫を動かすとそこには半身が削れた血だらけの鬼が存在した。
「生きていたのですね、ドゥーン……」
「がはは……なんとかな。なるほどな、神遺物を使ったのか。がはは、眼福だ」
「冗談を言う元気はあるんですね」
「二人の美女の裸を見られればな、男は誰だってそういうぞ、がははは」
何もなかった空間から現れた裸の二人を視界に捉えて笑ってみせるドゥーンだが、明らかに無理をしていた。
その笑みもただの、やせ我慢だ。
余りにも重症過ぎるその傷にもう手遅れだと一目みて理解できてしまう。
スペックレベル6に位置するミルの複合魔術。
如何に頑強な肉体を持っていようともあの一撃を直撃してしまっては耐えられるはずもなかった。
結果、肉体は半壊し、見るも無残な姿に成り果てた。
「ドゥーン、貴方酷い傷ですわよ!」
駆け寄り身体に触れる。
そして、術式を構築し始める。
ルミナスは不得意ではあったが低位の回復魔術であれば使うことが出来た。
痛みだけでもとれたらとルミナスは考えての行動だがそれを大きな手によって止められる。
「ありがとよ……だが、もういい。魔術で治せるレベルじゃねえさ」
もしここに勇者である幼女がいたのであらば話は別だったかもしれない
彼女の癒しの力であれば、どんな重症でも治す事が可能だった。
だが、この場にそれほどの卓越した治癒の使い手は存在しない。
ドゥーンはもう数分ももたず死に絶えてしまうだろう。
ドゥーンは首を動かし、クルルカの方に向く。
そして口を開く。
「大将待ってたぜ……早く射ってくれあれを。あの野郎は自分が使用する権利を所有してねえとかほざいてよ」
あの野郎とは芽愛兎の事で間違いなかった。
瀕死のドゥーンを見つけた芽愛兎、異常な再生能力を持つようになる強化薬である注射を射てばまだ助かる可能性がある。
そう考えたのだろう。
だが、芽愛兎はあくまでこれをクルルカ、そしてルカリデスに渡すように太郎に頼まれていたのだ。
これの利用目的を分からぬままドゥーンに使うわけにはいかなった。
だから芽愛兎はドゥーンにクルルカを待つように言った。
そして、クルルカに北西に向かうように言ったのだ。
「これを……射てば助かります。けど、貴方自身はどちらにせよ死にますよ。良いんですか……本当に?」
握っていたそれを、クルルカは見ながら呟いた。
クルルカの言葉通りだ。
クルルカは知る由もないが、この強化薬は、帝国勇者――
クルルカはそのことを知らない。
知らないが、太郎が持たせた強化薬というドーピング剤を打った者の末路がどうなるかなど、想像がつく。
これを射ち込まれたモノは己の身体の中で取り込んだ複数の魔族の血と身体の主導権を奪い合う事になる。
その時点でこの血に肉体が耐えられないのであれば
もし適正が有り、耐え抜く事が出来たのであれば帝国勇者、
そう理論上は。
この強化薬を使い、肉体を、自我を保ったモノは一人も存在しなかった。
たった今、強化薬を使ったルカリデスも肉体が耐えられた訳ではない。
薬に耐えきれなかった身体は崩れ落ち、彼は一度、確かに死んだ。
普通ならそこで終わりだ。
死んだものは生き返る事はない。
しかし、彼は肉体をまた一から造り、そして新たな生命体として生まれた。
あれは明らかなイレギュラーであった。
誰も想像すらすることもなかった結果だ。
何故なら、強化薬とはそういったモノではないのだから。
既存の力を組み合わせ、強くなる。
それがこの強化薬、蠱毒の血の力だ。
決して新たに生命を生み出し、未知の力を顕現させる類いのモノではないのだ。
彼の結果は例外といっていい。天文学的数値で起きた奇跡でしかない。
だから、ドゥーンがこの強化薬を使っても同じようになるのはあり得ない。
待つのは、死か自我を失った化け物に成り果てるか。
その2択しかなかった。
「がははっ可能性があるなら賭けるのが男だ。やってくれ」
その可能性がどれだけあるのか?本当にあるのか?それすらも分からないのにドゥーンは迷う素振りを見せることなく、即決した。
二人の会話を聞き、ルミナスはクルルカが手に持つその薬がどれだけ危険な代物なのか理解してしまう。
だからこそ、二人の会話に口を挟むことも出来ない。
「分かり__」
だから、その会話に割り込んだのはトゥアイとテラファスであった。
「此方は外れかぁー」
「あららーうちとやりあってた男、死にかけやん。ってなんであの二人全裸やねん!!」
レベル5のトゥアイ、そしてレベル4のテラファス。
その後ろには三名のスペックレベル2の人形達がいた。
「こんなに速くっ……」
「まずいですわねっ」
「なら、とっととよこしなっ」
ドゥーンはその二人に気をとられていたクルルカの手から注射を奪い取る。
「あっ!」
「がははっ……わりいな大将!もう我慢しきれなかったぜ」
豪快に笑い。
そして首筋に注射を射し込んだ。
瞬間、ドゥーンの巨体が大きく脈動を起こす。
筋肉が痙攣を起こし、皮膚が裂けていく。瞳が赤く充血していき、急激に成長した骨が肉と皮を貫いた。
「アアァァアァァァアァァァァァァァァァァァッ!」
身体が人の姿から化け物へと成り果てていく。
肥大していく、筋肉。
その成長の仕方は歪の一言につきた。
指向性すらおかしく只膨れ上がり、人の姿を失い、只の肉の塊へとなっていく。
細胞の異常なまでの活性。
ドゥーンは今、蠱毒の血と主導権の奪い合いをしていた。
「うわー何々!凄い事になってるよ!」
「うえーえぐいなぁ」
「……ッ! ルミナス、とっとと離れましょう。ドゥーンに気をとられている間に」
「ドゥーンを置いていくんですのっ?」
「あの薬を使っては味方も糞もないんですよ……もうドゥーンは只の周りを壊す化け物でしかないです……」
「…………分かりましたわ」
諦めのつかなさを若干表情に残しつつ、ルミナスはクルルカに連れられてこの場から離れようとするが、それをトゥアイ達が見逃すはずはない。
が。
「テラファスー、あの人たち逃げようとしてるっ」
「あー本当や。面倒やなぁ。うちは此方の化け物に興味があるっていうのにさ」
「私も竜の人がいなかったからこっちの大きいのがいいな」
「いや、こいつはうちがやる」
「トゥアイがやるっ」
「うちや!」
「トゥアイなのっ」
二人が口論を始めてしまう。
お互いバトルジャンキーの性質をもった人形であるためか、どちらも強者を求めてしまうからだ。
埒のあかない口論。
それに終止符を打つために先に折衷案を提案したのはテラファスの方であった。
猪突猛進のトゥアイと違い、テラファスは状況を冷静に俯瞰できる人形であった。
だから主人である呂利根の命令を遂行するにはドゥーンを含む魔族全員を殺さなければならない事は充分理解していたし、トゥアイがこうなったら譲らないのはよく知っていた。
「せや!なら先に逃げた二人を殺して後からこのでかぶつを殺すってのはどうや?逃げた片方を殺したら此方に戻ってきてこいつとやっていいんや」
「残ったあれは早い者勝ちって事だねっ!いいよっトゥアイ負けないからっ」
「成立や!ほな、ゲーム開始や」
瞬間、駆け出すトゥアイとテラファス。
当然、スペックレベルが高いトゥアイの方が速さが上だ。
トゥアイは瞬く間にクルルカ達に追い付く。
「此方に二人とも来ましたわよっ!」
「あーっこれは詰みですねっ。私達お仕舞いでーすっ」
駆けながら叫ぶクルルカ、既に彼女は自暴自棄になっていた。
「諦めるの速いですわよっ!まだ分からないですわっ」
「もう焼けぱっちでやるんで私から離れて下さいや」
「どういうことですの?」
「こういうことですよ……」
クルルカは透玉の腕輪にそっと手を触れた。
その直後、瞳を紅く充血させ、苦しそうに悶え始める。
そして、尻尾、牙、角、牙、翼が一回り肥大化し始める。
理性を失った紅瞳。
身を守るように発達した竜鱗。
肥大化した翼。
竜へと身体を変化させていく。
「これはっ……」
「ウルゥゥゥァッ!」
咆哮をあげるその姿はいつしか太郎と戦闘した時と同じ竜化した姿であった。
理性を失うことから太郎に使用を禁じられていたが、四の五の言っている場合ではなかった。
「_っ!?」
ルミナスから苦悶の声が漏れた。
それもそのはず、突然のクルルカからの攻撃で自分の身体を吹っ飛ばされた。
その一撃でクルルカの言っていた事を理解する。
竜化の影響で竜の血に酔ってしまっているのだ。
竜化による暴走は血が純粋な血統な者程酷いものになってしまう。
クルルカもそれに当てはまり、族長の直系の娘であり透蜃竜の血が色濃く流れていた。
それを透玉の腕輪で強引に目覚めさすとなると、暴走状態になってしまうのは自明の理であった。
「これは、相当ですわね……」
ルミナスはクルルカを見てそんな印象をもった。
竜鱗による装甲で全身を覆われたその姿は正に竜であった。
竜化と言っても、部分的にしかならない者が大半でクルルカのように限りなく竜に近づく者は限りなく少なく、稀少な存在であった。
だからこそ、その分だけクルルカは竜に近づいていく。
「見て見て!あの人、竜になっちゃったよ!」
「ほー、ヤバそうな感じやな」
追い付いたテラファスに嬉しそうにトゥアイが話しかけていた。
相変わらずこの二人に緊張感と言ったものは感じられなかった。
しかし、その数瞬後、テラファスの口から驚嘆の声が漏れた。
「はぁっ!?なんやどでかい奴も追いかけてきよった!」
テラファスが振り返った先には、地響きを鳴らしながら迫るドゥーンもとい、化け物の姿が入った。
爛れた肉の塊に発達した骨が全身に突き出ており、その姿にはドゥーンの面影が一切感じられなかった。
そして、激突し合う両者。
紅竜の豪腕が化け物の身体へと撃ち込まれた。
肉が弾け飛ぶ。
クルルカは血で身体を濡らす。
ドゥーンは悲鳴とも絶叫ともいえない獣の唸りをあげた。
「貴方達が闘いあってどうするんですのっ!?」
ルミナスのつっこみが天高く響く。
全くその通りである。
強化薬を使ったり、竜化した結果が見方同士の潰し合いではなんの意味もない。
何とか止めたいルミナスであったが、吸血鬼は朝は行動に強く制限を受けてしまい、この暴れ狂う二人の間に入り込む事なんて事は死を意味していた。
そんなルミナスに対して二人の人形は化け物同士の戦いを傍目に会話をしていた。
「なんやこれ。うちらは放置か?どういうことやねん!」
「テラファスが私に譲らなかったせいだよー」
「それは関係ないやろ!そもそも見方同士で何潰し合ってんねん!馬鹿かあいつら!?」
「んーでもまずいよー。このままじゃあたし詰まらないよー」
「それはうちもや!あんだけ身体を疼かせておいて放置なんて許せるわけあらへんっ!」
「なーら、どうする?」
「……どっちをやりたいんや?」
「どっちもって言ったら怒るよね?……じゃあわたしは大きいのでも相手しようかなぁ」
「なら、決まりや。あの闘いに交じるで!うちらが各自あいつらを殺せば良い話や!あのまま潰し合って終わりなんてつまらんわっ」
あくまで敵との闘いを優先する二人。
バトルジャンキーで、呂利根の命令を忘れているのではないかと思ってしまうが。
そこはテラファスはしっかりとある程度相手の力量を把握しており、十分勝算があることを理解していた。
即座に術式を構築し始めるテラファス。
魔術使としての高い性能にバランスの良い身体能力。
テラファスはレベル4の中でも最もレベル5に近い存在と言えた。
その彼女が構築した術式は土の第六階梯。
「
大地が胎動し、クルルカとドゥーンの周囲に数十メートルにも及ぶ壁がそそりたった。
トゥアイはそれを足場に一気にドゥーンの懐に入り込み、大剣を振るう。
血飛沫が舞う。
蠢く大剣はその歪に接合された『少女達』が歯を打ち鳴らし、肉を喰らい、骨を咀嚼していた。
「皆良かったね!久しぶりのお肉だよぉー」
笑顔を浮かべる少女。
それは常軌を逸しているようにしか見えなかった。
呂利根により造られた醜悪な兵器。
中途半端な兵器にされた少女達の飢餓感がドゥーンを食らう事を求めて止まない。
「あれ?」
しかし、それを超える速度で理性を崩壊させたドゥーンの身体が修復されていく。
「凄いっ!直ぐ治っちゃう!」
異常なまでの回復速度。
勿論、デメリットは存在した。
無からの再生が存在しないのは当然で、この再生には膨大なエネルギー、言わば生命力を瞬時に消費して生き長らえているに過ぎない。
この状況が続けば直ぐ再生力は枯渇して死に絶えてしまうだろう。
苦しみもがくドゥーンはなんとか振り払おうとするもトゥアイの速さについていけてなかった。
一方クルルカはテラファスを押していた。
「なんや、こいつっ!どんどん速なってるやないかっ」
クルルカら暴走した竜の血が更に深くに眠る竜の血を呼び覚ます。悪循環とも言える状況になっていた。
しかし、その結果、本来なら実力で劣るはずのテラファスに接敵する事が出来ていた。
「ウルゥゥゥ」
口から高エネルギー源を察したテラファスは咄嗟に魔術を発動する。
重厚な鉄板が幾重にもクルルカとテラファスの間に聳え立つ。
その瞬間、クルルカの口から放たれた紅の熱線。
それは瞬時に鉄を溶かし貫いた。
そして、街を吹き飛ばすほどの高エネルギーの一撃がテラファスを襲う。
テラファスは僅かに与えられた時間で簡易な術式を発動させた。
地面を凹ますだけの魔術だ。
凹ましたのは自分の足場。
紙すれすれにクルルカの一撃が頭上を通り抜けた。
轟音がテラファスの遥か後方で鳴り響いた。
町の一部が軽く吹き飛んだが、特に気にした様子は無い。
「あれは即死級やな。はぁ、堪らんなぁ」
自分を壊しうる一撃。
それを見て戦闘狂である彼女は口を歪ませる。
狙った獲物がまだ生きている事を不思議に思いつつクルルカは竜の口に再び、光を集中しだす。
その第二劇を感じ取ったテラファスは一気に距離を詰めるために駆け出した。
照準を定める前に距離を詰めてしまおうという魂胆だ。
当然クルルカも敵が接近してくるのをちんたら待っているはずがない。
第二射目を即座に放出した。
その一撃は溜めが短時間だった分、威力は低かったがそれでも十分の火力を誇った一撃であった。
高速で飛来するレーザー光線。
普通なら避けられるはずがない。
しかし、テラファスはそれをなんなくと避けた。
テラファスにとってみれば、飛んでくる方向が分かる攻撃など恐怖では無かった。
クルルカの口の方向からおおよその位置を予めよみ、発射と同時に避ける。
言ってしまえばそれだけの事。
しかし、それは常人であれば恐怖ですくみ、実戦の中で今の動きをこれほど簡単にそして平然と成し遂げられるのは普通の感性を持たない、感情を完全に固定化されてしまった人形だからこその動きであった。
であるからこそ、クルルカは自分のブレスを避けられた事に生物として驚きが隠せなかった。
紙一重の回避の為、高温で半分焼け焦げながらも、それでも突き進んでくるその姿は正に悪鬼であり、一瞬クルルカは怯んでしまう。
その隙をテラファスが逃すはずがない。
即座に腕に刻まれた刻印に魔素を流し込む。
浮かび上がる紋様はテラファスの得意とする土の魔術術式。
その中でも貫通力に特化した一撃。
テラファスの右腕が幾重もの刃となり、クルルカの竜鱗とぶつかり合う。
その鋼鉄の刃は止まる事無く、只先へと伸長していく。
竜鱗が僅かに剥がされつつ、後ろにそのまま押し飛ばされていくクルルカ。
「ウルゥゥゥァアアアアァッ!」
怒りの咆哮がこだまする。
眼の瞳は更に赤く深くなっていき、身体は更に巨大化していく。
これ以上、竜化を維持すればはクルルカが元に戻れなくなる可能性があった。
しかし、それを彼女の意思で止めることは叶わない。
既に彼女は血に完全に飲み込まれてしまっていた。
「あれで貫けないとはなぁ。まじで堅いなぁ。これはぞくぞくしてまうで」
「ウルゥゥッ」
クルルカが大きく翼をはためかさせる
そして、大きな巨体を飛翔させテラファスに突っ込んだ。
テラファスは地面から鉄の壁を高く伸ばし、飛来するクルルカを突き落とそうとする。
その鉄の塊をクルルカは気にした様子もなく、直進する。
直撃した鉄壁はへし曲がり、この程度ではクルルカが止まらない事をテラファスは理解する。
一度距離をとるために、その伸びた鉄壁を駆け、空に跳躍した。
クルルカは突然の接近に攻撃が間に合わず、お互い至近距離で只すれ違う。
テラファスはすれ違った直後に身体を反転させ、クルルカの背を捉える。
魔素を流し込んだ腕は既に鋼の刃へと形状変化しており、その刃は粒成長のように幾重にも刃が伸び、飛行中のクルルカの背に直撃した。
クルルカは
「そうでなきゃなぁ」
テラファスは着地してクルルカの方へと振り替える。
クルルカは獣じみた理性なき鋭い眼光をテラファスに向けていた。
戦況は硬直状態といえた。
その状況下でどうすることも出来ずに只立っているルミナス。
ドゥーンは当然、クルルカの状態すらも危険な域に達している事になんとなく理解していた。
しかし、自分にあの二人を止める手段もなければ、戦闘に混じる実力も持ち合わせていなかった。
「どうすればっ……」
下唇を噛みながら、悔しそうにクルルカ達の闘いを見つめていた。
その闘いがふと止まった。
「どう……したんですの?」
クルルカ、ドゥーン、テラファスにトゥアイは闘いの最中だと言うのに、手を止め、空を見上げていた。
ルミナスもそれに釣られて空を見上げた。
彼女らは一瞬空に何かを感じた。
言い知れない何か。
それは、姿を現す。
快晴な空。
雲一つないその空から何かが落ちてきていた。
「あれは……人?ですの?」
翼も持たぬ只の人間が此方に落下してきている。
そう認識した直後、轟音と共に大地に激突した。
その人間は砂煙の中、着地の反動を受けた様子もなく平然と立ち上がる。
人間は黒い髪をたなびかせ、黒い靄を纏いながらゆっくりと歩き始めた。
その場にいた誰もがその動きに注目していた。
漆黒の紋様を浮かべた腕を前に掲げる。
二次元とも三次元とも区別のつかない、本来、この世に存在することのない形で漂う『現象』とも言うべき不可思議な微粒子。
それが周囲に広がり、光を遮断していく。
「さてと、終わらせようか」
東京太郎が
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